第101話 カイルの魔法
今思えばカイルに関しておかしな所は多々あった。
魔法の使えない奴はこの世界には存在しない。稀に魔力を持たないと言う奴はいるが、そう言う奴は魔石を持てば魔法を使える様になる。
この世界の仕組みとして、“魔力を持つ”事と“魔法が使える”事は、別の話しなのだ。
だから、カイルが『魔法水』で適正魔法が現れない理由がいまいち解らなかった。カイルはアホの子だが、魔法が使えないワケじゃない。寧ろ適正は高いとさえ思っている。
しかし、なぁ……
「カイル、お前の魔法はまさか――――」
『雷閃』は直線を高速で移動する関係上、攻撃力が高いほどに効果を増す。
故に本来は素手よりも武器を持って扱うことが推奨される技なのだが――
太刀筋に違和感……斬った感触じゃない。何かを
「貴、女の、は遅、い」
カグラは右腕でカイルの『雷閃』を受けていた。
カイルの『雷閃』はソーナに比べて瞬きの間で追えた。故にカグラは己の腕に巻いた『糸鎧』を割り込ませる事が出来たのだ。
『妖魔族』【土蜘蛛】が作り出す“糸”は変幻自在。
彼らの能力の大部分は己の魔力を通わせる“糸”を生成する事で数多に派生する。
“糸”は肉眼で捉える事は出来ぬ程に細く、それでいて一本で大型船を牽引できる程の強度を誇る。
戦いの最中【土蜘蛛】は己の“糸”を周囲に張り巡らせ、“巣”を作る。“巣”の中で行われる情報は全て展開した【土蜘蛛】へと伝わる。
振動から会話を聞き、“糸”より感知する相手の魔力から相手の力量を知る。
“糸”は触れても解らぬ程に軽く、巣主が魔力を流すことでいつでも強度を増したり張らせる事が可能であり、それによって即座に拘束も可能だった。
故に【土蜘蛛】は一つの土地に長くいれば居る程に支配者としての力を確立する。【土蜘蛛】の一族がまだ生きていた時、彼らの巣へ入ることは命を捨てる事と同じであると言われていた。
「う、ん」
カグラは頭上から落ちてくる自分の『ライフリング』に手をかざす。
「まだよ!」
「まだだ!」
『白尾』で宙に投げられたソーナは態勢を整えて、壁に着地するとそこからカグラへ『
カイルは限界の限りを尽くし踏み込むと、切り返す様にカグラの背に『
これが――
最後だ!
カグラ退場まで後10秒――
音が消え、同時に『雷閃』に入った二人の一撃はカグラが『ライフリング』を袖に通すよりも先に着弾した。
「…………」
実況は三人の戦いに釘付けだった。
見ている者誰もが手に汗を握っていた。
実際に良い勝負だった。オレも見ていて最後は思わず感動しちまったよ。
「先に失礼する」
そう言ってレクス少佐が席を立ったのでオレも席を立つ。
「ローハン、どうした? まだ、最後の戦いが残ってるぜ? 大注目の一戦だぞ?」
スサノオは中継モニターを指差すがオレは酒代を置いた。レクス少佐は飲んでないのでそのまま離席。
「それはいい。もう、どっちが勝つかは決まってる」
「ローハンさん。僕も――」
「レイモンドは観とけ。最後の戦いは参考になる。瞬き厳禁だぞ」
オレは先にベースキャンプに戻ってる、と言い残して場を去る。
特定の人間には行動を起こすだけで他を惹き付けるナニかがある。
そう言う奴は総じて自分では分からなかったりするのだ。だからカイルは――
「誰かと一緒じゃなきゃ強くなれねぇな」
転送が始まった。
『ライフリング』の消失による強制転送である。
「――――」
「――――」
カイルの剣とソーナの拳はカグラに触れる手前で止まり、彼女の袖には『ライフリング』が通る。
『
この場所を中心にカグラは周囲に無数の糸を張り巡らせていた。
