第50話 秒刻み
荒くれの街『ターミナル』に“秒刻み”と呼ばれる決闘がある。
それは、三代目『武神王』であるアインによって、より“簡潔に”“迅速に”を目的に練られた決闘だ。
時間は10秒。
その間に交わる対戦者は、申し込んだ者が相手を死に至らしめねばならず、受けた者はソレを全力で阻止する。
開始時の間合いは、互いの手が届く距離から始まり、10秒と言う短い時間は当人達にとって生死をかけた時間となる。
とまぁ、これが“秒刻み”である。
そんでもって、次はこの裸コート女の解説をしよう。
クロエ・ヴォンガルフ。
この女は生まれつき眼が見えない。しかし、その代わりに別の五感が優れており、特に聴覚と触覚が秀でている。
カテゴリーは剣士。盲目の剣士なんて余裕だろ、と調子に乗った飛び道具使いが、首を面白い様にハネられる様を何度も目にして来た。
クロエの間合いは自身の使う『水魔法』と併用する事で数倍に伸びる。
更に『水霧』を使い、視界を覆う事で自分の土俵に無理やり引きずり込んだり、『水刃』を使って間合いの外から攻撃をしてきたりと、搦め手のオンパレードだ。
オレみたいに色んな魔法でオールマイティーに戦うのではなく『水魔法』と『音魔法』の二つのみを極め、洗練された技を使用する。
過去に『剣王会』に席を置いており、その時は【水剣一席】と【盲剣一席】の二冠を持ってた化物。
オレの知る限りでもこのレベルの剣士は中々お目にかかれない。クランの中でもオレに迫る実力者であり条件次第ではヤマトも食えるかもしれない。
容姿もかなりの美人で着飾らなくてもかなりのルックスを持つ。オレも最初にクロエに声をかけた時はナンパだったし。
家族以外には常に疑ってかかり、他者には絶対に心を開かない。そのクールビューティー加減が良い、と言う紳士にはストライクな女だ。
家族想いで、後、ブラコン。
クロエとの出会いうんぬんはまた今度話すとして今は――
「カイルを離しなさい」
ガチでオレの首を落としにくるクロエをカイルを抱えた状態で捌かなければならない。
クロエの魔法で水滴が宙に現れる。
その雫が地に落ちるまできっかり10秒。その世界はローハンとクロエだけが動く事が許される、頂点の感覚だった。
“秒刻み”ローハンVSクロエ――
適切な間合いに入った瞬間から始まるカウントは立会人が居ない為に各々で数える事になるが、互いにコンマ一秒も狂わなかった。
1秒――
クロエは自身の腕に『水属性』を付与。手刀に鋭利性を持たせ即席の刃を形成。ローハンの首を狙う。
ローハンはカイルを抱えているが、彼女を盾に使うなど微塵も考えない。クロエもカイルの事は傷つけない様に動くと読み、僅かに足を動かす。
2秒――
クロエの『手刀』が横凪ぎに振られる。
ローハンはソレを読んで後ろに下がるが、クロエも、更にソレを読み、半歩踏み込んでいた。
しかし、ローハンは動くと同時に二手目を発動していた。『金属魔法』にて、発生させた『鎖』が地面から伸び、クロエの脚に巻き付く。
3秒――
クロエは空いている『手刀』腕を振って脚を拘束しようとした『鎖』を斬った。眼が見えない故に制度の高い空間把握能力は、顔を向けずともどこに何があるのかを的確に把握する。
秀でた“聴覚”と“触覚”は五メートル内であれば目で見る以上に
だが、その僅かな動作はローハンの首を狙った『手刀』に回避の隙を生んだ。『手刀』は空を切る。
4秒――
『鎖』が無数に生成され、クロエを拘束しようと立て続けに襲い掛かる。蜘蛛の糸の様にクロエに絡まり始めた。
「荒波『乱刃』」
水が意思を持つように動く。クロエの挙動は『手刀』を空振ったのみだが、ソレとは別で彼女の操作する水は高速で動き、向かってくる『鎖』を片っ端に切り刻んでいた。
5秒――
「出鱈目な女め!」
クロエの周囲の五メートルはあらゆる存在にとって死地であるとローハンは改めて認識する。
間合いは離れない。クロエは再度、深く踏み込み『手刀』の範囲にローハンの首を捉える。
6秒――
クロエに『金属魔法』のリソースを集中した為に“黒オーガ”の拘束が弱くなった。
「グオォォ!!」
『鎖』による蓑虫状態だった“黒オーガ”は拘束を引きちぎると、怒りのままに咆哮。そのまま脚の拘束も引き剥がす。
その咆哮に脅えたカイルはローハンの服を強く握る。
「首はやるよ」
ローハンはクロエは無視し『金属魔法』は背後の“黒オーガ”へ全て向ける。
7秒――
あーあ、クソッタレ。これで一回死亡かよ。流石に首をハネられたら寿命を使って無かった事にしなければならない。だが――
「お前は存在さえもするな」
カイルを脅えさせる“黒オーガ”の排除と、オレの命ならば前者の方が何よりも優先だ。
『鎖』で再度縛り、動きを止めた所を飲み込む様にアイアンメイデンを背後から持ち上げる様に出現させる。
8秒――
“黒オーガ”を拘束。クロエの『手刀』がヒュッと短く風を切ると、首が飛ぶ。
しかし、飛んだ首は“黒オーガ”のモノだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます