第233話 『永遠の国』の番人

 『太陽の里』から北西へ三体の『グリフォン』が飛ぶ。その鉤爪にはロープで吊るした荷箱を持ち、それは開けた草原地帯へとゆっくり着地した。


「ふいー、窮屈だった」


 その荷箱の扉が開くとカイルは伸びをしながら外の空気を吸った。その背には『霊剣ガラット』が共にある。

 レイモンドは長耳で周囲の音を聞きつつ月の魔力を認識する。

 戦化粧をしたディーヤは肩にリースを乗せ、腰には『戦面クシャトリア』を下げていた。


「おー、広いな」

「あの金属の壁が噂の……」

「『アステス』の国境ダ」

『なんと言いますか……何も感じませんね』


 本来なら存在する“気配”や“生物の息”などが何も感じられない。

 まるで神聖な空間であるかのように、木々だけが存在し、目の前の金属の壁には魔物でさえ近寄る事を避けている様だった。


「あの塀の向こうには何があるんだろうな。【スケアクロウ】を倒したら覗いて見ねぇ?」

「本当に君って怖いもの知らずだよね」

「好奇心で生きてる様な奴だナ」

『流石にあの先は行かない方が良いんじゃ無いかなぁ……』


 その金属の壁より、かなりの距離を離した位置から様子を伺う四者。『グリフォン』の世話係として同行したチトラは彼らを撫でながら【スケアクロウ】の出現に備えて落ち着かせる。

 すると、ザザザ……と近くのトーテムポールからゼフィラが現れた。


「私は基本的には状況を巫女様に伝える為の観察者だ。【スケアクロウ】が場から去るまで、手を出すことは無い」


 例え、戦う者の誰が死にかけようともゼフィラは静観を決め込む事を改めて宣言した。


「リース、チトの所へ行ケ」

『はい。皆さん、気をつけてください』


 パタパタとリースはチトラの肩に移ると、歩いていく三人の背を見送った。






 三人が近づくと、ピシッ、と金属の壁に切り込みが入り、“ソレ”が通れる必要な広さまで開いた。


「――――ピピ」


 前屈みで歩きながら現れたソレは生物ではなかった。

 大柄な体躯は直立すれば三メートルは越えるだろう。しかし、前屈み故に二メートル半の高さに見える。

 全身が金属の装甲フレームに覆われているからか重々しく歩む様は小山の様な印象を受け、周囲が自然に包まれている事からも特に異質な存在感を持つ。

 前屈みの姿勢を考慮しても地面に届きそうな程の長腕アームは丸太の様に太く、明らかな攻撃性を秘めていた。

 大きさの違う二つの眼は赤く点灯し、三者へ悠然と近づいてくる。


 【スケアクロウ】


 ソレが目の前に現れた『永遠の国アステス』を護る不動の番人の名称だった。


「アレが【スケアクロウ】ダ」

「生き物じゃねーじゃん」

「『機人』の類いですね。カイル、クロエさんを助けに行った時の中層を覚えてる?」

「ああ。やたらドカンドカン煩かったトコだろ?」

「あそこで見た敵と同質の敵だ。手足や首を落としても倒せない可能性が高い」

「【スケアクロウ】の手足ヲ落としたなんて話は聞かないがナ」

「じゃあ、あの時と同じでいいな!」


 カイルは背の『霊剣ガラット』を意識する。


「それも選択肢の一つだ。動く以上はそれに伴って熱も生まれる。それを助長させて内部から故障させるのも手の一つにしよう」

「レイモンド、なんでそんな事知ってんだ?」

「……君は遺跡内部から帰って同じ状況になった場合の知識を他の人に求めたりしなかったのかい?」

「? そんな必要は無いだろ? 要するに……どんな奴でもぶった斬れば良いんだから、素振りと稽古をクロエさんにつけて貰ってたぜ!」

「…………」

「話はそこまでダ。二人共」


 話をしている間でも【スケアクロウ】は歩いて距離を詰めてくる。

 ソレから視線を外さないディーヤの言葉にカイルとレイモンドも【スケアクロウ】に意識を向ける。


「奴の主な攻撃手段ハ、腕による打撃ダ。受けようと思うナ。単独じゃ絶対に勝てなイ。回避に徹して、常に二人以上の的を選ばせる様、動き回――」


 すると【スケアクロウ】の歩みが止まった。

 三人が一瞬、間を取られた次に、カシュ、と口部が開く。


「!」


 カッ、と光を感じた瞬間に放たれた光線に反応したディーヤはカイルとレイモンドを突飛ばし、自分も反対側に倒れる様に避ける。

 直撃は間逃れたものの光線の通り抜ける際、遅れて生まれた衝撃波により三人はバラバラに吹き飛んだ。


「だぁ!?」

「なん!?」

「クッ……」


 照射は一瞬。だが、その一射によって全員が態勢を崩している。


「なんだぁ? 今の――!!」


 【スケアクロウ】が最初に狙ったのはカイル。丸太のような腕部を勢い良く振り下ろしてくる。

 カイルはそれを転がって避け、腰の剣を抜きつつ膝立ちで起き上がる。振り下ろされた腕部はスカす形になったものの、ズゥン! と僅かに地面が揺らす程の威力を伝えた。


「危っぶ――」


 【スケアクロウ】は、振り下ろした腕部を開き、手の平で掬い上げる様に地面を抉り、土をカイルへ浴びせる。


「うわっ!?」


 次の動作の呼吸が取れなかったカイルは思わず薄目で土を耐えしのぐが、その向こうから【スケアクロウ】の拳が突き出された。

 反射的に迎撃するように剣を振り下ろす。だが、刃は容易く破壊されるとそのまま【スケアクロウ】の拳を受けて吹き飛ぶ。


「がぁ……」

「カイル!」


 キュイン、と【スケアクロウ】の首が動くと、助走をつけて放つレイモンドの蹴打へ腕部の振り回しを合わせた。

 ぶつかる衝撃波が逃げ場を失い、周囲に散る。そして吹き飛んだのは――


「ぐっ……」


 レイモンドの方だった。

 あり得ない……直立状態の殴打で僕の蹴りが負けるなんて――


「二人とも、止まるナ!」


 吹き飛ぶレイモンドと入れ違いで『戦面クシャトリア』を着けたディーヤが【スケアクロウ】へ接近する。


「ピピ……」

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