第144話 家族ごっこ
「大佐。その勲章は……」
ジルドレとレクスの視線にジャンヌが持ってた勲章を見せた。
「『三英雄勲章』だ。陛下が帰国せよと、お墨付きをくれた」
「――おめでとうございます、大佐! 本当……本当に……」
「レクス。その涙は故郷の地を踏んでから流せ」
「はい……」
『ギリス王国第五騎士中隊』はこの瞬間から死兵では無くなった。これで大手を振って
部隊の皆も、家族や恋人に会うことが出来るだろう。
「ふんっ! 第三次千年戦争は休戦状態とは言え、まだ終わっておらん! お前達兵士は敵と戦ってこそ価値があると知れ!」
「心得ておりますよ、マイルズ様」
面倒な貴族に対して適切に対象出来るジルドレが部隊の盾になった。その時、
「!」
突如、ロードスのテントから光の柱が上がった。全員が慌てて振り返ると、光は広がるような閃光となり自分達を呑み込む。
「っ……なんだ!?」
咄嗟の事にジャンヌは閃光を防ぐように腕で目線を隠す事しか出来ない。他の者も同様だった。そして、
「…………」
光の柱は消え、何事もなく静寂する。
ざわめくキャンプ地。しかし、即座に動いたのはジャンヌである。
「ジルドレ! レクス! マイルズ様を護れ!」
ジャンヌはそう命令を出すとロードスの天幕を困惑してる兵士の横を抜けて、失礼します! と返答を待たずに開けた。
「ロードス卿!」
天幕の中には椅子に座るロードスが驚いた様子で呆然としていた。
「無事ですか!? お怪我は!?」
「いや……ワシは何ともない」
「公爵!」
すると、マイルズもロードスの安否を第一に気にかけ、中へ入ってきた。
「騒ぎ立てるな、マイルズ。ワシは傷一つ無い」
「――よかった。貴方様に何かあれば、『ギリス』は大きく傾きますゆえ」
「……ロードス卿、“珠”はどこへ?」
ジャンヌは部屋を見渡すが“願いを叶える三つの珠”は消失していた。
「♪~♪~」
ゼウスは麦わら帽子を被り、『遺跡』内部から帰還した。
その麦わら帽子はタルタスからのプレゼント。手作りで、頭の大きさに合わせてその場でタルタスが調整してくれたのだ。
「皆に自慢できそうね」
友人からのプレゼントにゼウスは上機嫌で自然とスキップなんかも出る程である。
「いや、だから! ソイ姉! さっきの光! ヤバいんスよ!」
「何がどうヤバいのか、ちゃんと説明しなさい」
「なんかこう……ザワザワするって言うか……とにかく! 『骨』が一級品の警告放ってるっス!」
『遺跡』から出ると、都市はなんだかザワついていた。ゼウスは近くで会話をしているセルギとソイフォンに事情を聞く。
「セルギ、ソイフォン」
「あ! ゼウス様!」
「ゼウス様――って何ですか……その麦わら帽子……はぁ!!?」
「あら気づいた? 友人からのプレゼントなの♪ 似合う?」
「可愛さ、六割増しです! しゃ、写真良いですか!? いや……スケッチさせてください!!」
「ふふ。後で良いかしら? 先にクランの皆に自慢したいの」
ソイフォンは思わず抱き締めたくなる今のゼウスの姿を、網膜に焼き付けて後にヌイグルミ化する事を固く誓った。
そのソイフォンを押しのけるようにセルギが前に出る。
「ゼウス様、聞いてくださいっス! さっき、光が通り抜けたんスけど! それが何だか変な感じだったんスよ!」
「光?」
「ゼウス様は先ほどはどちらに?」
一度、こほんっ、と咳を入れて落ち着いたソイフォンが問う。
「『遺跡』内部に居たわ。上層の友達に挨拶しに行ってたの」
「『遺跡』の中に友達が居るんスか……」
相変わらずデタラメな行動を取っているゼウスにセルギはそんな言葉を漏らす。
「先ほど、妙な光が遺跡都市を通過したんです。それをセルギが変だと」
「なんか! ゾワゾワするような……心地悪いナニかっス!」
セルギもカイルと同じで感覚型な人間だ。自分の考えを口にするのが苦手なタイプである。
「
そう言ってゼウスはセルギとソイフォンを連れ、『星の探索者』のベースキャンプへ足を運ぶ。
その道中、二人の言う“都市を通過した光”に対してざわめく声が絶え間なかった。
「ボルック、居る?」
そして、観測しているであろうボルックの元へ足を運ぶが、
「……ボルック?」
テントの中には誰も居ない。機材は動いたままになっており、ついさっきまでここに居たかのような痕跡が残っていた。
「誰も居ないっスね」
ベースキャンプからは人の気配が無い。ゼウスは機材を操作し『星の探索者』全員の居場所を索敵するが――
ローハン・ハインラッド
クロエ・ヴォンガルフ
サリア・バレット
ボルック
スメラギ
レイモンド・スラッシュ
カイル・ベルウッド
全員――LOST
と言う結果だけが表示される。
前は失敗した。
あんな奴らが居るとは思いもしなかった。
しかし……今回は繰り返さない。
【原始の木】、お前はミスを犯したのだ。
「他人との絆など足を引っ張る汚点でしかないのよ」
大切なのだろう? この家族ごっこが。『遺跡』に閉じ込めたお前の家族とやらは私の手中にある。
【原始の木】――お前はもう私に手は出せない。そして、他の『創世の神秘』にも手を出させないだろう。
『遺跡』??層。“夏”――
「…………っ」
オレはさざ波の音と打ち寄せる波の感覚に意識を起こされた。
寝起きの様な気だるさを感じつつも身体を起こすとほんのり感じる頭痛に額を抑える。
「なんだ……何が起こった?」
場所は浜辺。カンカンと照りつける太陽。明らかに遺跡都市じゃない。となれば考えられるのは――
「『遺跡』内部だと?」
「うっ……うぅ……」
「! カイル!」
オレは近くで同じ様に倒れているカイルに気がつき声をかける。カイルは重々しく身体を持ち上げた。
「……あ……おっさん。おはよ」
「ああ、おはよ。大丈夫か?」
「大丈夫って何が……え? ここ……どこだ?」
レギンスを買いに服屋で店員から眼を付けられたカイルは、これも良いですわぁ! お客様! とハァハァ言いながら詰め寄る女性店員に困ってた所で、気がついたらここに居るワケだからな。
「おっさん……これ夢?」
「多分違う。ここは
オレ達はこの時まだ知らなかった。
この冒険が遺跡都市ならず、世界の命運を分ける程戦いになるとは……オレ達
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