近づけば近づくほど、『縄張糸』は当人達の身体へ自然と絡まり、カグラが魔力を入れる事で瞬間的に捕縛する。
そして、糸への魔力を込める事で強度を変えて対象を断裂する事も可能だった。
「貴女、達は、強、い。でも、カグ、ラを、越え、るに、はまだ、足、りな、い」
カグラはカイルとソーナの『雷閃』を止めると同時に二人の『ライフリング』を絡めた糸で断裂。強制転送を促していた。
「……“眷属”カグラ」
ソーナは敵意を落とさずに告げる。
「アタシは軍人よ。この適度が『第五騎士中隊』の力だと思わないことね」
自分が求めるのは個人の武じゃない。部隊としてどれだけ高水準に動けるかだとソーナは告げる。
「う、ん。カグラ、達と、敵、対しな、いことを、祈って、る」
「はは。スゲーよお前!」
対するカイルは笑っていた。
「本気でやってここまで届かなかったのは初めてだ! どうやれば剣を届かせるのか検討もつかないけど……また戦ろうぜ! 次は俺が勝つ!」
カイルの言葉に仮面の奥でカグラは微笑む。
「ええ、ま、た戦お、う」
そして、二人は強制転移にて消えた。
上空に表示されている“カイル”と“ソーナ”の名前が消え――
「待っ、て、た」
コツ……とブーツを響かせながら場にクロエが現れる。
「少し遅れたわ。ウォーミングアップは必要?」
「済、んで、るよ」
カグラVSクロエ――
最後の戦いが始まる。
「ははは」
「なに笑ってんのよ」
『遺跡内部』から帰還し転送場に戻ってきたカイルにソーナが近づいた。
「いやさ。まだまだ俺は強くなれるって確信した! ソーナ、ありがとな!」
魔法を使えた。俺の適正は『雷魔法』だ。
「よう、お疲れさん」
「ソーナ」
「おっさん!」
「少佐」
迎えに現れたローハンとレクスへ二人は向き直る。
「すみません。一矢報いる事も……」
「兵個人の底上げは隊全体の益でもある。色々と掴んだだろう?」
「はい」
「なら良い。帰還するぞ」
そう言って踵を返すレクスの後をソーナは続いた。彼女もボロボロであるが、自力で歩けない程じゃない。
「あ! ソーナ! またな!」
背中に声をかけられて、ソーナは足を止めるも振り返らずに肩を竦めて、
「あんたはその馬鹿を少しは直しなさいよ」
「はぁ!? だから、誰が馬鹿だ!」
ふんっ、と鼻を鳴らしてソーナは片手を上げながら去って行った。
「戦友だな」
「アイツ、ずっと俺の事、馬鹿馬鹿言うんだぞ!? 馬鹿って言う方が馬鹿だろ!」
まったくよー! とソーナの背に不貞腐れるカイルにローハンは手を差し伸べた。
しかし、手を挙げようとしたカイルはもはやそれさえも叶わない程に消耗していた。
「あ……おっさん。なんか立てない……」
「やっと脳みそが身体の反応に追いついたか。しゃあねぇ」
「わっ!?」
ローハンはカイルの手を肩に回しつつ背負う様に抱えた。
「マスターのメディカルベッド行きだ」
「…………はは。おっさんの背中って安心する」
「世界最強の背中だぞ。贅沢だぜ、お前は」
「……ふふっ」
カイルは甘えるようにローハンの背に強く抱きつく。
すると、ローハンはカイルの押し当てられる乳房の感覚にビクっと反応した。
「どうした? おっさん」
「い、いや……やっぱり前に抱えてやろうか?」
「やだよ、カッコワリー」
あんまり、引っ付くな!
無理、落ちるだろ!
などと言いながら二人は遺跡を後にする。
「あ、そうだおっさん! 俺の魔法『雷魔法』だったぜ!」
「いや、お前の魔法はソレじゃない」
え? と言うカイルにローハンは答えを教えた。
「お前の魔法は『
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