第52話 それは恥ずかしくて死ぬ……
遺跡の大広間では、昼夜問わずに人で溢れ、内部から持ち帰られたアーティファクトの取引を中心に様々な商いが行われていた。
「よし! 行くぞ、お前達!」
昼夜騒がしい広間の一番奥には『遺跡内部』へ下る階段。そこから価千金なアーティファクトを求めて、『内部』へ潜る冒険者も後を経たない。特に今の時期は“願いを叶える珠”が一番注目されている。
全部で三つあるとの事だが、一つ手に入れるだけで孫の孫の代まで遊んで暮らせる程の金額を稼げるだろう。
「とか言って、いつも上層で引き上げるのよね」
「今回の目標は中層だニャ」
「し、死なない程度に、が、頑張ろう!」
意気込みを見せる人間の青年をリーダーにした、人間の『魔法使い』、密偵の『獣族』『猫』、荷物持ちの大柄で内気な『鬼族』はこれから遺跡内部に入る所だった。
「取りあえず、何でも良い! ノルマを達成して余裕があったら、下層を目指すぞ!」
アーティファクト以外にも、遺跡内部の環境で得られる素材もある。遺跡都市では貴重となる薬草や、その原料は中々の値で売れるのだ。
彼らのパーティーは、決定的なアーティファクトこそ手に入れた事は無いが、素材を持ち帰って売ることで収入は今のところ、プラスを維持している。
ついさっき、『炎剣イフリート』を持ち帰った冒険者パーティーが居た。世界に7本しかない『七界剣』の一つ。相当なお宝である。
“願いを叶える珠”以外にも、あれほどのお宝を手に入れられるなら、潜る価値は十分にあるだろう。
「えーっとなになに? 今の下層の環境は――」
内部の様子が知れる階段横にある看板をリーダーは見る。
すると、階段から上がってくる気配を感じた。おそらく帰還組。総じて疲労してる場合が多いので、階段前を塞がない様に道を開けるのはマナーだ。
『地上だ』
帰ってきたパーティーを先に通す為に俺は道を開けると、先頭で出てきたのは『機人』だった。
確か『星の探索者』ってクランにボルックって言う『機人』が居ると聞いている。
噂では、過去に見つかったアーティファクトをクランマスターの【千年公】が改良して仲間をしたとかどうとか。俺は中に人が入ってると思ってる。
「やっと……気を張らなくて良さそうです」
次に出てきたのは『獣族』『兎』のレイモンド・スラッシュ。見た目に反して『兎』は『獣族』の中でも強力な能力を持っており、あの【武神王】の弟子にも『兎』が居ると言う噂だ。当人の実力も相当あると聞いている。
「相変わらず、ここの賑わいは途絶えないわね」
レイモンド・スラッシュの後ろから続くように現れたのは【水面剣士】のクロエ・ヴォンガルフ。遠目でしか見たことが無いが、本当に眼を閉じており、盲目と言う噂は本当にらしい。相当に強いと聞いているが、近くで見るとそれがよく解る。何故、裸足で裸コートなのかは知らないが、かなりエロい。
「ようやくか……はぁ……」
最後に現れた存在に俺達だけでなく、広間全員がぎょっとした。明らかに空気が変わったからだ。
全身が影で出来ているかの様に真っ黒な人間。顔も無く、その様は噂の『シャドウゴースト』に間違いない! しかも、その腕には密かに俺が想いを寄せるカイル・ベルウッドを抱えてる!(殆んど話した事はないが)
助け出さねば……しかし、あまりに異様な気配に足が動かない。金縛り攻撃か!?
「ん? ああ、すまんな。さっさと退くわ」
「い、いえ……」
ソレに話しかけられて俺達は剣に手をかける事さえも出来ず、逆に道を開ける。くっ! 身体が勝手に……!
『ローハン。君の姿に皆が脅えている』
「あー、もうちょっとだけ待ってくれ。解除すると動けなくなるからよ……」
会話が出来ている所からして『シャドウゴースト』じゃないのか?
