第138話 お前達の勝ちだ

「…………」

「やれやれ。コイツはしてやられたよ」


 スイレンは片手を止血し、スサノオから簡単な応急措置を施されると、共に大聖堂の中へ入った。

 中は『龍』が戦ったにしてはさほど荒れていない。しかし、戦った当人二人の姿はどこにも無かった。あるのは――


「……“願いを叶える珠”……」


 ステンドグラスの下に設けられた祭壇に置かれた“珠”へスサノオは近づくと持ち上げる。そして、


「ほらよ。お前達の勝ちだ」


 と、スイレンに差し出した。“珠”には『ガリアの封印』が施されており、王龍天以外には無価値の代物として“封印”されている。


「……勝ち……なのですか?」

「目的を達成したのはお前らの方だよ」


 そこへ、アマテラスを抱えたヤマトが大聖堂に入って来た。


「……スサノオ。キングは死んだか?」

「『龍』と相討ちだ。大した奴だぜ」

「そうか」


 ヤマトは近くの列椅子にアマテラスを寝かせるとその傍にスサノオも寄った。


「そっちは?」

「中断だ」

「っことは、【千年公】にやられたか」

「ローハン・ハインラッドと『御前仕合』をやった」

「アイツとねぇ。どうだった? 色々と小賢しいヤツだったろ」

「負ける可能性が過った」

「おいおい。マジか」


 『星の探索者』の元に居る頭目は無事……

 スイレンは“珠”に残った地真の思いを抱えると、重傷の身を引きずる様に、背の『炎剣イフリート』と共に龍天の元へ向かった。






「ホントだ! ホントに爺ちゃんの言う通りにイメージしたら“火”が出来た!」

「カイルよ、お主はイメージに囚われ過ぎなのだ。形ではなく、熱から火に入る事で物体に火をつけ、それを操れば良い」

「アタシ達は平然と『炎魔法』を使えるから火を直接出すことに囚われてたのね」

「サリアの考えも悪くはない。寧ろ、そちらの方が正当と言えるだろう。しかし、時に正当が苦難となる者もおる。その者へは別の道を示してやらねばな」

「スゲー! 爺ちゃんありがとう!」

「カイルよ、精進せいよ」

「おう! あ、ボルック! 何か燃やして良いモノある!?」

『薪を燃やすか? そろそろ炭を補充が必要だ』

「やる!」

「おー、カイル……『炎魔法』を使える様になったか?」

「あ! おっさん! 爺ちゃんのおかげで――って、どうしたんだよ!?」


 龍天の爺さんと楽しく話している面々の所へ、ヤマトに斬られて血を滴らせたオレ帰還。『音魔法』で防音してたクロエと途中で合流し肩を貸して貰っている。今は、マスターのメディカルベッドへ直行中だ。


「友よ」

「ちょっと来客対応をしただけよ、テン。ゆっくりしてて」


 全然、ちょっとじゃねぇけどな。

 マスターはそう言うが龍天の爺さんは色々と察してるな。そして、次にオレを見る。


「ローハンよ、ヤマトか?」


 龍天の爺さんの言葉にどよめきが走る。

 カイル以外はオレの状況とアマテラスとマスターが交戦した時の膨大な魔力を察知してある程度は解っていた様だが、それでも、である。


「えっ!? おっさん、ヤマトと戦ったのか!? マジ!?」

「まぁ……そんなトコだ」

「ローハン……あんた、自殺志願でもあるの?」


 オレの返答にサリアが呆れる。


『“眷属”ヤマトか。情報を集めクランメンバー全員とシュミレーションした結果では君が勝てる確率は9.5%だったが、よく生き延びた』


 ボルックは現実的な数値を出す。


「見事なり、ローハンよ。だが、案ずるな。貴様が死したとしてもカイルは我が弟子として抱えよう」


 スメラギは腕を組んでフッ、と笑う。オレはイラっとする。


「ローハンさん。その傷大丈夫ですか?」


 昼食を作り始めているレイモンドが未だに血が止まらない傷を心配してきた。

 ヤマトの刃は原子結合を断つ関係上、受けた深手は治りにくいのだ。

 ホントに魔法的要素無しでここまでやるんだから、ヤツはマジでバケモンだ。


「心配すんな。一晩寝れば治るよ」

「私はどうやってヤマトと互角に渡り合ったのか興味があるわ」

「あ! 俺も!」

「ふふ。じゃあ、今夜はカイルとクロエに看病して貰いましょうか」

「安らかに寝かせてくれ……」


 その後、オレは応急措置を終えて、夜に質問責めに会うのは嫌だったのでレイモンドの作った昼飯を食べながらヤマトとの『御前仕合』に関して『記録石』を映像化して皆の前で観賞会をした。


 正直な所、ヤマト攻略には何も参考にはならん。

 全て初見でヤマトの虚を突き続けた事による拮抗。しかも【オールデットワン】が無ければ防御手段は得られない事から、オレ以外には出来ない戦い方だった。


「なる程……既に斬った物は確かに斬れないわね」

「【おーるれっとらん】ってそんな事も出来るのか!」

「ヤマトは常識の枠に収まらないと思ってたけど……それならこっちも常識を捨てないと勝負にすらならないのね」

『それでもローハン以外では一刀、多くても二刀で斬り捨てられていただろう』

「中々の強者! しかし、次に主様を狙った時には容赦はせんぞ! “眷属”ヤマトよ!」

「ヤマトさんって、マスターの『雷霆』跳ね返してますけど……彼の『反射』に跳ね返す対象の制限は無いんですか?」

「多分、無いわね(キランッ)」

「ローハンよ」


 最後に龍天の爺さんがオレに告げる。


「おぬし、『龍連』に入らんか? 幹部待遇て受け入れてやろうぞ」

「気持ちだけ貰っとくよ、爺さん」


 オレは荒事を仕事にする気はないし、もう帰る場所は決めてるんだ。

 遺跡都市での目的も殆んど終わったし、そろそろ村に帰ってスローライフの続きと行くぜ! 痛てて……でもまずは、傷を治さないとな……


 その時、侵入者の様子を検知する痺れ知らせをクランメンバー全員が感じとる。オレは怪我人だからパス。他の奴が対応してくれぃ。


『マスター。侵入者は――』

「ボルックよ、すまんが車椅子を押してくれぬか?」

『御老体?』


 龍天の爺さんは何かを察した様子で告げる。オレとマスターは既に察しているので何も言わなかった。


「恐らくワシの“迎え”が来た」

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