第267話 効果は◎だ。
行きなり夜にされた事は完全な予想外だった。
『ナイトメア』にその力がある事は知っていたが、まさか『虹色の柱』を残して一帯を即座に“夜”に変えるとは……
世界の概念を書き換えなんぞ『願いを叶える珠』並みのアーティファクトだぞ。『ナイトメア
視界が悪くなる。これだけで戦術的効果は○。『太陽の民』に関しては『陽気供給ストップ』も乗って効果は◎だ。
太陽が出ているからこそ、『夜軍』は目の前に開けた『土坂』を優先して進んでくれる手筈だったのだ。これじゃ、左右に避ける可能性も出てきた。
そこで、オレはちょっと作戦を変えた。
デケェ“餌”と“網”を用意して、敵の突撃を誘導する。
アホみたいに全軍突撃ー! ってノッてくれたら良い感じに削れたんだが……【夜王】は冷静だった。いきなり
他の『戦士』には予定どおりに待機させている。ゼフィラに関しては腕を組んで静観しているものの、落ち着かない様子で指を動かしてるな。
「ローハンさん。迂回している部隊は今のところは無いそうです」
「まぁ、目の前が決まれば終わりだしな」
レイモンドの情報は想定内。ソニラの婆さんにも身体を張って貰ってるし、敵にはこの『土坂』を越えた方がお徳だと思ってもらわにゃな。
「後は、底力次第だな」
アーシカ、ミタリ。出来る限りの援護はするが、今後の戦局はお前らの勝敗次第だぜ。
揃った時点で、アーシカとミタリはクロエへ攻める。
彼らにクロエの動きを待つ考えは僅かにも無かった。何故なら、すぐ後ろには『太陽の巫女』が居るからである。
巫女様を護る。
その意志は普段は己の内に心得として持つモノ。しかし、今は違う。
自分達が負ければ巫女様が殺される。
本来は心得として眠る意志は、背後に明確な守護対象が居ることにより、より洗練された闘志となって彼らの実力を数段引き上げていた。
「…………」
対するクロエはいつもどおりだった。
いつも通り、冷静に、必要な情報のみを選別し――
「……やってくれるわね。ローハン」
周囲から無数の気配。『太陽の戦士』がこちらを見ている様子をあえて捉えさせている。
そちらにも意識を割きつつ二人を後の先で迎え撃つ様に剣を一度、くるっと回した。
すると、アーシカとミタリはクロエの目の前で左右に別れた。
踏み込む意志が
右に移動したアーシカへの対応をクロエは先に行おうとした時――
「――――」
背後からの投擲。ソレはミタリが持つ『太陽石』だった。クロエはソレを振り向かずに避けるが、その『太陽石』をアーシカが砕く拳を叩きつける
『太陽石』は粉々に砕かれ、閃光と大量の『陽気』を一時的に拡散させた。
『陽気』は魔力に近い性質を持つ。この瞬間、クロエの魔力知覚による“目”は数秒間潰された。しかし、周囲に反響する音による索敵が二人を捉える。
「そう」
クロエは、アーシカとミタリの僅かなやり取りで深い連携を持ち合わせると判断し、タンッと二人を無視してソニラへと駆けた。
クロエの元々の目的は『太陽の巫女』を討つ事。まだ、ソニラが射程圏内に居るのならば、道が開ければ狙うのは当然である。別に二人を相手にする必要はない。
「行かせるか!」
アーシカがクロエの背を追う。自分達に背を向けた。追い付けない距離じゃない。
「――――」
その時、クロエは唐突に振り返るように停止するとアーシカへ横薙ぎに剣を振っていた。
狙いはアーシカかミタリのどちらか。クロエはあえて、
『太陽の巫女』は『太陽の戦士』にとって完全なウィークポイントである事を利用した誘い。自分が向かえば間違いなく追ってくる事は解っていた。
そう、解っていたから――
「――!?」
アーシカは追いかければ自分を狙う一閃が来ると解っていた。屈んで避けつつクロエへタックルを決めた。その腰に組み付く。
“クロエは駆け引きも上手い。今の戦力で正面から相手に出来るのはオレかゼフィラくらいだろう。だから、アイツの動きを誘導する”
ローハンさんは本当にクロエさんの事を信頼してるんですね。
クロエはナイフを抜き、組み付いたアーシカの背を刺そうとするが、
「うぉぉぉりゃぁ!!」
そのまま後方に投げられ、宙に浮いている所にミタリが接近する。クロエは『音界波動』を纏いつつ腕もクロスして攻撃に備えた。
「『
ミタリの突き出した右腕から叩き込まれる閃光と衝撃がクロエを襲い、その身体は壁に激突する。
土煙が舞い、静かな静寂の元、晴れていくと肘立ちで震えて伏せるクロエの姿があった。
久しぶりね……剣を壊されたのは。
折れた剣を捨て、壁に手を添えて弱々しく立ち上がる。
剣の破損。これは心のどこかで彼らを侮っていた自分の“未熟”が引き起こした結果だ。
「……まったく。徹底してるわね」
アーシカとミタリは攻めてこない。それはきっとローハンの指示が出ている。
クロエは弱ってるフリを止めて抜き身のナイフを仕舞った。そして、
「……そうね。本当に止められるかしら?」
指を揃えて手刀を構え、本気で突破しようと戦意を纏う。その時、
「……まったく」
クロエはその場からタンッと引いた。
それは、周囲の土が波打つ様に動き出し、左右から壁を作るように閉じてきたからである。
このままだと閉じ込められるわね。
更に地面が凹凸し、大地そのモノが意志を持つかのようにクロエを排除してくる。
クロエは、タンッ、タンッ、とバックステップを繰り返して避けつつ後方へ離脱すると、魔力の反応が無い箇所まで後退した。
「……流石にアレは無理ね」
巨大な壁が『土坂』の先を封じる様に道を封じていた。
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