遺跡編 終幕 滅びの先導者
第145話 もしかして、今のってお前?
現状、どうやって『遺跡』内部に入り込んだのか全くもって不明だ。更に今、何層に居るのかもわからない。
分かっている事は、季節は『夏』で、場所は『海辺』。しかし、ここが島か大陸の端かで状況はかなり変わる。
何にせよ、まずは現在地の情報が欲しい。
「レイモンドが居りゃあな」
「おりゃー!」
オレが目の前の密林を突っ切るか、海岸沿いを進むか悩んでいる横で、カイルは器用にヤシの木に登ってその実を取ろうと引っ張っていた。
目を離した隙に、すーぐ、木に登る我が弟子はリードを離した犬と同じだ。まったく、無駄に体力だけは有り余ってやがる。
「おーい、カイルやーい。何やってんのー?」
「喉乾いたからさー、ヤシの実を――うわっ!」
不意に実が外れてバランスを崩すした愛弟子に対して浜辺の砂を魔法で坂道状に隆起。その上を滑らせて、安全に着地させた。
「サンキューおっさん!」
「あんまり、余計な事して体力使うなよ」
「わかってるって」
一個抜いた衝撃でヤシの実は幾つか落ちてきた。オレも落下した実を一つ貰う。
「にしても、準備が何も出来なかったのは致命的だ」
手持ちは金と剣のみ。後、今ゲットしたヤシの実。
そもそも『遺跡』に入る予定も無かったし、気がついたらここに居たのだ。
なんで『遺跡』内部に居るのかは一旦置いといて、自分達の置かれている状況を把握したい所。取りあえず、
「カイル、高い所に行くぞ。周囲の地形を確認して置きたい」
「おー」
カイルはついでに落ちてきたヤシの木の葉で、落ちたヤシの実を全て確保すると風呂敷みたいに纏める。泥棒の様に抱えると目の前の密林を進むオレの後に続いた。
「おっさん、おっさん」
「なんだ?」
暫く、ガサガサと茂みを掻き分けて進んでいると背後からのカイルに返答する。
「なんかさ、おっさんと二人きりで冒険するのは初めてかも」
ニッ、と嬉しそうに笑うカイル。村に居た頃は近くの街に行って帰る程度しか遠出したことは無かったな。
後は村周辺の地形調査に着いてきて、一緒に一晩過ごしたくらい。
「そうだな。けど現状は冒険って意味の客観視は出来ないぞ」
「そう言えば……なんで俺達は『遺跡』内部に居るんだ?」
「それが解らないから、1個ずつ調べてんの」
登山を開始しながらカイルに説明する。
本来なら相当に危機的状況なのだが、カイルのマイペースぶりにはこっちは逆に精神的に余裕が持てる。
オレは『雷魔法』『広域索敵』を行うが、障害物が多すぎて何が何だか解んねぇな。生体反応はおそらく魔物のモノばかり。やっぱり高い所に出ないと――
「おっさん、おっさん、ごくごく」
カイルが、ヤシの実の一つに穴を開けて、中身をごくごく飲みながらオレの服を、くいくい引っ張る。
「どうした?」
「あれ、なんだ?」
カイルの視線は横。高い所に出る事ばかり考えていたオレからすればそちらは盲点だった。
見ると、石の人工物のようなナニかが見える。何かしら情報が欲しいオレは、方向転換してそちらへ足を運んだ。
「ここは……」
「おー」
茂みを抜けると、そこは拓けた空間だった。その部分だけ木々が避ける様に一つの『石碑』を中心に一定の範囲が拓けている。しかし、それよりも『石碑』には――
「は?」
「あれって……」
『石碑』には淡い光を宿す“願いを叶える三つの珠”が嵌め込まれていた。
その後、オレとカイルは『石碑』の回りを調べた。
苔や蔦が伸びる『石碑』は何百年と忘れ去られた様子で土台に至ってはヒビが入っている箇所がある。それ以外は文字が彫られているが全くもって読めん。雨風で削られてもいるだろう。
「おっさん、あれってさ……もしかして、“珠”?」
「もしかしなくても、間違いなく“願いを叶える珠”だ。しかも、三つ揃ってやがる」
“願いを叶える珠”は言わずもがな『遺跡』のアーティファクトだ。願いを叶える原理もマスターが『星の探索者』全員に説明してくれてもう『遺跡』には用は無いんだけどな。
「なぁなぁ、おっさん。“珠”の願いは爺ちゃんが使ったんだろ? 何でまた光ってんの?」
カイルの疑問は最もだ。
“願いを叶える珠”はエネルギーを全て消費し向こう5000年は次の願いを叶えられないハズ。しかし、目の前の“珠”からは確かな力を感じる。
「まぁ、そんな事はどうでもいいさ」
願いが叶うなら、今の問題も一気に解決する。チマチマ情報を集める必要なく、一気に『遺跡』を脱出だ。
「“珠”よ! オレの願いを聞け! オレとカイルを『遺跡』から出してくれ!」
何でも叶う願いにしてはだいぶショボいが、とにかくマスターと合流するのが先決。全ての辻褄合わせは、後々で良い。
「……ごくごく。なんも起こらない」
カイルはヤシの実の中身を飲みながら変化無く沈黙する“願いを叶える珠”を見る。あれー? おかしいなぁ?
『この珠はここに実態が無いのです』
すると、どこからともなく声が聞こえた。『広域索敵』……生物の反応は複数感じるが、距離を取った位置の魔物たちばかりだ。声の聞こえる距離に生物は――
「もしかして、今のってお前?」
すると、カイルは『石碑』を見上げて、その天辺に止まる銀色の『結晶蝶』を見上げて告げた。手の平サイズの平均的な個体である。
「おいおい、カイル。『結晶蝶』は魔力生物だが、便宜上は昆虫のくくりで意思を持つ事は無いんだぜ?」
『そんな事はありませんよ、おじ様』
「…………」
「こいつじゃん!」
『遺跡』内部……侮れねぇ。まさか、言葉を話す『結晶蝶』がいるとは。
『こいつ、じゃないですよ、お嬢さん』
すると『結晶蝶』は一呼吸置いてから、
『ワタシの名前はリース。貴方達にお願いがあって声をかけさせて頂きました』
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