第33話 眷属の役割
「我が君……」
「何かしら?」
アマテラスの眷属――スサノオの出現。
スメラギは不利になったとしてもここで退くことは考えていない。主君を愚弄されておめおめと逃げ帰るなど彼からすれば生きる事を放棄する事と同じだ。
「何をやってるんですか?」
「ロマン……」
「勘弁してくださいよ! あなた様が暴れると色々と面倒な事になるんですから!」
しかし、スサノオはアマテラスに詰め寄ると諌める様に叫んだ。
「ふふふ。そうですか? うっふふっふー♪」
「ああ、もう、日光酔いして! 浴びすぎです! 日影に行きますよ!」
アマテラスが明らかにまともでない様子を察し、日影に連れていこうと彼女を抱える。
「待てぇい!」
その様子を見ていたスメラギは、直立不動で腕を組み、ドンッ! と制する。
「なんだ? 見逃してやるってのがわかんねぇのか?」
「片腹痛い! 我が主様を愚弄した事を謝らぬ限り、このスメラギ! 一歩も退かぬ!」
クワッ! と眼を見開きスサノオに告げる。
「……我が君……彼に何を言ったんです?」
「ゼウスの名前の由来を教えて、笑ってみたんです」
「ホント、何やってんですか……」
スサノオはアマテラスを一旦下ろすとスメラギに歩み寄る。
来るか……と、スメラギは印を結び、術を――
「その……すまん」
放とうとしたところで、スサノオが後頭部を掻きながら謝ってきた。
「うちの姫さんは、少しズレた所があってな。気分を悪くしたなら謝る」
てっきり、主君を攻撃された事による報復が来るかと思っていたスメラギは、敵意なく謝るスサノオの気が抜ける。
「こっちから『原始の木』とはやり合う気はない。【創世の神秘】同士がぶつかればどうなるか。想像もつかないんでね」
「ふむ……しかし、お主はアマテラス女子を主として奉るのであろう?」
「眷属、つっても色んな形があんのさ。我々は、『始まりの火』がヒトの世に対して過剰に接触するのを抑える役目にある」
【創世の神秘】ごとに眷属の立ち位置は違ってくる。
付き従う事もあれば、守護したり、抑えると言うパターンもある。
『始まりの火』の眷属達は、俗世への干渉を控えさせるために抑える事を主にしていた。故に、彼らは『始まりの火』の側から離れる事はしない。
「2000年くらい放浪したら『宵宮』に帰るからよ。ゼウスにもそう伝えておいてくれ」
「途方もない感覚で語られてもピンと来ぬな」
「そっちの主を悪く言ったのは済まなかった。こっちも、よほどの事がない限りは、そっちには干渉しない様にする」
「スサノオー」
「あ、はーい! はーい! 今行きますよ! それに、知ってると思ってたけどな」
「何をだ?」
スサノオはスメラギに背を向けるとその事を指摘する。
「何故、ゼウスが未だに
アレはもう自由だろう?
と、それだけを言い残すと、スサノオはアマテラスを抱えて教会の屋根から降りて行った。
「以上が報告になります! 拙者の交渉術で停戦協定が確立したワケなのです!」
『星の探索者』のベースキャンプに戻ったスメラギは、戻っていたゼウスに任務結果を報告する。
「そう、ご苦労様」
「いやいや、マスター。言うことあるでしょ。あんた……何、アマテラスに攻撃してんのよ」
スメラギの報告を聞いてコロン、と笑うゼウスにサリアは指摘する。
【創世の神秘】は手を出すには大きなリスクが伴う。かつて『キャプテン』クライブに敵視された時、『星の探索者』は全滅する危機を迎えた事があった。
その時はマスターの説得で、ローハンとクライブがタイマンを行い、何とか和解出来たのだが、【創世の神秘】に触れる事がいかに危険であるかを知った一因となったのである。
故にスメラギの行動はあまりにも軽率だ。下手をすれば『星の探索者』どころか、遺跡都市が消え失せた可能性も十分にある。
スサノオが割り込まなければどうなっていたか。
「フッ、貧なる胸部を持つ者にはこの気高き忠義を理解できぬ……か」
「…………」
クイック。サリアは腰の拳銃を0.5秒で抜き放つと0.5秒でスメラギに引き金を引いた。
しかし、スメラギは頭を垂れた状態で土遁(土魔法)『砂壁』を発動。身体の表層を高速で砂を流す事で弾丸を弾く。
「無駄の極み! 報告を邪魔するでないわ!」
「…………」
サリアは自分のテントに入り、対戦車ライフルを持ってくるとスメラギに構える。
ゼウスは、ニコニコしながら後ろからサリアを押さえつけた。
「どうどう」
「離してマスター! コイツ殺す! ここで殺す! 絶対に殺すぅぅぅ!!」
「なんと愚かな……」
「スメラギ。人の傷つく言葉は解るでしょう? 今のサリアは、アマテラスに
その言葉にスメラギは稲妻が走る程の衝撃を受けた。
「も、申し訳ない……サリア殿。まさに……まさにその通りである。このスメラギ……なんと愚かな真似を……」
滅茶苦茶、理解したスメラギはサリアに対して猛烈に謝罪した。
「殺されても文句は……ない。さぁ! 殺してくれ!」
「あー、もう逆に殺る気無くなったわよ……」
ううぅ……と、スメラギが頭を地面に擦り付けて本気で謝っている事を理解したサリアも流石に溜飲を下げた。
「皆、素直で良い子ね」
その様子にゼウスだけは満面の笑みである。
「主様。失礼を承知で一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「何かしら?」
スメラギは一度、ずびっと鼻をすするとスサノオの言われた、ゼウスの名前について尋ねる。
「何故に、未だにオリン……奴隷を名乗っておられるのですか?」
あら、その事? とゼウスはなんでもない様子で回答する。
「皆を護るためよ」
「……」
その言葉の意図を『エルフ』のサリアは理解していた。
“この名前の意味を忘れたのなら、再び宣言しましょうか? サリアの様な子を何度も送り込んで来るのなら……貴方達は二度と“知識”を得られないことになるわ!!”
「マスターって本当にお人好しよね」
「ふふ。サリアもね」
この人に出会えて良かった。
『星の探索者』のメンバーは誰しもが、ゼウスの笑顔に救われていた。
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