第25話 遺跡“中層(秋)” アイアンウォーズ

“どうやら、あの小人をやってくれたようだな”


 タルタスに送ってもらい、巨城に戻るオレらの前にストフリが舞い降りた。

 問題なく飛行していたので傷は治っている様だ。


「ちょっと時間を取られちまったけどな。まぁ、及第点だろ?」

“感謝する、小さき者よ。だが、アレは結局何だったのだ?”

「ただのエロジジィだ。完全に死んだからもう気にしなくても良いぞ」


 とは言え、やはり『七界剣』の持ち主は侮れない。広域の殲滅力で言えば、ヤツは間違いなく最強だっただろう。

 すると、目の前に凍った雫が一つ舞い降りてくる。


「何だこれ?」

『魔力石とは少し違うな』

「冷ややかですね」


 三人が不思議がる中、オレはソレを手に取った。


“お礼だ。その『氷の雫』は、決して溶けることはなく、魔力を込めればたちまち周囲を凍らせる力を持つ”

「ほー」

“だが、私以外は凍るから気を付けろ”

「使えねぇじゃん」


 それでも珍しいモノには変わり無い。クランマスターへのお土産にでもしよう。


“サラバだ。小さき恩人達よ”


 ストフリはブワッ! と冷風を纏い晴天の大空へ飛翔する。

 舞い散る小さな氷の雫に陽の光が反射し、綺麗――などはなく、ボルックとタルタス以外はきっちり、低温(弱)をもらった。

 ふざけやがって。






「もう行くだかー?」

「もう一日くらい、ゆっくりして行ったらどうかしら?」

「悪いな。急いでるんだ」


 巨城に戻ったオレたちは、ストフリが塞いでいた階段を調べ、カイルはタルタスとサリーと別れの挨拶をし、レイモンドは回収できるマーカーを回収していた。


「ボルック、中層の情報は何か拾えるか?」

『……反応からするに、先の季節は“秋”と言った所だろう』

「他には?」

『物理的な情報はあの扉を抜けなければ何もわからない』

「これ以上の手間と消耗は避けたい所だな」

『こればかりは運が絡むだろう』


 しかし、秋か。四季の中で最も何が待っているのか想像しにくい季節なのはよろしくないな。

 すると、レイモンドが上から軽快に着地する。


「ボルックさん。全部とは行きませんが、覚えてる限りは回収しました」

『助かる』

「カイル、行くぞ」

「おう。二人とも元気でな」


 楽しかったでよー、近くに寄ったらまたいらしてください、と手を振る二人にオレらも各々で挨拶を返す。

 出会いは一期一会だ。二度と会わないとしても、絆は永遠に残るだろう。

 そして、オレ達は階段の先にある扉から“中層”へ入る。






「うわっ焦げ臭っ!」


 中層へ足を踏み入れてカイルの最初の反応がソレだった。

 出てきた扉は半壊した一軒家の扉であり、開けると同時に爆発音と銃声が響く。


『レイモンド。聴力による索敵はするな』

「鼓膜が破れますね」


 耳をつんざく爆音と銃声に地面が揺れる。場所は戦闘が行われている市街地だった。

 乾燥した空気に焦げて折れた木々には紅葉がついている。


「戦争は秋の風物詩じゃねぇぞ」


 その時、上空を高速で巨大な物質が飛行する。その余波で全員が僅かに怯み、彼方へ飛んでいくソレを眼で追った。


「あれって……“鉄の鳥”?」

「確か……戦闘機ってヤツでしたっけ?」


 カイルとレイモンドは現役で空を舞う戦闘機を見て、思わず感嘆していた。その時、


「! お前らぼーっとするな!」


 オレは咄嗟にカイルとレイモンドを抱えて横に跳ぶ。

 オレらを狙って飛んできたロケット弾は背後の家屋を破壊するとそのまま崩れ、扉は押し潰れた。


「な、なんだぁ!?」

「魔力反応の無い……『火球』!?」


 あー、そうだよな。こんな状況、オレ以外には反応出来んか。

 すると、全身機械仕掛けの“兵士”が現れる。腕と一体化した銃声を構えつつ、背後からは戦闘車輌がこちらへ機関銃を向ける。空転を開始――


「お前ら、オレから離れるな!」


 オレは倒れた状態で『土壁』を正面に生成。同時に機関銃が火を吹いた。


「六重壁!」


 更に厚く壁を足す。しかし、それは時間稼ぎにしかならないだろう。


「二人とも立て!」


 オレはその間に二人を立たせる。状況を説明しようにも間が取れねぇ。


「一旦、ここから離れるぞ! 奴らからの射線を切らねぇと――」


 と、上空から無数の手榴弾がこちらへ投げ込まれた。勿論、ピンは抜かれている。


 カイルとレイモンドはそれを見て“?”

 オレは“!!!?”


 すると、ボルックが動く。

 その一つ二つを掴むと投げ返し、残りは左右に弾いた。瞬間、手榴弾は炸裂。爆発時間を見切った動きに命を救われた。


「ば、爆発した!?」

「僕たち……今死んでました?」


 カイルとレイモンドも危機感は覚えてくれたようだ。

 何も知らない二人からすると、魔力反応の無いリンゴ程度の物質に殺されるとは思わんよな。


「すまん! 助かった!」

『留まるのは良い判断じゃない』

「じゃあどうする?」


 今回の“中層”は魔力が極端に少ない。加えて、動いているモノも生物とは言い難く、言葉が通じるかは不明だ。

 まだ機関銃を継続射撃してる所を見るとあちらさんは、こちらを敵として認識しているようだが。


『ワタシがやってみよう』

「やれんのか?」

『奴らには“中身”が無い。ワタシが乱している間に“下層”への階段を目指せ』

「目指せって……検討はついてるのかよ」


 と、ボルックはユニットを展開すると、瞬時に中層のMAPが表示された。


『マーカーに類似した物がいくつもあり、利用させてもらった。“下層”への階段は中央塔の中だ』


 ここからでも見える高い機械仕掛けの塔をオレら三人は見あげる。するとカイルがあることに気がついた。


「ちょっと待ってくれ! ボルックって奴らと同じモンなのか?」

『そうなのかもしれない。だが、今はそれを探る時ではない』

「ホントに良いのか? お前の目的は自分を知る事だろ?」


 ここにボルックの求める答えがあるのなら、このチャンスは逃すべきではない。


『マスターは心に従って行動しろと言った。ワタシへの指令はそれが第一に優先される』


 その時、塔が戦闘機に攻撃される。上空の空域戦闘ドッグファイトの流れ弾が当たった感じだ。


『ワタシの身体ボディを頼む』

「必ず帰ってこいよ!」

『ああ。死ぬ気はない』


 そう言うと、ボルックの身体から光が消える。オレはレイモンドに背負って貰うと、先導にて走り出す。


「オレが横に壁を出しながら行く! お前ら、絶対にオレの3メートル内に居ろよ!? 死ぬぞ!」

「お、おう!」

「わ、わかりました!」


 オレの余裕のない気迫に二人も緊張感を持ってくれたようだ。


 この戦場では実力などは全く意味がない。

 不運な“死”が飛び交ってる以上、出来る限りの対策と運を手に駆け抜けるしか生き残る術はないのだ。


「“下層”まで、一気に滑り込むぞ!」

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