第19話 氷嵐鳥

 遺跡都市、西門の外壁沿いにギルス騎士団の拠点がある。


「大佐。エヴァンズ隊が帰還しました」


 ジャンヌはジルドレの報告を受けて資料をまとめているテントを出ると、遺跡内部“中層”へ侵入していた部隊が外で待機していた。


「エヴァンズ隊! 以下四名! 欠員無く帰還しました!」


 ジャンヌの姿が現れた瞬間にエヴァンズは敬礼し、それに倣って部下三人も敬礼する。


「よく帰還した3番小隊。エヴァンズ大尉は残れ。他は消費した物資を報告し、次の指示があるまで待機だ」


 騎士団長の言葉に敬礼を解くと、エヴァンズ以外は場を後にする。


「楽にしろ」

「ハッ! 報告いたします!」


 エヴァンズは敬礼を解くと休めの姿勢で持ち帰った情報を口にした。


「今現在“中層”はとても危険な状態にあります!」

「大尉。お前は昔から私の団にいる」

「はい!」

「幾度と死線を越えてきた。その上で、“中層”は危険だと言っているのか?」

「一言で言うなれば、“中層”は『戦場』であります!」

「何と何が戦っている?」


 ジャンヌの質問にエヴァンズはその目で見てきた事を語る。


「鉄と鉄。人ではない者どもがあらゆるアーティファクトを駆使し、爆音と弾丸が絶えず飛び回っています!」

「爆音と弾丸か……個兵の装備はどんなモノだった?」

「武器と身体が一体化しており、姿は違えど【戦機】ボルックの様に生きた兵ではありませんでした!」






 遺跡内部“上層”『冬』。

 レイモンドは走っていた。氷湖に建つ巨城は見た目どおりに広大であり、まずは最も高い位置に“マーカー”を設置しなければならない。


「やっぱり、この上か」


 内部は複雑なので外から昇るしかない。

 ゼウス印の環境適応の腕輪(制限時間付)を腕にはめて、得意とする『重力』の魔法を身体には付与。壁を地面にして駆け上がる。


「…………長いな」


 相当な速度で移動しているが、中々上にたどり着かない。

 氷湖に出た時点でも上が見えない程に巨大な城。山、と言う比喩はそのままの意味でも使えそうだ。と、終わりが見える。


「付与解除――」


 取りあえずみちが切れたので重力を正常に戻す。ふわっと軽く浮いた後に屋根に着地。すると――


「――え?」


 そこには1羽の“鳥”が翼を休める様に身体を沈めていた。

 目測でも身体の大きさは3メートルは越える。翼を広げれば更に大きく見えるだろう。しかし、特質しているのは大きさではなく、


「……」


 その鳥は全身が氷で出来ていると言う事だ。頭から風切羽に至るまで、全てが冷ややかに冷気を発し、体温のようなモノを感じられない。

 氷鳥はレイモンドの気配に気付き、頭を持ち上げると視線を向けてくる。


「やっばっい!!」


 意識を向けられた瞬間、レイモンドは後ろに倒れる様に身を投げる。すると、“凍結”がレイモンドを凍らせるが如く迫ってきた。


「『重力』付与!」


 宙に身体を投げると同時に向きを下へ加重する。


「やばいやばいやばい!!」


 冷える空気で鼻が痛む。迫る“凍結”の範囲から辛うじて外れているものの、意思を持つ様に迫るソレから迅速に距離を取る。


「―――」


 流れる冷や汗は瞬時に凍り、レイモンドは顔に霜を感じた所で、凍結の“追い”が止まった。


「転換!」


 重力の向きを再度変えて、外壁に着地。勢いは殺せないので、滑る様に耐える。


「……」


 視線を上に向けると、波が引いていく様に凍結が消えていく。


「温度の変化を自由自在か……環境に適応してるって言うよりも、支配してるみたいだ」


 特定の環境下において、稀に“無敵”と揶揄される魔物は多数確認されている。あの氷鳥もその類いの代物だろう。

 突発的に遭遇して、何とか出来るレベルの相手じゃない。


「巣でもあるのかな? なんにせよ、目をつけられると難易度は一気に上がりそうだ」


 とりあえず回り道をしてみよう。






「てな、ヤツを遭遇しました」


 レイモンドは戻ってくると毛布にくるまって冷えた身体を、巨大な暖炉の前で暖める。

 彼は十分に仕事をしてくれたらしい。

 城の最も高い位置にマーカーを設置し、遠目に吹雪が来るのを見て、降下しながら他のマーカーを出来るだけ設置して帰還した様だ。

 クランマスターが迎え入れたのも納得の腕前である。


「そんなヤツが居んのか!」


 カイルは少し暑いと感じて防寒具を脱いでいる。服越しでも分かる大きな乳房は少し汗を掻いていた。

 暖炉のある一室は、普段はタルタスとサリーが生活しているだけあって、天井は高く、広い。それに比例して暖炉も巨大で火力もある。


