第237話 サンキューな!

 【スケアクロウ】継続戦闘時間30分経過。

 『光線ライトレーザー』による射撃5回。

 肩部7mm内蔵砲、残り弾数34/100発。

 敵の排除未だ叶わず――


『対、国境戦線装備『アヴァロン』装着。許可を』

『許可します』

『【戦機】ボルック。出撃する』






 理想的な流れは一対多数。

 一対一で正面に立つことは死と同義である【スケアクロウ】を倒すには的を分散させる必要がある。

 どれだけ早く動き、どれだけパワーを持とうとも“腕が二本、足が二脚”である限り必ず死角が生まれる。


「ピピピ……」


 腕部アームの振り下ろし。『音界波動』を纏うソレは上から食らえば間違いなく即死。流そうと受けても逆に弾かれ、あまりの威力に身体が痺れる。


「だから、避けるしかない」


 【スケアクロウ】と相対する三人の中でレイモンドは最も機動力があった。

 ソレは単純な速度ではなく、魔法陣を伴わない『重力魔法』によって緩急の入り方が一層読みづらくなり、至近距離での切り返しは見た目以上の速度に見失う。


「ピピ――」


 だが、【スケアクロウ】にはレイモンドの動きの行く先が見えていた・・・・・

 故に、その緩急も的確に捉え――


「そこカ――」


 緩急をつけて左右に翻弄するレイモンドと入れ違う様に、その影からディーヤが腕に陽気を纏いながら接近してくる。

 ディーヤの小柄な身体を利用した奇襲。タイミングも完璧だったが――【スケアクロウ】にとっては予測の範囲だった。


「! ぐゥ!?」


 腕部アームの振り下ろし。ディーヤは咄嗟に腕をクロスして頭上に構える。

 ゴゥッ! と高所から岩を落とした様な音をディーヤは受け止める。

 『恩寵』による爆発的な身体能力の増加。ソレにより潰される事は間逃れたものの腕部アームが纏う『音界波動』による効果は、ディーヤの小さな身体を鳴動され内部から破壊していく。


「ぐっ……カァ……」

「ソレは不味い」


 吐血を堪えるディーヤの様子を見て、咄嗟に切り返すレイモンドが腕部アームを横へ蹴り弾く。

 だが、【スケアクロウ】の脇の下から、クロスするように放たれたもう片方の腕部アームによる拳をモロに受けた。


「かっ……」


 空中。

 腕部アームを蹴る為に乗せた勢い。

 仲間を庇いに来る。


 戦いの最中、【スケアクロウ】は絶えず情報を更新し、敵を仕留める為に最も有効な手を最速最適に導き出す。


「強いナ……だガ――」


 その小さな身体の全てを集める渾身の一撃をディーヤは腕に纏う。


「『後光の――」

「ピピ――」


 口部が開き溜め無しの『光線』が放たれる。ディーヤの『後光の剣』と接触し、バチッ! と膨大なエネルギーがぶつかり合うと両者の間で衝撃波が起こる。


「グゥ!?」


 小柄なディーヤは吹き飛ばされ、【スケアクロウ】は何事もなく、レイモンドを向き直る。


 バカナ!? さっきは『後光の剣』が上だったハズ――


 『光線』は類比なき攻撃力を持つが防がれる可能性も考えられていた。

 故に『通常』『照射』『集束』の三つのタイプが存在し各々で用途や出力が異なる。ディーヤが押し負けたのは『集束』の方だった。


「くっ……」


 痺れる身体でレイモンドは【スケアクロウ】の腕部アーム攻撃を回避する。

 しかし、先ほどのキレは全くない。確定予測により、数手で捕まえられると結論が出る――

 

 全て見えている。

 全て対応できる。

 ソレを実現するだけの能力スペックを持っている。

 感情も、驕りも、油断も、非合理もない。

 無慈悲、無機質に、敵を始末する事だけを行う【スケアクロウ】を前にイレギュラーを望むのは不可能。

 戦いは長引けば長引くだけ、【スケアクロウ】に対する勝率は0%へと帰結していく。


「――――」


 レイモンドは思わず踏み込みを損なった。機動限界。そうなる事も【スケアクロウ】は予測していた。


 排除。腕部アームがレイモンドへ振り下ろされる。


「――ピピ」


 だが、【スケアクロウ】はその振り下ろしを横から頭部へ飛来した『霊剣ガラット』に対して弾く事に使った。

 そして、投擲してきた方を見ると――


「勝負だ!」


 足の負傷をものともせずに、カイルが不敵な笑みで疾駆してくる。




 


 痛みはある。動きに違和感もある。けど、それ以上に――


「お前は俺が斬る!」


 試して見たかった。

 自分が今、どこに居るのか。ずっと追いかけていた師の背中のどこまで迫れているのか――


「――――」


 【スケアクロウ】は走ってくるカイルへ向き直ると身体を向けて迎撃の姿勢を取る。そして、口部を開き――


 回避予測。命中率……100%


 ヴァ! と『通常』の『光線』が放つ。

 だが、カイルは僅かに姿勢を低くして走り続ける。すると、


「――――ホント……僕の苦労を少しでも解ってくれないかなぁ」


 レイモンドは『重力』による光の屈折にて『光線』の軌道を斜め上に曲げた。

 避けきれなかったポニーテールが焦げて散る。


「――サンキューな! レイモンド!」


 カイルが更に接近。

 【スケアクロウ】はレイモンドとカイルのどちらの処理を優先するかで、一瞬だけ硬直する。


「――――ピピ」


 その硬直は一秒にも満たない。

 あらゆる要素から【スケアクロウ】はカイルの排除を優先する。


「オイ。ディーヤを忘れるナ」


 忘れてなどいない。

 側面から『極光の鉄甲ガントレット』を放つディーヤへは横振りの裏拳で迎撃――


「ォォオオオオ!!」


 放った【スケアクロウ】の裏拳が逆に押し負けた。ディーヤの小さな拳も砕けて腕から血が吹き出るが、消耗した身体で生み出されるにはあまりにも不自然な力――


 【スケアクロウ】は即座にディーヤへ『光線』『照射』を放つ。


「クッ!」


 ディーヤは腕に陽気を纏いクロスて受けるが、そのまま押されて小柄な身体は吹き飛んだ。


 レイモンド、ディーヤ、カイル。

 【スケアクロウ】の処理は更に分散する。


「――ピピ」


 それでも『霊剣ガラット』の排除優先度は変わらない。

 扱えるカイルの排除を最優先事項として、完遂まで100%の確定予測を組み上げた。

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