第96話 カグラの正体
『妖魔族』。
彼らは未開の島国ジパングのみに存在し領土の八割を支配している種族だった。
彼らの目的は【始まりの火】。
自分達の生きる闇の中で狂わずに居られるのは、原初から輝く“火”が太陽の如く彼らを照らし続けたからである。
ソレが崇拝から奪取へ変わるのは当然と言える変化だった。【始まりの火】を手に入れる為に彼らはジパングの首都『港城下』を幾度と襲撃。
【始まりの火】が安置されている『宵宮』へ侵攻するも、『港城下』に在中する侍と『宵宮』を護る“眷属”に阻まられ、過去一度足りとも『宵宮』の外壁にさえ触れた事はなかった。
そんな【始まりの火】を何世紀と狙う『妖魔族』であったが、一度だけその眼前に立った一族があった。
【土蜘蛛】。
彼らは『妖魔族』の中でも高い能力を持ち、数多の妖魔を餌として見る程に危険な捕食者の一族。彼らが本腰を入れて【始まりの火】を手に入れる為に動き出す。
【土蜘蛛】は情報を集め、『城下町』へ潜入、侍を殺し、徐々に戦力を削ぐと、“眷属”の一人を仕留めた事で決起した。
『港城下』の戦力が落ちたと判断した彼らは『百鬼夜行』を招集。数多の『妖魔族』が列に加わり『港城下』へ侵攻を開始した。
だが『百鬼夜行』は【宵宮の盾】ジュウゾウによって阻まれ、返す刀で攻めた【宵宮の刀】ヤマトによって『百鬼夜行』の首魁である【土蜘蛛】の頭目は討ち取られた。
発起者の死によって『妖魔族』は慌てふためきそこへ【宵宮の槍】スサノオが侍と共に追撃。
ヤマト、スサノオ、侍によって『百鬼夜行』は完全に瓦解すると、改めて【始まりの火】には届かない事を『妖魔族』へ刻み付けた。
しかし、その一件で『港城下』の市民にも甚大な被害が出た事で『宵宮』は【土蜘蛛】が、戦闘力以外にも危険な能力を持つと認識。三日三晩の協議の末、一族の断絶を決定する。
討伐大将としてヤマトへ命を与え【土蜘蛛】一族の殲滅へ向かわせた。
ヤマトは【土蜘蛛】の巣へ躊躇いなく足を踏み入れると、向かって来る者を片っ端から排除。戦意喪失する者も女子供も逃さずに斬り捨て、彼が最後に見つけたのが幼子のカグラだった。
カグラは食糧庫で小さく泣いていた。
カグラは産まれたばかりだったが、とても弱い命から一族の
ヤマトは何を思ったのかカグラを連れて帰った。そして、己の片眼と引き換えに【始まりの火】よりカグラの命を補填する様に提案したのである。
【始まりの火】はヤマトの『【土蜘蛛】討伐物語』の締めくくりとしては相応しいと称え、カグラへ“火”の断片を渡し、最も幼い眷属として迎え入れた。
その一件から『妖魔族』は再び【始まりの火】を崇拝し平和な日々が続いた。
次に『百鬼夜行』を率いる【夜の太陽】“
「ってのが、カグラの経緯だ」
「…………」
「…………」
当事者のスサノオが語り終えたカグラの過去に、レイモンドとレクス少佐は言葉を失っていた。
オレもさ、ジパングに行った時、ヤマトの片眼を抉ったヤツはどんな化け物だったのか、興味本位でジュウゾウの爺さんに聞いたんだよ。
そしたら、“緊縛幼女”カグラの事を語られたモンだからびっくりしたぜ。
「つまり……カグラさんは【始まりの火】の一部を?」
「【始まりの火】の眷属は全員、“火”から断片を受け取る。カグラは比率が多いが、あんまり出来る事は本来の能力と変わらない。ほんの少し身体の成長が遅いくらいだな」
「カグラ殿は今、いくつなのですか?」
「1200歳くらいかな? 1000越えたくらいから数えるの止めてんだよ、俺らは」
【始まりの火】の眷属は全員、自分の全盛期で時間が止まる。故に各々が最も強い時代を維持している。
「今回は仲良く見聞を広めましょう、って事で同行させてる。カグラはまだまだ子供だが、俺らが鍛えてるからな。“眷属”としての水準は満たしつつ、まだ伸び代がある」
いずれ【始まりの火】の中で最も強い“眷属”に成る、とスサノオは嬉しそうに語る。
「あまり意識すると強さを追い求める理由が分からなくなるな……」
「……僕も」
レクス少佐とレイモンドはカグラの血筋や経緯からも自分達とは全く違う存在であると感じているようだ。
「いやいや、それは比べるべきじゃないって。それに俺らは人が届かない様な存在じゃない。現にカグラは【武神王】の二番弟子のクルカントに完封負けしてるからな?」
まぁ、クルカントも【星の金属】の眷属で寿命を伸ばしているが義手以外は生身なのである程度は納得……出来ねぇよ。基準値が高過ぎる。
「まぁ、眷属は基本的にオレらの社会には不干渉だ。だから別に気にしなくても良いんだよな?」
「そう言う事」
「いや……眷属のお二人に言われても……」
「説得力は皆無だな」
あ、そう言えばオレも眷属だったわ。一応はちょっと物知りで【オールデットワン】を持ってるだけの一般人なんだけどなぁ。
…………やべ。マスターの影響かオレも一般人の感覚がちょっとズレて来てやがる。
「ま、まぁ。とにかく、それなら注目も注目だろ?」
オレはモニター映像へ二人を促す。
「その規格外に一般人の手が届くかも知れないぜ?」
そんな話をしている間に中継映像はカグラと、その対戦者へ注目していた。
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