「カイル。なんで君はそんな薄着なのさ。寒くないの?」

「この部屋、暖炉がめっちゃ暑くてさ。気にすんな!」

「……」


 レイモンドは思わず強調されるカイルの凸に視線が行くが目を反らした。若いねぇ。

 オレはレイモンドの様子を見る。


「レイモンド。お前、状態異常になってるぞ」

「え?」


 どうやら本人も気づいていなかった様子だ。“低温異常”を受けており、身体が中々暖まらないのはそのせいだろう。


「その氷鳥の攻撃だな。軽度だし、一時間くらいで元に戻る。一応、これ飲んどけ」


 オレは念のために解法薬をレイモンドに飲む様に渡す。ちなみにボルックは、なるべく処理に負荷がかからない様にじっと座り、マーカーの情報を拾っていた。


「出来るだけ節約した方が良いのでは?」

「良いんだよ。こう言うのはあるうちに使うもんだ。道中で紛失したり、破損するかもしれないからな。いざとなれば作る事も出来る」

「……それは初耳ですけど」

「結構簡単だぞ? 特性を理解する必要はあるが、知りたきゃ教えてやろうか?」

「遺跡を出てからお願いします」


 若い内から知識に対して貪欲なのは良い傾向だ。


「カイルには何度か教えたけどな」

「あー、俺は細かいのとか苦手だから。レイモンドに任す!」

「……君は剣を振る以外は本当にポンコツだからね」

「なっ! 誰がポンコツだ! お前は幽霊が怖くて、幽霊船に乗った時はゼウスさんにずっと引っ付いてた癖に!」

「そ、それは今話に出す事じゃないだろ!」

「ハハハ」


 オレが二人のやりとりを笑うと、矛先がこちらに向いた。


「何がおかしいんだよ、おっさん!」

「何がおかしいんですか!」

「お前ら」


 更にキーキー言って来たので、更におちょくってやった。いいね。後世はきちんと育ってる様で安心した。


『出来たぞ』


 すると、ボルックは立ち上がり、一つのユニットをオレたちの目の前に置く。

 マーカーによる周囲500メートルのスキャンで建物内部まで事細かにボルックは把握できる。それを出力ユニットを使えば他と共有することも可能だ。

 立体的に巨城の姿が半透明に映し出された。


『巨城のMAPだ。部屋は確認できる限り50以上。大きさは氷湖の下まで続いている。ワタシ達が内部に入ったのは扉ではなく窓だ』

「おいおーい。冗談だろ」


 広過ぎる。まるで国一つが一つの城に纏まった様だ。しかも、部屋の全てが巨大で、全部捜索し、“中層”への階段を見つけるとなると1ヶ月はかかるだろう。


『加えて屋上には強力な魔物がいる。ヤツの動きと習慣を把握しない限りは屋外は危険だな』


 レイモンドが遭遇したと思われる“氷鳥”も姿をスキャン出来たらしい。


「……ボルック。こいつは原始鳥オリジンバードだ」

『なんだと?』


 オレは氷鳥の姿を見て確信した。コイツは古代種に当たる魔物である。


「『氷嵐鳥ストームフリージア』。コイツは冬を持ってくる魔物だよ」


 とんだ大物が居たもんだ。オレも実物を見るのは初めてだがこんな所で、やぁ、と遭遇するヤツじゃない。

 ちなみに略称は“ストフリ”(クランマスターの命名)。


「本気で追われてたら死んでたな」

「……」


 レイモンドは更に冷えた様で身体を震わせる。オレとしては殺れなくは無いが『シャドウゴースト』の縛りがある。他を巻き込む事も考えればスルー安定だ。

 それに古代種の驚異は『星の探索者』に居れば、全員が知っており、オレの様子からもヤバい奴だと認識してくれたらしい。


「まぁ、今回は関係ないし。今はマーカーの範囲を広げながら地味に階段を探すしか――」

「あら。これはどういう仕組み?」


 すると、上から覗き込む様にサリーがMAPのホログラフに興味を示した。


「サリーは、この城に住んでるんだろ?」

「ええ」


 カイルの問いにサリーは微笑んで答える。


「なら、変に小さな階段とか無かった? 自分達じゃ入れない様なヤツ!」

「うーん。あ、一つ心当たりがあるわよ」

「! 本当か!?」

「ええ」


 これは運が上振れ過ぎているのではないだろうか? ここに来て、有力な手がかりを得られるとは。


「この子の下ね」

「……え?」


 サリーはホログラフで表示されてるストフリを指差した。

 前にストフリが居ないとき、屋上を掃除した際、見つけたとの事らしい。


 クソが! ここに来て運が下振れやがった!


 信憑性はさておき調べる必要はある。

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