第99話 胸囲の格差チーム

『取ったぁぁ! 胸囲の格差チーム! なんと“眷属”カグラから『ライフリング』を奪取したぞ! これはこれはぁ! 大物食いがあるかぁ!?』


 実況はカイルとソーナちゃんの活躍に釘付けだ。

 それにしても胸囲の格差チームってウケるな。ソーナちゃんはカイルとの戦いで鎧を外してる事もあって並ぶと余計に分かりやすい。

 まぁ、実際に注目するのはそこじゃなくて――


「ルールの穴を突いたな」


 オレは中継モニターを見ながらソーナとカイルが、カグラへ一泡ふかせた事に感心していた。

 『ライフリング』を外したら1分は本来の力を出せる。レイモンドがカグラと対峙した時に孤島の一部を斬り飛ばした様に、失格と言うリスクは伴うものの1分間はボーナスタイムだ。


「だが、次からはルール外になるだろうな」

「そりゃな」


 スサノオも目の前の『バトルロワイヤル』が無茶苦茶になっている事を認識していた。

 『ライフリング』の着脱による縛りは今後キツくなるだろう。そうじゃ無きゃ、『ライフリング』なんて要素はあって無い様なモノだ。

 それよりも、オレには気になる事があった。


「スサノオ、カグラはいつ『桜の技』を会得したんだ?」


 【白虎】『白尾』。

 あの技は二代目【武神王】が使っていた四大系統の一つである【白虎】の技だ。


「『桜家』はジパング出身だぞ? 桜家は『百鬼夜行』でも大活躍だったからな。“空亡”の後に興味を持ったカグラが習いに行ったんだ」

「じゃあ、他の技は?」

「カグラが使えるのは『白尾』だけだ。他は適正が無いんだと。アイツは眼が多いからな。相性は良い。四つの攻撃までなら同時に捌けるぜ」


 感知能力がずば抜けている【土蜘蛛】ならでは、か。ソレを抜きにしても相当な鍛練が必要になるのだが、カグラも高い素質を持っている様だ。


「つまり、近接は技量的に無効ですか」

「流石に分身体では使えないみたいだな」


 レイモンドとレクス少佐はカイルとソーナではカグラに攻撃をヒットさせるのは難しいと見る。


「一応は王手がかかってるのはカグラの方だけどな」


 今度は制限ライフリングを外れたカグヤから、制限ライフリングをかけたソーナとカイルは1分間逃げきらなければならない。


「やれやれ。仕方ないとは言え、カイルとペアを組むならアレじゃ駄目だな」

「これは、取り返されますね」


 レイモンドも気づいていた。

 ソーナちゃんはカイルを有効的に動かす事が出来れば逃げきれると気がつくか?






 カグヤVS『胸囲の格差チーム』(カイル&ソーナ)。


「来るわよ! ボサッとしない!」

「おう!」


 カイルは油断無く剣を構える。

 制限が外れた状態で『ライフリング』を奪い、そのままカグラを脱落させる。それが、彼女達が掴める唯一の勝機だった。


「勝、負」


 とんっ、とカグラはいつの間にか二人の間に立っていた。

 人の行動には“呼吸”がある。

 何かをしようとする時に吸い、行動に移すときに吐く。

 カグラの感知能力はその間を的確に捉える。


「!!」

「なっ!?」


 カイルとソーナからすれば突然、カグラが隣に現れた様に映っただろう。

 二人は咄嗟に拳と剣をカグラへ振るう。


「それ、じゃ、ダメ」


 カグラが少し身を屈めると、彼女を狙った拳打と剣筋は不自然に軌道を変えて、ソーナとカイルへ向けられた。


「!? くっ!」

「なんだ!?」


 ソーナが咄嗟にカイルの剣を鉄甲で受け、相討ちにはならずに済んだ。その間、カグラは密着状態の二人の胸へ手の平を着ける。


「『発、勁』」


 ドッ! と空間が破裂した音が響きカイルとソーナは左右に分かれて吹き飛ばされる。


 さっきとは威力が違う……


「まだ、やる?」


 カグラの『ライフリング』がソーナの手を離れて宙へ舞う。


 ここで倒れると――取られるっ!


 カイルとソーナは同時にそう考え、意識と倒れる身体を踏ん張らせる。しかし、『ライフリング』が落ちてくるよりも先にカグラへ接近する事が出来な――


「――貴、女?」


 『雷経路エレキライン』の気配にカグヤはカイル・・・を見た。

 『発、勁』……威、力足り、なかっ、た? 手加、減を、し過ぎ、たかな。あ、


「脂、肪の、差、ね」


 カグラはカイルの胸がソーナに比べてダメージを軽減したと判断。

 カイルの身体に静電気が這う。来る。カグヤが身構えた瞬間、ソーナの『雷閃』が背後から飛んできた。


「どいつもコイツもっ!!」


 完全に裏を掻いた。ソーナもカイルも、中継を見ている者達も今度こそ決まったと息を飲む。


「いや、見えてる」


 しかし、スサノオだけは、その程度ではカグラには届かないと解っていた。


「『白、尾』」


 ソーナの『雷閃』に対してカグラは半身になると、足をかけて浮いた所を片手で取って流しつつ、勢いをそのままに投げる。その一連の動作はカイルから視線を外さずに行われた。


「貴、女の、タイミ、ング、もう、解って、る」


 宙へ逆さに投げられたソーナへカグラは告げる。


「はっ……その技出しの硬直に、タイミングの解らない『雷閃』は捌けるかしら?」


 『雷経路エレキライン』が切れてない。刹那――


「『雷閃』!!」


 カイルの『雷閃』がカグラを斬りつけた。


 『ライフリング』不所持によるカグラ退場まで後20秒――

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