と、広間に居たギリスの騎士達が何やら騒いでいた。
「そういや、奴らはこの姿と因縁があるんだった。カイルを抱えて先に帰るわ」
「後でね」
「お前は靴だけでも買ってから帰ってこい。後、マスターのお叱りもあるからな」
そう言うと、一度の跳躍で全てを飛び越えて広間の出口に着地すると、次の跳躍で遺跡の外へ飛んで行った。
あー、疲れた、疲れた、と残された三人もトコトコ歩いて行き、少し静まり返った広間もまた、活気の声が戻り始める。
「……よ、よし! い、行くか!」
「え、ええ!」
「『星の探索者』って、色モノだらけニャ」
「【千年公】は良い人だけど……何か……僕怖くなってきた」
と、とにかく! 俺達は俺達の一日を始めよう!
ローハン達が退却した下層では、障害となる存在が消えた事で『シャドウゴースト』は役目を終えて空間に溶けるように消える。
「…………」
『ゼウスの雷霆』の着弾効果により、雷が降り続く『巨大人樹』周辺。そこへ『
「…………」
ネイチャーは自身へ振ってくる落雷を片手を奮って弾く。そして『人樹』の根元にある扉の前にて歩を止める。
そして、その扉を開けると身を屈めて中へ入り、パタン、と閉じた。
「…………」
光虫が舞う、深い闇に覆われた深緑には数多の魔物が蠢いていた。
その中、太古より存在する岩の上に座って瞑想する【キャプテン】クライブは、スっと目を開けた。
「我が父よ。同胞が戻った。守護はネイチャーが継ぐ。我は盗まれた“土の欠片”を追う」
「うっ!?」
「ぬぬ!?」
「あら?」
オレは『星の探索者』のベースキャンプに着地した。そこにはサリアとスメラギが、クランマスターとあや取りをしていたが、オレを見て戦闘態勢に入る。
「敵!? 警報は――! カイル!」
「おのれ下郎! 我が主様を狙って現れよったか!? その我が弟子! カイルを放せい!」
オレはまだ【オールデットワン】のままだ。この姿を知るのはマスターだけである。
サリアは腰の銃を構え、スメラギは、ばっばっば! と印を結ぶ。
「カイルを勝手にオメーの弟子にするんじゃねぇよ」
「え……? ローハン?」
「ぬぬ? これは……どういう状態だ?」
オレの声に二人は警戒心から疑惑に変わった。
「色々あってな。クロエは助けた。今、ボルック、レイモンドとこっちに向かってる。サリア、カイルを頼めるか?」
「え、ええ……カイル? どうしたの?」
「サ、サリアさん……」
カイルの事はサリアへ任せオレは、忍……と驚きのまま、印を結ぶスメラギの視線を受けたままマスターへ。
「ふむふむ。ロー、どうやら……無茶したようね?」
キランッ、とマスターは顎に手を当ててオレに告げる。
「『シャドウゴースト』相手にはこれが一番有効でして。ダメージが嵩んでます」
「どのくらい?」
「多分……死ぬ手前」
「あらあら。なら、
スメラギには、帰ってくる面子の対応を任せてオレはマスターのテントに入る。中は色んな書物が丁寧に片付けられ、高いところの棚も取れる様に椅子になる台座もあった。
オレは寝る用とは別のベッド――無数の魔法陣に囲まれたベッドに横になる。
「解除して良いわよ」
「…………」
「? どうしたの?」
「いや……めっちゃ恐くて……」
これから来る苦しみが解ってるとなぁ……一生このままでもいいやって考えたりもする。
「
「…………」
「不安なら頭を撫でてあげましょうか? それとも手を繋ぐ?」
「いや……それは恥ずかしくて死ぬ……」
「なら、三、二、一で、解除しましょう」
オレは一度、スゥゥゥ、と息を吸うと、ハァァァ、と吐く。よし……
「三」
「にー♪」
「一……」
【オールデットワン】……解除――
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