第120話 “同類”であると言うシグナル
「それじゃあさ、スサノオは――」
「そっ、ちの、金属、の人は――」
カグラとカイルは仲良く身内話に華を咲かせた。それを聞いているソーナは知れずと情報が集まっていくが、同時に輪に入れない自分を少しだけ悔しく思う。
隊の情報をおいそれと洩らす事は規則に反する。故に耳を傾けるに留めた。
「そう言えば、カグラって何で仮面を着けてんだ?
「……素顔、見ら、れた、くない」
「何で?」
「カグラ、は【土蜘、蛛】。皆と、は違、う」
「それを言うなら俺の知ってる人は皆違うぜ! クロエさんは目が見えないし、ボルックは全身金属だし!」
「そう、言う、事じゃ、ない」
「そう言う事だろ? 別に気にしないって! なぁ、ソーナ」
「そうね」
ソーナはサウナの暑さの中、どうでも良い事には少ない言葉数で返答する。
カイルの奴は……ずっと喋ってるわね。馬鹿は暑さにも鈍感なのかしら。
「ってことだ! 仮面とっても大丈夫だぜ!」
「……びっく、りす、るよ?」
犬のように構ってくるカイルにカグラは、この場だけ折れると仮面を外した。
カグラは主眼二つの他に、額に二つ、こめかみに二つの計四つの小さな玉瞳がある幼い顔立ちをしていた。
「なんだよ。めっちゃ普通じゃん」
「そうね。可愛い部類よ」
「…………あ、あり、がと」
恥ずかしそうにカグラは仮面を戻すと立ち上がる。
「あ、もっと見せてくれよ! その額の玉みたいのなんだ?」
出ていくカグラにカイルも後を追って退室。ソーナも程よく熱の感覚を掴めたのでサウナルームを後にした。
「水、風呂。入る」
「え? 折角暖まったのにか?」
「言うなら今、アタシ達の身体はオーバーヒート状態よ。ある程度は冷やさないと感覚がおかしくなるわ」
三人はトコトコと水風呂へ行くと、
「あら、カイル」
「ゼウスさん」
水風呂に浸かるゼウスが居た。側には疲れた様子で介抱を終えたサリアが嘆息を吐く。
「マスター、気をつけてよ」
「ごめんなさいね。それにしても流石はテンペストね。あらゆる効能が完璧に機能しつつ湯の温度や感触も万人が受け入れやすいモノに仕上がってる。一体どこの秘湯を参考に――」
ぶつぶつと自らが知らぬ“知識”に興味を抱いたゼウスは長く一人の世界に没頭するので放置安定。サリアは立ち上がった。
「カイル、マスターを見ててね。アタシは露天風呂にでも行くわ」
「あ、俺も後で行く!」
「そっちの二人は、“眷属”カグラと――」
その時、サリアとソーナは互いに電流が走った。それは物理的なモノではなく、同じ悩みを共有する“同類”であると言う
「貴女……」
「サリア……バレットさんですね。後で……お話を宜しいですか?」
「ええ」
アタシ達にしか出来ない話が沢山ある。直感でそう感じた二人は今は水風呂と露天風呂へ別れた。
「あースッキリした」
「ええ。そうね」
「良い交流が出来たわ」
「湯の成分は……僅かにアルカリ成分が入ってた……つまり、火山付近の――」
カイル、クロエ、サリア、ゼウスは各々での収穫から心身ともにさっぱりとした雰囲気で『温泉館』を後にする。
後ろではアネックスが、またのご来館を、と頭を下げていた。
「帰還するぞ、ソーナ二等兵」
「ハッ!」
その近くではジャンヌと共に別の道を歩いて行くソーナがカイルの眼に映る。
「また入ろうぜー! ソーナ!」
「……」
「返答を許可する。答えてやれ」
ジャンヌの許可にソーナは振り返ると、
「――次会う時まであんたが死んでなかったらね」
そう言ってジャンヌと共に『ギリス』陣営へと帰って行った。
「ソー、ナは、素、直じゃ、ない」
「ははは」
カグラもアマテラスと出てくると、その後ろ姿を見る。
「カグラも帰るんだろ?」
「う、ん。仕事、ある」
「今度はウチのキャンプに来てくれよ! 他の皆にも紹介したいからさ!」
きっと、他の面々とも仲良くなれる。カイルはそのつもりで提案したが、
「カグラ、は仕事、で『遺跡、都市』、離れる。戻る、の、一週、間後、くらい」
「ええ!? そうなのか?」
「う、ん」
「カグラ」
すると、アマテラスが二人の会話に割って入った。
「責務はスサノオに替わって貰っても構いませんよ?」
「カグラ、なら、確実。皆、護る。だ、から、ヤマ、兄と、スサノオ、姫様、の側、に置い、て」
誰が適任なのかを理解してるカグラは、『遺跡都市』から離れる事は受け入れていた。
「そっか……それなら、一週間後はまだ居るかもしれないからよ! その時は寄ってくれよな!」
「う、ん。そう、する」
カグラに友達が出来た様子を微笑ましく眺めていると、
「帰れるのか?」
「あらヤマト」
「ヤマ兄」
ヤマトが散歩でもしていたかのように現れた。
サリアは前に敵意を向けると、逆に威圧される事を覚えていただけに下手に感情は向けない。クロエは、
「――――」
珍しく驚いていた。常に周囲へ散りばめているアンテナを全てヤマトへ向けざる得ないほどの存在感。
この存在感は、まるで――
“弱き者の創意工夫、実に見事です。ですが“人の領域”を越えなければ私に傷をつけることは叶いませんよ? クロエ・ヴォンガルフ”
【武神王】と約束手形(組手)をした時に感じた威圧と同じモノだ。
「【水面剣士】クロエ・ヴォンガルフ」
「あら……私の事を知ってるの?」
「知らぬ方が無理と言うものだ。しかし、私と斬り結ぶには質が足りない」
「……そうね。貴方の言う通り」
クロエもヤマトは互いに圧を飛ばし、この場で斬り合ったらどうなるかの想定を終えた。結果は――
「5回中4回、私の負け。でも1回は貴方の首を落としたわ」
「圧の飛ばし合いなど底の無い……“上部”だけの果し合いに過ぎん」
「そうかしら? 私はその“1回”を現実に持って来れるわよ?」
ヤマトはクロエの言葉に直感めいた確信を感じる。
ハッタリではない。もしこの場で仕合う事になっても問題ないと彼女は身体をヤマトへ向けた。
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