第137話 『ガリアの封印』終式
地真。お父さんをよろしくね。
私は先に行って貴方達を待ってるから。
『…………』
『
しかし、種が違えば、その身が動く事によって起こる現象も圧倒的に違ってくる。
「…………」
本来ならば大聖堂など吹き飛んで居るハズの『
「……『龍』の一撃。『聖痕』でも止める事が精一杯ですか……」
【聖人】セルギウスの死因となった六つの傷痕。それはセルギウスの志を継ぐ者達――『六人』が代々『聖痕』として受け入れていた。
『こちらは初めてだ。『
『聖痕』は、セルギウスが抱えていた死そのもの。発動すればその死が進む変わりに、ソレを抑える為の膨大な魔力を使う事が出来る。
キングの身体を這う様に『聖痕』が浸食していく。
「『射光』」
先ほど地真の身体を穿った攻撃を見舞う。しかし、
『…………』
『龍』の鱗は一つ一つが魔力を纏う。水に砂糖を溶かすようなモノでダメージは通らない。
「『光刃』」
地真を傷つけた光の斬撃。人龍状態の地真ならば通った攻撃だったが『龍』と成った彼には『射光』同様に通じない。
『…………本気か?』
「……なんの事でしょうか?」
地真は重々しく一歩、キングへ踏み出す。
「『光鎖』!」
光が鎖となり、地真の身体を拘束する。だが、地真は圧倒的な魔力を周囲に放つ事で霧散させた。
この程度では……彼を――
キングは更に『聖痕』の浸食を早め魔力を解放する。
それに伴い、口の端から血が流れ、死が身体を蝕んで行く。その様子は地真が見ても危険だと解る程だった。
『……死ぬぞ?』
「『龍』を止めるのです。私一人の命では安い方でしょう?」
“私が貴方に殺されても、私は貴方を殺さない”
地真は先ほどキングが口にした言葉を思い出す。
信念を持つ者は侮れない。多くの血と鉄を踏み越えて来た地真は、命を賭ける者は言葉を形にすると知っていた。故に――
『待ちはしない』
地真は漏れ出る自身の魔力を引き寄せる様に体内の一点に集中し、遺跡都市を消し飛ばすほどの『
「それを――待っていました!!」
『!!!』
照射された『
「“
『聖痕』によって封じていた魔力と地真の『
「…………」
「どうしたの? マリア」
「キング様の『聖痕』が【主塔】へと還りました」
「ちょっと、それって――」
マリアは己の『聖痕』を通じてキングがこの世から去った事を認識していた。
『――――』
大聖堂は静寂に包まれる。
キングは消滅し、“珠”を護る者は居なくなった。同時に、ソレを奪う者も。
何も見えず、何も聞こえん……身体も動かんか……
地真は『光檻』に拘束されて身動き一つ取れなかった。
『光檻』は対象者の動きを完全に拘束する『光魔法』。それは物理的なモノではなく、五感と肉体が世界を認識すると言う意識を全て停止させる。
『龍』を拘束する程の魔力をキング一人では用意出来なかった。故に彼は地真の魔力も利用したのである。
しかし、ソレには正面から『
【光人】キング。お前の信念は『龍』を越えた。
キングは最後まで地真を殺す選択を取らなかった。“再始動”で行った魔法が攻撃系の魔法であれば、地真の命に届いたかもしれない。
……俺も選択の時か。
こうなってしまったら地真も手段を選んではいられなかった。今しかチャンスはないのだ。
“願いを叶える珠”を父の元へ持ち帰る為に――
俺も信念を通す。すまないな、キング。お前の気遣いを無駄にする。
地真は“願いを叶える珠”を意識しながら『ガリアの封印』を発動する。
『ガリアの封印』……対象は“願いを叶える珠”。条件は――『王龍天、以外に“珠”を使用する事が出来ない』
ソレは対象に特定の条件を一方的に押し付ける事で、その他からのあるゆる干渉を封じ込める、最古にして最上位の『封印魔法』。
しかし、その代償は――
やはり……『龍』一体の魔力では存在全てが必要か……
地真の身体は魔力へと分解されていく。
『ガリアの封印』は“対象に付与する条件”の割合から使用者の魔力を強制的に徴収する。故に今回必要な魔力は、王地真そのものだった。
タオ、スイレン、ナタク、ワンリン。親父を頼む――
地真は眼を閉じるとその身体は魔力となり軌跡となって完全に消え去った。その時、地真の目の前には――
――お袋、約束は護ったよ。
母が微笑む様を見た。
そして『ガリアの封印』は“終式”となり“願いを叶える珠”は王龍天以外には無価値な代物となった。
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