第98話 馬鹿とは会話が成立しない……

「ヤマ、にい、は、なんで、そんなに、強い、の?」

「………………」

「聞い、て、る?」

「強さとは“刃”」

「やい、ば?」

「鈍れば斬られる。群雄の島国においては尚の事。故に研ぎ澄まし強靭な一振となる事は必定だ」

「ヤマ、にい、は、強い、よ?」

「足らん。私とて未だに斬れぬモノは多い。強さそこ全てだ」


 研ぎ、澄ま、す……?

 正直、ヤマ、にいの、言うこと、は、良く、解らな、い。で、も――


「…………」


 誰の、為に、強く、なり続け、ている、のかは、解った、気がし、た。

 姫様、の傍に、居る、ヤマ、にいは、他と、は違う、雰囲、気だか、ら。

 だか、ら、カグ、ラも――


「姫様の、為に、研ぎ、澄ます」


 “火”へくべる、物語を――






「え!? カグラの『ライフリング』を奪うのか!?」


 カイルとソーナはカグラの居る『市街地』へ向かいながら作戦を話し合っていた。


「しっ! 声が大きいっ! どんな手段でカグラがこっちを観測してるのか解らないのよ? 声を抑えなさい」

「あ、ごめん。でもよ、なんか卑怯じゃないか?」

「アンタね……卑怯とか言ってられないでしょ。いい? こっちはかなり消耗してて、カグラは無傷なのよ? 互いにベストコンディションでも天と地程に実力差があるのに、今の状態なら尚更、正面から戦りあって勝てるワケないでしょうが」


 最初から逃げるように戦う事を強いられるのはカイルとしては不本意だった。


「……でもよ。そんな考えだと逆にカグラには届かない気がするんだ」

「根拠は?」

「えっと……何となく!」

「そのっ! 本能的なっ! 感覚にっ! 身を任せるのはっ! 止めなさいっ!」


 ソーナはカイルに詰め寄ると、その額を人差し指でつつきながら捲し立てる。


「痛ってぇ……」

「いい? 生き残らないと意味がないのよ。生きなきゃ強くなれないし次は無い。アンタは今までは運良く猪突猛進で何とかなったかも知れないけど、今回は突っ込めば勝てるなんて考えは捨てなさい」


 ソーナそう言うと踵を返して歩き出す。彼女の言葉はカイルにとって寝耳に水だった。

 言われてみれば、今まで戦う時はいつも誰かと一緒だった。それが当然だと思ってたし、信頼できるクランメンバーだったから存分に剣を振るえていたのだ。


「……そっか。だから、俺はいつまでも『霊剣ガラット』を自分の意志で抜けなかったんだ」


 今までは無茶をしても近くにいるメンバーがカバーしてくれた。けど、今回はそうもいかない。

 カイルは改めて直した己に渇を入れるように両手で自分の頬を打ち付ける。


「! ……何やってんのよ」

「いや、気合いを入れた。勝とうぜ! カグラに!」

「やれやれ。ホント、アンタって能天気ね」

「おう、ありがとな!」

「皮肉よ、皮肉!」

「おう!」

「ダメだ……馬鹿とは会話が成立しない……」


 額を抱えるソーナへカイルはそう言えば、と尋ねる。


「お前の名前、何だっけ?」

「……アタシ、出会い頭に名乗ったわよね?」

「ごめん。なんかさ、戦いに必死で抜け落ちちゃって」


 あはは、と流石のカイルも苦笑いを向ける。ソーナは怒る気力さえも勿体なく感じ、再度名乗る。


「……はぁ、ソーナよ」

「お、俺はカイル! 宜しくな! ソーナ!」

「不安だわ……これからアンタが作戦を覚えられるか」






 カグラの発した魔力を頼りに『市街地』に入ると、斬り崩れた廃ビルがすぐに目に入った。

 視力の良いソーナとカイルはカグラの姿を肉薄し、下手に隠れる事もなく歩み寄るとその前に立つ。そして、


「その仮面の下を……ぶん殴りに来たわよ。“眷属”カグラ!」

「お前、滅茶苦茶強いな。でも……おっさんの方がもっと強ぇ!」


 二人は拳と剣を並んで構えてカグラへ叫ぶ。カグラは『ライフリング』を解りやすい様に手首に嵌めていた。


「始め、よ? お客、さんが、控え、てる、から」


 カグラは“糸分身”を全てクロエへ向かわせ、カイルとソーナが比較的が先に着く様に調整したのだ。

 どうせなら、二組と戦いたい。切り捨ててこちらへ向かってくるクロエの動向を常に把握している。時間は十分にある。


 ソーナは『雷閃』の初動に入り、カイルが先に踏み込む。


「おらっ!」

「う、ん。それ、はもう、見た」


 カグラはカイルの剣を受けつつ、ソーナへの注意は怠らない。しかし、


「お、りゃぁ!」

「!」


 カイルの剣に力負けした。その威力は『ライフリング』による上限(戦闘力2000)を越えている。

 底、力、出て、る? でも、『ライフ、リング』、の、制限、が――


 見ると、カイルの腕には『ライフリング』が存在しない。

 その確認に気を取られた瞬間、『雷経路エレキライン』にロックされた。


「――――」

「……ちっ! 狙いにくい!」


 カグラの中心を狙った『雷閃』だったが、彼女の身体が小さい故に、見切りで交わした際の微調整が間に合わなかった。

 カグラの服を掠めるに留まる。至近距離を通過するソーナを見ると彼女も『ライフリング』を着けていなかった。


 ファイ、ターズ・ハイ、が、続いて、る。二人の、戦闘、力は――


 ピリッと『雷経路エレキライン』の気配。カグラは再度ソーナへ視線を向ける。

 『雷閃』はこの場において特に警戒が必要な攻撃だ。故に『雷経路エレキライン』に反応するのは当然だった。


 あ、違う、こっち、じゃ、ない――


 カグラは即座にカイルへ向き直ると、剣を振り下ろしている所だった。

 それに対して潜って密着状態まで接近すると剣の間合いの内側へ。カイルの身体に肘を着ける。


「『発、勁』」

「ぐっ……」


 カウンターを貰い、カイルは吹き飛ぶ。その間に『雷経路エレキライン接続ロック完了。ソーナの『雷閃』が迫る。


 当たる! ソーナは今度こそカグラを捉えたと確信――


「【白、虎】、『白、尾』」

「!!?」


 次の瞬間、ソーナの『雷閃』はカグラに流され、身体は逆さに飛ぶ様に通過。勢いがそのままに廃ビルの壁に背から叩きつけられた。


「ガハッ!?」


 何が起こったのかソーナは理解していた。

 『雷閃』を見切って流された!? そんな事か……あり得るのか!?

 主に直線起動の『雷閃』は理論上、流す事は可能だ。しかし、そのタイミングは刹那の瞬間を捉えねばならず、生物の動体視力では不可能な芸当だ。


「ソーナ!」


 カイルは壁に張り付いたソーナの落下を受け止める。


「予想……外よ……やっぱり次元が違うわ……」

「はは、でもよ。作戦通りだろ?」


 よろけながら立つソーナの手にはカグラの『ライフリング』があった。先程の『雷閃』で『ライフリング』を掠め取ったのである。


「ふふ、そう、来る、のね」


 ソーナとカイルは自分達の『ライフリング』を着ける。

 ここからは自分達は制限ありの鬼ごっこだ。1分逃げきればカグラを退場させられる。


「勝、負」


 本日初めて、カグラは“攻め”に入った。

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