第130話 回収するまで死なせねぇ!

 母さんは嘘をつかない。けど、本質を誤魔化す事はある。

 そのサインは誰も気づかないが、オレには解った。そう……オレだけは解る・・・・・・・から、そのサインを出した時はオレに来て欲しい証だった。

 まぁ、大概は大した事は無くて別にオレは必要なかったって場面ばかりだったけど。






「ある程度は考慮してたみたいだけどさ。普通にこの辺り一帯が更地になるレベルの戦いはヤメロって……」


 オレは『創世の神秘』同士のぶつかり合いは地形を変えるほどの戦いになる事を知っている。さっきもとんでもない魔力の応酬が行われた事は反応から感知しているのだ。


「大丈夫よ、ロー。こう見えても時間稼ぎは得意だから」

「そんな、キランッ。ってやってもダメなモノはダメ。ヤマトも頼むからその刀を抜いてくれるなよ」


 ベースキャンプ周辺をクロエの『音魔法』で無音隔絶してもらってる。

 しかし、出鱈目な魔法の応酬に関してはどうしようもないのでオレが止めに来たのだ。彼女らは呼吸をするように天地を変える魔法を放つ。


「で、この『土棺』の中身はアマテラス?」

「そうよ。わたくしの方が一枚上手だったわね★(キラン)」


 熱は土によって完全に遮断される。金属であれば熔け、岩なら外に熱が伝わるが、『土』は断層を組み合わせる事で絶対的に熱を逃がさない様に出来るのだ。


 この『土棺』はオレが適当に展開する『土壁』よりもアマテラスを閉じ込める程に高水準のモノ。フィジカルの弱いアマテラスでは物理的な脱出も不可能。ある意味『封印魔法』に分類されても可笑しくない性能をしてる。


『ローハン様ですか?』


 すると、至近距離でオレの声が伝わったのか内部からアマテラスの声が向けられる。

 正直な所、アマテラスとの接触は『遺跡都市』に居る間は極力避けていたのだ。色々と面倒な事になるし……


「あー、そのまま中に居ろよ? 面倒な事を――」

『ヤマト。抜刀を許可します。この檻を破壊しなさい』

「ゲッ!」


 ヤマトが刀を抜いたので、オレは『土棺』から即、横に飛んで離脱。

 容赦の無いヤマトの一閃が『土棺』を斜めに通ると、ズルっとズレて崩れる。

 豆腐を切るみたいに破壊しやがって。アマテラスは……居ないぞ?


「ローハン様ァ!」

「うげぇ!?」


 横からの抱き着きタックルにオレは倒れる。

 アマテラスはクロエよりも頭一つ身長が低いがスタイルは凹凸の強調が激しい。特に胸は、着ている和服でも解る程に豊満であり、抱き着かれれば必然と感じる事が出来る箇所だ。


「ずっとお会いしとうございました!」

「ご……ごほ……そう……か……」


 体当たりで軽いピヨり状態のオレにアマテラスは馬乗りになって見下ろしてくる。

 巨乳美女が遠慮なく抱き着いてくる状態は男なら色々と役得な所だが、この女に関しては距離感を誤ってはならない。


「あの夜の事……忘れた事は片時をありません」


 『空亡』が『宵宮』へ現れた時、ヤマトは『殺戮武芸』と殺り合っていた為、オレが『空亡』と対峙したのだ。

 まぁ、結果はお察し。見事に吊り橋効果が今も継続してる。


「別に……忘れてくれても良いぞ……とにかく離れて――」


 横を見ると、マスターとヤマトが向かい合って今にも戦り合おうとしている。何でマスターは天地上下の構えで相対してんだよ。

 ヤマトは真面目に捉えているが、マスターは完全にふざけてんだろ。もにゅん――あっ……


「あん……ローハン様……ヤマトとゼウスも見てるのに……大胆ですね」

「…………ええい! どけいっ!」

「キャッ」


 オレは豊満な胸をそのまま押し返して起き上がる。パイタッチ一つで死ぬような目に合うのはクロエだけで十分なんだよ! 特にアマテラスに関しては性的に入れ込むと骨まで燃やされる。

 逆に押し倒されて仰向けになったアマテラスは、そのまま“受け”に入るがオレは無視。クロエと夜戦やってなかったらちょっと心が揺れたかもしれんのはナイショ。

 乱れた着物を正せ、と言って立ち上がるとマスターとヤマトへ。


「行くわよ、ヤマト。貴方に受けられるかしら? わたくしの奥義を」

「来い」

「その奥義待った!」


 なんだよ奥義って……


「あら、ロー。割り込みは感心しないわね」


 物理的に間に割り込んだオレにマスターは構えを解くと腰に手を当てて、ふんす、と鼻を鳴らす。

 ヤマトもマスターから真剣に戦う“意”が無い事を察していたのか、パチン、と刀を鞘に納める。


「まずはお互いに事情と要求から詰めるべき状況でしょーが」


 この叡智さんは一体何をしているのやら。いつもはヘドロみたいなヤツにも平然と話しかけるクセに……なんで、今回は可愛く好戦的なんだよ。


「『創世の神秘』に関してはソレを省いても良いのよ。特に【始まりの火】は満足しなければ止まらないわ」

「そりゃオレにも知ってるけども……」


 マスターとアマテラスが暴れると皆死ぬんだよ……それに――


「マスターは自分の身も案じてくれよ……。相手は唯一、殺られる可能性のある存在だろ?」

「ローも知ってるでしょ? この身体が無くなってもわたくしは死ぬワケじゃない。木に還るだけだから」

「それはオレ達目線からすると“死亡”なんですよ……」


 ホントに勘弁してくれって……


「それでは、少し話をしましょう」


 アマテラスは着物を正しく着付け直して立ち上がると軽く埃も払ってそう告げた。

 先ほどの甘い表情は一変して凛とした眼でオレらを見る。ずっとソレで居てくれ。


「『エンジェル教団』の要求は“王龍天の首を差し出す”ことです」

「それは無理ね」

「同意」


 オレは当然、マスターの意見に賛成。

 龍天の爺さんにオレは金貨100枚預けて(取られて)いる。回収するまで死なせねぇ!


わたくし達の要求は、貴方達がこの抗争の傍観者になる事。ヤマト、スサノオ、カグラの行動の停止を願い出るわ。無論、貴女もね」

「それは無理な話です」

「同感だ」


 普通に双方納得がいかない。そんで、話が決裂した時にどちらかの要求を通すためのジパング式の決め方は――


「だったら――」

「それでしたら――」


「「“御前仕合”で決めましょう――」」


 それが一番最良か……問題は誰と誰が戦うのかだが――


「ヤマト」

「ロー」


 二人は各々の眷属を見る。あー、うん……デスヨネー。

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