第243話 枯れてしまっているのね……
【スケアクロウ】の撃退。
その情報は瞬く間に『太陽の里』に広がり――
「お前がカイルか! 【スケアクロウ】と戦ったんだってな!」
「撃退したって本当か? 大したモンだぜ!」
「カイルさーん! 太陽通信の者でーす! コメントをください!」
「外から来た騒がしい奴かと思っていたが……中々やるじゃない!」
「カ、カイルさん! 遠目で見てからずっと気になってて……」
「あ、抜け駆けすんな、テメェ!」
カイルは『宮殿』で治療を受けて、チトラに『翼院』まで『グリフォン』に送ってもらい、散策ついでに里を松葉杖で歩いていると、そんな形で声をかけられて、前に進めなかった。
「ちょ、ちょっと! 退いてくれよ、みんな! 前に進めないって!」
「そうだ、お前どけよ! カイルさん、俺が送ります!」
「コイツはダメですよ! カイルさん、私が送ります!」
「貴方そこ下がりなさいよ! カイル様は女の子で怪我をしてるのよ!? 介護は女子でやるわ!」
「…………」
『ど、どいてくださ~い!』
カイルの肩に停まるリースが懇願するも言い争いが絶えない。カイルはレイモンドが頭巾を被ってた理由を実感していた。
するとその人集りに、何だろ? と様子を見に来たプリヤにリースが気がつく。
『あっ! プリヤさん!』
「え? あ! プリヤ! 助けてくれっ!」
「あーもう……なんなんだよ……ここの奴ら」
『なんでこんな事に……』
「あっはっは。そりゃ『太陽の民』は皆、『戦士』が好きだからね」
はーい、退いて退いて~、とプリヤは『カイルLOVE軍団(30分前に発足)』を割って抜けるとカイルを救助。そのままフォール大河の沿岸にある日光浴広場まで避難してきた。
『ここは大丈夫なんですか?』
「日光浴エリアはリラックスする空間なのよ。騒ぎを起こすとゼフィラ様が飛んでくるからここまでは来ないよ」
「助かったぜ……」
プリヤは空いているビーチベットに座りつつ、ふむ……とカイルを見る。
「【スケアクロウ】と戦ったんだって?」
「おう! 頭をぶった斬ってやったぜ!」
「それってホント? 後ろから?」
「正面からだ!」
「よく死ななかったわね」
『プリヤさんは【スケアクロウ】と戦ったことが?』
プリヤは思い出す様にフォール大河を見る。
「【スケアクロウ】は昔『太陽の里』に来たことがあったの。その時にね」
「ああ、ディーヤから聞いた。シヴァのおっちゃんがぶっ飛ばしたんだろ?」
「ええ。【スケアクロウ】と戦士長の戦いは『太陽の民』の戦歴に残るモノよ」
『シヴァさんはどうやって【スケアクロウ】を?』
【スケアクロウ】の“不動”はカイル達の戦いでさえ、頭部へ一撃加えた時以外は緩む事はなかった。ソレをシヴァは『
「当時はアシュカ先生もご存命で、ゼフィラ様と一緒に戦士長をサポートして【スケアクロウ】を里から叩き出したの」
「つまり、三体一……俺とレイモンドとディーヤと同じ状況だな!」
「攻撃をしたのは戦士長が大半だったけどね。里の被害は殆んどゼロだったけど、アタシはそれでも大切なモノを失ったわ……」
『プリヤさん……』
遠くを見つける様な視線でフォール大河を見つめるプリヤ。カイルとリースはディーヤとクシの事もありどことなく察した。
「その……さ。元気だせよな!」
『そ、そうです! きっとプリヤさんが思ってくれてると、その人も嬉しいハズですよ!』
「……それはあり得ないわ。カイル、リース、失ったモノは戻らないのよ」
「プリヤ……」
『…………』
そう、失ったモノは戻らない――
「まさか……吊り橋効果がここまで機能するなんてっ!」
「え?」
『ん?』
くっ……と当時を思い出して悔しがるプリヤにカイルとリースは、あれ? と首をかしげる。
「【スケアクロウ】の襲撃にアタシの狙ってた男が巻き込まれてね。怪我をしたから看病して雰囲気キメて、ヤろうと思ってたら……既に看病の先客が居たのよ。その後、トントン拍子にその子とゴールイン! こんな事、信じられる!?」
「え……えっと……」
『これは……』
「それでアタシは神はいないと言う事が解ったわ。そしてヤる時は躊躇するな、ともね」
どうやらプリヤは失恋の話をしているらしい。しかし、共感が出来ないカイルとリースは困惑の表情しか出ない。
「だからさ、カイル。協力して欲しいの」
「な、何を?」
「レイ君とヤりたいの。どうにかして誘い出せない?」
「あー、んー、んんん……」
あ、コレやべぇ。と感じたカイルは返事を濁す。
「レイ君って可愛いじゃない? あの耳も凄いイイし……抱きしめたら絶対に柔らかいわ! 性格的に彼は絶対に“受け”ね。押しに弱そうだし、部屋に連れ込めば絶対にヤれると思うのよ。カイルはどう思う?」
「そ、そうだな……確かに……レイモンドは上に乗っかると気絶した……なぁ」
『あ、カイルそれ言ったら――』
「――カイルっ!」
と、勢い良くプリヤはカイルの手を握る。
「貴女……レイ君とヤッたのね!?」
「え? リースあれって……ヤッた事になるのか?」
『えっと……多分、セーフだと思う』
「状況を説明!」
プリヤは腕を組んで眼を閉じ、判定員の様に聞いていた。
「――って事なんだけどさ」
『レイモンドさんはその事をあまり言及して欲しくないと思いますよ……』
「どうやら、二人とも“まだ”の様ね」
スゥ……とプリヤは眼を開くと使命に満ちた瞳でカイルを見る。
「カイル。もっと強くなりたいでしょう?」
「! そりゃ勿論だ!」
「アタシには生物的な“枷”がかけられてるわ!」
「な! なんだってぇ!?」
「ソレは肉体的にも精神的にも己の強さを縛るモノ。未だにソレを残していると言う事は……おじさんは……枯れてしまっているのね……」
「おっさんじゃ教えられない事なのか……?」
「必要なのはレイ君よ! アタシの見立てでは彼も同じ状態である可能性が高い……」
「マジか……レイモンドも……」
強くなれる。と言うフレーズに疑いを持たないカイル節はプリヤの言いたい事の本質をまるで理解していなかった。
「だからレイ君を連れてアタシの所に来なさい。あなた達二人を“解放”するわ!」
「わかった! レイモンドを連れて来るぜ!」
『…………』
ぐっ、と握手を交わすカイルとプリヤ。
リースは、ローハンさんに事情を説明しておかないとなぁ、と放置するととんでもない事案になると認識した。
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