第36話 なんだ、このおっさん!?

 ネイチャーと遭遇し、なんか解らんが許されたオレらは、更に『巨大人樹』へ近づく。すると、


「ん?」


 オレは煙の臭いを感じた。


「近くでヒトの声がします。野営地キャンプがあるようです」


 レイモンドも種族として秀でている聴力で気がついたようだ。


「え? 他のヒト居んの?」

『全員が全員、ワタシ達のルートを通ってきたワケではない』

「言っとくが、オレらの通ってきた上層と中層は、難易度的には高い部類だからな?」


 実際にボルックは身体を変えたワケだし、オレらのパーティーも無傷ではない。

 カイルにはそこんとこに緊張感を持ってもらいたいもんだぜ。


「運が良ければ、中堅のパーティーでも下層には来れる。使えるアーティファクトが手に入るかは別の話だけどな」

「ふーん」


 前にカイル達が来たときはそんな事を気にする間も無く引き上げたみたいだったからな。しかし、今はそんな事よりも――


「ネイチャーの居る森で焚き火するヤツは自殺志願としか思えねぇ」


 ちょっくら、注意して行くか。クロエ救出の際にネイチャーから横槍を居られたら目も当てられん。






 煙の臭い、レイモンドの聴力、ボルックによる痕跡の追跡、と言う三つの要素を頼りに、少し迂回して『人樹』から1キロ程西に野営地を見つけた。

 焚き火の煙を遠慮なく上げてるな。こんなに堂々と森の中で火を炊くなんて、ネイチャーは気づいてねぇのか?


 ガサガサと茂みから現れると、野営地に居た三人の冒険者達は武器を持って警戒していたが、次にオレらを見て反応を示す。


「【銀剣】のカイル!?」

「あ、ども」

「【戦機】ボルックだ!」

『初の身体なのだが、よくわかったな』

「【黒蹴球】のレイモンドじゃん!」

「うーん。もうちょっと良い通り名をマスターと考えようかなぁ」

「「「後は――なんだ、このおっさん!?」」」

「…………」


 ハモる三人。

 あれ? おっかしいなぁ……オレも『星の探索者クラン』に居たときは姿を現すだけで騒がれてたのに……正直な所、こう言う反応が一番心に刺さる……


 体育座りで落ち込むオレを察したカイルが腕を引っ張って紹介してくれた。


「こっちのおっさんは俺の師匠!」

「えっと……ローハンさんの異名って何でしたっけ?」

『【霊剣】だ』

「「「【霊剣】のローハン!!?」」」


 三人の冒険者はようやく、オレの素性に気がついたらしい。

 そうだよ~。オレは【霊剣】のローハン。『星の探索者』はオレとマスターで立ち上げたんだぁい。


「【霊剣】って、死んだって話じゃなかったか?」

「いや、クランマスターにセクハラして追い出されたって言ってたぞ」

「いやいや、多額の借金を返す為に地下送りになったって噂だ」

「…………」


 えぇ……オレの世間での評価どうなってんの? カイルも驚いてる所を見ると、知らなかった話のようだ。

 誰だ!? こんなひでぇ噂を流したヤツ!


「あ……ごめん、おっさん。死んだってのは俺だ」

「セクハラうんぬんは……サリアさんが言ってましたね」

『借金の件はクロエだ。ローハンがクランを去った事を長い間、根に持っていたからな』


 ホントにさぁ……人が居ないところで、変な噂を広げるの止めてくんない?

 カイルの件はまだ良いけどさ、クランマスターのセクハラは、肩揉んで欲しいって言うからやってあげただけだし、クロエに関しては解らんでもないが……うーむ……


「なぁ……ボルック」

『なんだ?』

「オレって……実は嫌われてる?」

『クランを去ったタイミングが悪かった。クロウが死去した直後だったこともあり、皆の負の感情が君へ向いた』

「…………」


 オレは、ぽりぽりと後頭部を掻く。

 メンバーの一人が辛い目に合っている時期に、一人だけ目的を達成してクランを抜けたワケだからなぁ。けどよ……


「お、おっさん! 大丈夫! 俺たちが訂正しておくから! レイモンドも協力してくれよ」

「お金のうんぬんは……無くは無さそうだけど……まぁ、ローハンさんは良い人ですし」


 カイルとレイモンドはオレの事をカバーするように冒険者三人に説明を始めた。

 そんはオレの視線はカイルでなく、その背にある『霊剣ガラット』に向く。


“ローハンさん。僕は皆みたいに戦えないけど……もし、死ぬなら……戦士として皆と肩を並べる最後がいいなぁ。だからもし、その形で終われたら『霊剣ガラット』で生き返らせないでね”


「…………」


 男と男の約束なんだよ。

 クロウが死んでから程良く間も空いたし、クロエを助け出したら、この事はキチンと話しておくか。

 と、身内の事で落ち込むのはここまでにして、オレは『土魔法』で焚き火を消す。


「ぶは!?」

「うぉ!? 【霊剣】! なにをする!?」

「この火をつけるのに、半日も板を擦ったのに!!」

「馬鹿、お前ら。ここは火気厳禁だ」


 まさか、ネイチャーの事を知らないのか? コイツら。すると、ボルックが捕捉する。


『近くに『太古の原森エンシェント・ネイチャー』が居る。養分にされたく無ければ、この森で火の使用は控える事だ』

「いやいや、俺らは許可もらってんだ」

「そうそう」

「偶然見つけた、この本が役に立ってよ!」


 と、古びたアーティファクトの本を掲げ、ワケが分からない事を言い出す三人。


「許可? 誰の許可だ?」


 そいつをネイチャーに付き出して養分にしてくれるわ!


「え?」

「だから」

「『太古の原森エンシェント・ネイチャー』から」


 三人が更にそんな事を言い、今度はオレらが声を揃えて、え? と言う。

 その会話の食い違いを解消するべく、冒険者三人に説明を求めた。

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