第111話 まさに伝説です

「それでな。面倒だから山ごと吹き飛ばしたのだ。そしたら『シャドウゴースト』が20は出たな」

「それならわたくしの勝ちね。30人は居たわ」

「おっと、そう言えば40だったかのぅ」

「テン、後出しはズルいわ」

「カッカッカ。ワシはお主にセクハラする奴が居ることに驚きだ」

「ふっふーん。わたくしもまだまだ行けるわよ?」(キランッ)

「お前は紛れもなくいい女だ。我が友よ」

「失礼します」


 『龍連』頭目――龍天りゅうてんとゼウスの楽しそうな会話を扉越しに聞こえつつも、チシンはノックして入室した。


「シン、吉報か?」

「あら、良い話? わたくしも聞いて良いかしら?」

「年配お二人の話しは自慢大会になって永遠に終わらないから俺が茶々を入れに来たんですよ」


 父はゼウスも出会ってから本当に楽しそうだった。病に冒されてから迫りくる死に、焦りと苦しむ父を見てきただけに、この時間はとても貴重だと感じている。

 故に今は部下ではなく、息子として近くに座る。


「調子が良いな、親父」

「カッカッカ。この歳になって生涯で一番の友に出会えたのだ。嬉しくもなる」

「あら、嬉しい」

「ゼウスの姉さん。今、親父はこんな事を言ってますが、現役の時は家族以外信じなかったんですよ」

「こんな家業だ。お前も信頼出来る奴を増やしておけよ」

「シンに好きな人は居ないの?」

「俺たちの寿命と張り合える奴は早々に居ませんよ」

「あら、それならサリアはどう? あの子は『エルフ』で長寿で美人。それに真面目。シンと相性は良いと思うわ」

「おお! 【魔弾】を身内に加えるか! シン、これは良い縁談だぞ!」

「老人達は気が早ぇなぁ……」


 当初は、薬を持って急に現れたゼウスを警戒し『星の探索者』を調べてその面子に背筋が凍った。

 特に【魔弾】。あの女は暗黒社会でも厄ネタの一人である。絶対に『星の探索者』とその身内には手を出さない様に部下には徹底させた。


「今は仕事で手一杯なんで、色々と落ち着いたら考える」


 その後は、チシンも混ざった他愛の無い会話で一喜一憂しつつ、次第に話しは身内の自慢大会へ。


「今思えばそちらのメンバーは凄まじい面子だな、我が友よ」

「能力だけじゃないわ。皆、家族の事を思いやって助け合ってる。見に来る? わたくしの家族」

「カッカ。そうだな……いつもそちらに来て貰ってばかりで申し訳ない。今度はこちらから出向くとしよう」


 龍天とゼウスのさりげない約束は会話の流れからふと出てきたやり取りだった。


「ゼウス、二日後で良いか? 貰った薬が丁度切れる」

「ええ、いつでも良いわよ。あ、チシン、サリアを迎えに来させましょうか?」

「いや、こっちが世話になるから親父は送るよ」


 何かと若い奴らをくっつけたがるのは老人の悪い所だよなぁ。

 そして、決まった。戦争は……二日後だ。






「近い内に『龍連』が攻めてくる?」

「間違いありません、キング様」


 『エンジェル教団』の敷地にてアマテラスは指導者のキングへその事を伝えていた。


「よりにもよって奴らか……」

「“珠”の事は隠しきれる事ではありません」

「ならば、私が考えている事はわかるな?」

「はい」


 遺跡都市で拮抗する戦力は『龍連』『ギリス』『エンジェル教団』の三つ。

 その内の二つが抗争をする事で残ったもう一つ勢力が消耗した所を漁夫の利を得る可能性から知れずとぶつかり合う事はなかった。

 それを王地真おうちしんとジャンヌ大佐が解らぬハズはない。


 遺跡都市にも支部があった『エンジェル教団』は、以前より圧倒的な信徒数を武器に、他二勢力へは牽制が出来ていたが、アマテラスとその眷属達がやってきた事で武力面でも大きく突出した。

 それでも『龍連』と『ギリス』を一方的に捩じ伏せる事は叶わない。そもそも、こちらから仕掛ける征服行為など『エンジェル教団』の思想に大きく反する。


「……情報は何もない。だが……」

「間違いなく『龍連』は“願いを叶える三つの珠”の内、二つを所持しています」


 そうでなければ、武力面でさえも返り討ちに合う可能性がある今の『エンジェル教団』へ仕掛けてくる理由は無い。


「『龍連』の頭目……王龍天の事は知っているか?」

「【空を落とす龍】。王龍天。あの方の“物語”はまさに伝説です。彼の御方が全盛期であったのなら私達以外は今の瞬間に滅んでいたでしょう。しかし、伝説に生きると言う事はいつしか致命傷を得る。龍天様は【魔王】アンラ・アスラとの戦いで残りの寿命を定められました」

「つまり、王龍天の参戦はないな?」

「例え、戦線に立ったとしても圧を飛ばすのみ。大地に立つ事も叶いません」


 それ程に消耗した命。本来なら『エンジェル教団』が迎え入れるべき案件のハズだ。安らかに逝ける様にと……


「……今日より、戦えぬ者、戦う意思の無い者を『遺跡都市』より逃がす。アマテラス、護衛にカグラ殿を貸してくれ」

「構いません。しかし、それ程の手間を掛けるのであれば龍天様と話し合い、“珠”をお譲りになられては?」

「それだけは出来ん」


 目の前の“珠”を手に入れる為に数多の信徒が犠牲となったのだ。コレを一個人の考えで手放す事だけは出来ない。


「死者が生者に与える意味。遺す物、遺す言葉、遺す想い。それだけは我々は違えてはならない」

「キング様がお亡くなりになられても?」

「ふっ、それは一番の愚問だな。私の命は毎日祈りに訪れる信徒達と変わり無い。命に差は無いのだよ」


 『平等公平』。

 それが『エンジェル教団』の指針を決める“六人”の一人――【光人】キングの考える命の在り方である。例え王でも奴隷でも等しく扱い、救う事を心情としていた。


「もし『龍連』が暴力によって我々に訴えて来ると言うのならソレを受け止めるのが私の勤めだ」

「ご立派です。私もその崇高な意思に従おうと思います」

「……やれやれ。お主は聞いたことの無い物語を知りたいだけであろう?」

「ふふ。席ではなく、場に立つのは初めてなのです」

「まぁ、手を貸してくれるならば何でも良い。お主と“眷属”達に救い・・は必要無さそうだからな」


 その後、キングはミサにて信徒達へ事態の説明し彼らの避難を開始。その動きは当然『龍連』と『ギリス』に悟られる。

 『龍連』としては信徒達による肉の壁は厄介だったので邪魔をせず、『ギリス』も近い内に衝突があると察して静観した。

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