第131話 ステータス差
『御前仕合』とは。
複雑なルールや何かの縛りがあるワケではなく、条件はただ一つ“【始まりの火】の前で戦う”事のみ。
他の地方でも見られる
だが……『ジパング』の侍はその気質から約束ごとは命を賭してでも厳守する心意気を持つ。無論、その風潮は【始まりの火】の“眷属”にも根付いていた。
「……」
「……」
そして、オレはヤマトと見合う。
ヤマトは生涯を通して絶対に戦りたくない相手の一人。正直な所、コイツに勝つ未来を想像できないんだよなぁ……
「気が乗らないか? ローハン・ハインラッド」
「……そりゃな。お前の実力を知ってりゃ誰だって『御膳仕合』で向かい合いたく無いだろうよ」
ヤマトのヤツは相変わらず表情が動かない。何を考えてるのか雰囲気や表情からも“先”を読み取れないのも、戦りたくない理由の一つだ。
その上で『反射』と『万物両断』を持つのだから現時点でも七割ほど詰んでる……
「ヤマトの御膳仕合を見るのは久しぶりです」
「ロー、頑張ってー」
おいおい、さっきまで殺し合ってた二人が倒れた木に座って仲良く観戦してやがるぜ。貧乏クジ引いてんのはオレだけですかー?
「『霊剣ガラット』」
「ん?」
「かの『七界剣』の一振。所持したと聞いた」
「今は譲ってるんだよ」
一応、今『霊剣ガラット』に来い来い、と求めてはいるが、手元に現れない所を見るにカイルの方が主人に相応しいと判定しているようだ。
「だから安心しろ。外様のインチキは無いからよ」
「そうか」
相変わらず淡白な野郎だぜ。
「【宵宮の刀】ヤマトだ」
ヤマトはいつもと変わらない口調で告げると腰に差した刀――『草薙』を少し前に出す。
「【霊剣】ローハン・ハインラッドだ」
オレも一応、腰の剣を抜くと構える。ヤマトからすれば素人丸出しだろうが、少しでも選択の幅を得る為に無防備だけは避ける。
「手合わせ願おう」
初めっ! とアマテラスが開始を宣言した。
さて、始まったわね。
ローVSヤマト。
二人は向かい合ってジリっと攻撃の“意”を図ってる。
ヤマトは力が抜けて自然体の良い感じ。ローは色々と考えてるみたいね。身体が固いわ。
それではここで
―ヤマト―
攻撃力……測定不能
防御力……A
反応速度……測定不能
技術(剣術)……測定不能
射程距離……E
と言った所ね。防御に関しては『反射』が物理的な物体とエネルギーにしか作用しない点を考慮してAよ。
射程距離に関しては、物理的に繋がった物体でなければ刀の範囲以上の刃を通す事が出来ないからEね。ヤマトは飛び道具を使わないの。
けど、『攻撃力』『反応速度』『技術』に関しては
ソレは『創世の神秘』にも刃が届くレベル。アインと良い勝負をしそう。凄く、稽古を頑張ってるのね。
次にロー。
―ローハン・ハインラッド―
攻撃力……A
防御力……B
反応速度……A
技術……A
射程距離……S
普通に高水準の魔法剣士と言ったステータスね。
ローの場合は何かに特化すると言うよりも、オールラウンダーな側面が大きいわ。
けれど、ローの最大の強みは手数の多さと発想力よ。
ステータスだけを見ればヤマトが有利かもしれないけど、戦いは実際にやってみないとわからない。“卓上の理論”は時に大きな間違いという事もあるから。
あ、ローが踏み込んだわ。
ヤマトは立ったまま、微動だにしなかった。そこに痺れを切らした、と言うよりも探る様にローハンは剣で斬りつける。
剣の刃がヤマトの胴体へ接触する刹那『反射』にて刃が弾かれ、ローハンの身体へヤマトを狙った位置の斬撃が走る。
しかし、そうなることが解っていたローハンの傷は服が切れた程度。
弾かれつつも、ローハンは同時に発動していた『土魔法』で土を流動させ蛇のようにヤマトを拘束する――
「…………」
鞘から刀が抜き放たれ、『土魔法』が
魔法を行使するために万象と接続された魔力を立ち切られ、『土魔法』は土へ還ったのである。
攻撃が防御にもなってやがる!
ローハンはヤマトの防御力は『反射』と攻撃力が上乗せされていると認識。だが……『土魔法』を『反射』で対応しなかった動きは少しだけ気になる。
するとヤマトが動く気配。ローハンは剣を構え直し、その挙動一つ一つに全身全霊で集中する。
ヤマトが踏み込む。ソレは何の変哲もない剣術を嗜む者なら誰もが習う『摺り足』。
しかし、次の瞬間には空間が切り取られた様にヤマトが刀の間合いにローハンを入れていた。
「!!?」
これ程に……技術が測れない事があるのかよ!!
ローハンが反応出来ないのも無理はない。
ヤマトは一般的な『摺り足』でも“無駄”を――
削いで削いで削いで削いで削いで削いで削いで削いで削いで削いで削いで削いで削いで削いで削いだ果てに――
何者も反応できない極致へ『摺り足』を昇華させていたのだから。
「参る」
そう告げるヤマトの刀が動く。一呼吸の間に放たれる無数の斬撃がローハンを襲う。
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