第153話 全員死んだぜ?
港町『シーモール』では『シーアーサーブレード争奪戦』の状況が特殊なアーティファクトに『音魔法』で伝えられ、ソレを町全体へと流していた。
『盤外で戦闘があったようです! ハワイが、【ダイバーランク4位】のボーゲンを撃破! 『
「…………」
その放送を聞いているのは昨日、ローハンとウェーブに怒鳴り付けた酒場の店主だった。
『シーアーサーブレード争奪戦』を肴に酒や飯を求める者達へそれらを提供しながら、かつて【ブレードダイバー】だった頃を思い出す。
そして、ある日ウェーブが引退した理由を聞きに訪れた時の事も。
“おやっさん、あんた『シーアーサーブレード』にたどり着いたんだろ? 何で引退したか、解っちまったよ”
「…………誰かがやらなきゃ行けねぇんだよな」
遥か昔、荒れていたこの界隈へ現れた“英傑”アーサー・ペルギウスは『海人』に一つの夢を残した。
“この剣を君達に捧げよう。いつの日か、この剣を抜く者は『伝説』の続きを作るだろう”
「……俺達じゃ無理なんだよな」
だから、夢のままで良いのだ。
「ボーゲンやられたよ、ウェーブ」
「ケッケッケ。ボーゲンの野郎はスタイリッシュに決められないのかねぇ」
「だが、アイツは100点の仕事をしたぜ」
ウェーブは『人魚』と『海人』の仲間と共に『海底迷宮』からボーゲンとハワイの戦いを見届けていた。
ハワイは戦闘不能にしたヤツを絶対に見捨てない。安全な丘まで運ぶだろう。そして、律儀に『海底迷宮』へ、入り口から入ってくる。
「“海割れ”による入り口はそろそろ閉じる。ハワイのアホは伝説に縛られて、もうここには戻れない」
『シーアーサーブレード』を手に入れるには正式な手順で『海底迷宮』を越える必要がある、とハワイは愚直に信じている。
「俺たちは――」
ウェーブは周囲の反響音から、急ぐぞ! と声を出して走り出すローハン達の位置を捉える。
『海底迷宮』は常に微弱な『音破』が反響している為、『海人』は『シーアーサーブレード』は感知出来ず、短い時間で歩き回ってしらみ潰しに探すしかない。
問題があるとすれば、『音魔法』以外で広域を検知する魔法を持っている可能性のある『海人』以外の種族――
「小粒どもを始末するぞ」
「オッケー」
「スタイリッシュに行くぜぇ!」
正直な所、状況は思った以上に悪い。
『海底迷宮』は『雷魔法』『広域検知』でさえ把握しきれない程に広大だ。そして、地形を把握したとしても、本命はこの『海底迷宮』のどこかにある一本の剣である。
「ハワイは何度か挑んでるから、経験則を期待したんだけどな……」
それでも、オレの広域検知とハワイの経験則が合わされば『シーアーサーブレード』を見つけることは現実的に不可能じゃなかった。しかし、今はその片方には頼れない。
周囲の海壁から海獣による奇襲の可能性と、『海底迷宮』がいつまで存在するのか解らない以上は、先に進むしかない。
「お前達、はぐれるなよ! はぐれたら終り――」
と、オレはやけに静かな様子に後ろを振り返ると、カイルとリースの姿がなかった。代わりに海壁が塞ぐように退路を断っている。
「!? カイル! リース!」
いつの間に!? まさか……この『海底迷宮』は――
「……常に変化してやがるのか」
ローハンは冷静に確認すると『海底迷宮』は常に海壁が出現と消滅を繰り返していた。
先を急ぐあまり見落としていた。二人はその変動に巻き込まれたのだろう。魔力の反応を確認する……海壁の外には出ていない様だ。
「ギリギリ何とかなるか」
「バカが。お前らは先には行けねぇよ」
すると、上から声が聞こえる。
そちらへ視線を向けると珊瑚礁の上からウェーブがオレを見下ろしていた。そのまま、タンッ、と飛び降りると近くへ重々しく着地。
大柄なウェーブの体格は素手ならばオレを一捻りで殺れそうな程の筋肉を搭載している。
「小粒どもはここで死んどけ」
「そうやって、オレらを嘗めたヤツは全員死んだぜ?」
ウェーブは、コキコキ、と首を鳴らすとその場で拳を突き出し、空気を叩くような衝撃波を飛ばしてくる。
ソレをオレは手を翳して、キィィィィン! と同じ質の『音破』で相殺した。
クロエの『音魔法』に比べれば子供騙しだ。
「ハッ、そのくらいは出来て貰わねぇと、殺しがいがねぇぜ!」
ウェーブは間合いを詰めるように走ってきた。確かに体格差からしてもインファイトが有効だろう。
どのみち、ウェーブを潰さないと『シーアーサーブレード』にはたどり着けない。時間もない――
「お前にかけられる時間は5分だ」
「やって見ろや! 小粒野郎!!」
ウェーブの突き出す拳に合わせてオレも拳を突き出す。
互いに『音破』の乗った拳がぶつかり合い、衝撃波が周囲の海壁を揺らす。
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