第51話 アナタ達は……強いのですか?
「おっと、オレの首が繋がってるって事は、やっと味方だとわかったか」
オレはクロエが刃を向けた先が“黒オーガ”に変わった事で、再確認の意味も込めて尋ねる。
「……今も昔も、貴方は説明不足なのよ」
「それでも伝わると思ってるからな。特にお前には」
“黒オーガ”の首を落としたクロエは背を向けたまま呆れた様に肩を竦めた。どうやらオレは味方と認識してくれたようだ。
「顔が無いわ。仮面でも着けてるの?」
「『シャドウゴースト』を引き付けるためにこっちは色々とやってんだよ。お前が捕まらなけりゃ、こんな手間は無かったんだ。カイルも責任を感じてたんだぞ?」
「……そう。ごめんなさい」
やれやれ。
「カイルは無事?」
「ビビってるだけだ」
そう言って振り返り寄ってくるとオレが抱えているカイルに触って確認する。
クロエの欠点は、他人の怪我の度合いが解らない事だ。眼の見えない彼女にとって生物は、生きてるか死んでるかでしか判断できない。
「脅えてる? カイルが?」
「カイルはオーガがトラウマなんだ。一応はマスターに手紙で伝えてたハズなんだけどな」
「初耳よ」
クランマスターなら皆と共有しそうなモノだが、帰ったら聞いてみるか。
「『ゼウスの雷霆』の妨害も限界。そろそろ落ちてくるわ。行きましょ、ボルックとレイモンドが出口を確保してくれてる」
「各自、役割はきっちりこなしてる様でなにより」
しかし、カイルのヤツはずっとオレの服を掴んで自力で動けそうに無いな。うーむ、村に帰る前に、コレをどうにかしてから引き上げるか。
「ォオオオ……」
と、今度は“黒オーガ”は悲痛な声を上げて蝋燭みたいに溶けた。残っていた身体もドロドロになり、再び一つになると今度は人形に形作る。
えっと、クロエが仕留めたから今度はクロエが敵わないと思ってるヤツか。
候補としては、クランマスター、クライブ、ヤマト、オレ。基本的には斬り捨てた奴の事は忘れる女なので、現在も生きている奴だけを考えれば良い。
ちょっと興味あるな、オレだったらマウントとってやるか。
しかし、現れたのはオレでもクランマスターでもクライブでもなく――
「アナタ達は……強いのですか?」
その可能性は考えて無かったわ。そういや、クロエは『剣王会』に居たんだったな。あのクランの本拠地は『ターミナル』で、そこには――
「片腕のアイン様でも、この時代に勝てる者は存在しないわ」
「逃げんぞ!!」
即、回れ右してダッシュ!
現れたのは【武神王】アインだ。クロエのヤツの頂が高過ぎるだろ!!
“黒アイン婆さん”を『檻鎖』で拘束に拘束を何重にも重ねて拘束。更に『磁界制御』にて上からがっちり固め、『
根壁に空いた穴へ跳び乗り、内部を駆け抜け、対面側に降りると、丁度レイモンドがキャンプから、オレらの荷物を持ってきた所と鉢合わせる。
「クロエさん! って! 『シャドウゴースト』!?」
レイモンドが【オールデットワン】状態のオレを見て構える。
「オレだ! オレ!」
「ロ、ローハンさん? その状態は……それにカイルはどうしたんです?」
「説明は後よ。扉は?」
『開いている』
と、ヒョコっとボルックも幹の陰から顔を出す。
その時の、ミシミシと地面が傾き始めた。おいおいおい――
「ローハン、傾いてるわ」
「そりゃ、アインの婆さんの魔法だからな!」
『磁界制御』の規模が違う。金属と化した一帯ごと、オレらを逃がさずにひっくり返す気だ。
すると、傾きが少しだけ緩やかになった。
「な、何これ……全然抵抗出来ない……」
どうやらレイモンドが『重力』で抗ってくれてるらしい。しかし、パワーはあっちの方が上。少しずつだが、傾斜がキツくなる。
すると、今度は根壁がメリメリと裂けるとそこから“黒アイン婆さん”が姿を現した。
拘束なんて無かった様なモンか。しかも、大規模な『磁界制御』は片手間の所作かよ。
「『武神王』様!?」
『このままだと5秒で全員死に、その2秒後に『雷霆』が落ちてくる』
雷霆よりもオレらを殺るのが早いとかマジ?
クロエが扉に入り、次にカイルを抱えたオレが入る。すると、“黒アイン婆さん”がタンッと動いた。
「うわ!? 来た!?」
『レイモンド、『重力』を逆らわせず冗長させろ』
ボルックの助言でレイモンドは『重力』を解除。更に斥力にて盤面の傾きに拍車をかける。
唐突に90度を越える足場になったら流石に“黒アイン婆さん”もその場で一瞬だけ耐える選択肢を取る。
その間にレイモンドの手をボルックが取って、扉に引き上げた。
「『雷霆』が落ちてくるわ」
「うわわ!」
「扉を閉めろ!」
『
パタン、とボルックの言葉と共に扉は閉められた。
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