第112話 屋敷精霊でございます
「それで、そっちはどんな感じだ?」
オレは夕飯にカボチャシチューを作りながら手伝ってくれるレイモンドに訪ねる。
「正直、どう扱って良いのか……少し困ってます」
「ハハハ。なる程な」
今まで自分の魔力だけでも十分機能していた所へ、別の魔力を知覚したのだ。それに加えて、とレイモンドが捕捉する。
「『月の魔力』は普段、僕たちが使う魔力と全く性質が違うんです」
「だろうな。オレらも月に行った時はマスター以外にまともに魔法が使えなくて苦労したぜ」
オレらが普段使いしてる魔力と『月の魔力』は“水”と“砂糖水”みたいなモノだ。
味のついたモノを自分の魔力として十全に変化させるのは中々に苦戦する。オレも未だに月の上だと六割くらいしか魔法は使えないし。
「――月に行ってたんですか?」
「あれ? 言わなかったっけか?」
「初耳ですよ」
レイモンドは『星の探索者』が月に行っていた事に驚いていた。
カイルとレイモンドには誰かが伝えてると思っていたが……
「当時はオレもビビったよ。朝飯の席でマスターが、次は月に行くわ、とか言い出して急ピッチで『魔道車輪車』を改良したんだ」
「……アレ空を飛べるんですか……」
現在、絶賛空気になっている『星の探索者』の足――『魔道車輪車』は移動する時以外は沈黙している。
マスターが資金を惜しみ無く使い『アルテミス』の職人達の協力(器用な作業と組み上げ作業の人員だけ借りて構想や設計は全部マスターがやった)を得て完成した。オレが知る中では最も精密な魔道具である。
「まぁ、『魔道車輪車』単体性能で飛べるワケじゃないがな」
「でも海の上は走りますよ」
「基本的に地形には左右されない」
最初にロールアウトしたのは、クロエとクロウの加入直後だった。二人を迎え入れた次の足で、じゃじゃーん、って見せられたのだ。じゃじゃーん、って造れるモンじゃないけどな。
「クロウが整備を担当して――」
あ、そっか。だから……皆、月に行ったって言わなかったのか。
「クロウって人。クロエさんの弟さんですよね?」
「ああ。色々あってな。もう死んでる」
「誰かからその名前が出た時以外は聞くべきではないと思ってました」
「良いヤツだったよ。アイツは『星の探索者』で誰よりも皆の事を見ていた」
レイモンドの様子だと【呼び水】の事は誰も話して無いみたいだな。しかし、レイモンドは特に無関係では居られないだろう。
「カイルとレイモンドには話しておくべきだな」
「クロウさんの事……ですよね?」
「クランメンバーとして知っておくべき事だし、何よりレイモンドにも関係がある事だ」
「僕にもですか?」
「ああ」
何せ――
「月は過去に【呼び水】へ審判を下した際に二つに分かれたんだよ」
夕食時で【呼び水】の話を聞かされたカイルとレイモンドはクロウの事を改めて知った。
クロウが生きていればきっと、二人の事も良き、弟分、妹分として接し、悩む時には力になってくれただろう。皆が、そう口にするクロウの事は二人も知れずと好きになっていた。
「何か皆、色んな所に行ってるんだな」
「正直な所、マスターと一緒に居て退屈を感じた事は一度も無いわ。加えて何度も死ぬかと思ったし」
「ふふ。サリアは警戒心が強すぎるわよ。冒険は行き当たりばったりで良いの。責任を明日の自分に丸投げするのが楽しむコツね(キランッ☆)」
「それは少々無責任な気がするけど、荷を持ちすぎるのも良くないのは事実ね」
カイル、サリア、ゼウス、クロエの『星の探索者』四人は『遺跡都市』の入浴施設にやってきていた。
「俺はここに来たのは初めてだから楽しみだ!」
「まさか……『魔道車輪車』の入浴設備が故障してるなんてね」
普段の入浴は『魔道車輪車』の設備を使って水辺があれば簡易な入浴所として展開出来る。しかし、今は壊れており、ボルックとローハンを主導として修理が進められている。
ゼウスも手伝い、女性陣も修理が終わるまで待つと言ったが、
“ここにも温泉あるだろ? たまには知らんヤツと裸の付き合いも悪くないぜ”
と言うローハンの言葉に、そうしましょうか、とゼウスの一声で入浴施設を利用する事になったのだ。
四人は、遺跡都市の入浴施設――『温泉館』の中に入る。中は板張りのロビーと掲示板、飲食の出来る食堂等が隣接していた。
「思ったより綺麗ね」
「そうなの?」
サリアは秩序の無い『遺跡都市』の施設にしては思った以上に荒れてない事を気にかける。他の建物との清潔感の差に少し意外性を感じていた。
「身体を清める事は誰もが望むことよ。ほら、こっちの看板に注意事項が書いてあるわ」
“武器の使用は出禁”
“争いは出禁”
“施設を壊した者は出禁”
“裸で同じ湯に浸かるヤツは皆、
「最後の一文だけ、力強さを感じるわね……」
「ふふ、何て書いてあるの?」
「大人しくて皆仲良くって書いてある。武器とかどこに預けるんだ?」
「預ける必要は無いと思うわ。各々で管理してって事みたいね」
サリアは周りを見回すが客ばかりで、これ程の規則を厳守させる“管理者”の姿が見えない。
「私をお探しですか?」
「!」
サリアは、背後から耳打ちする程の近くから声をかけられて、バッ! っと振り返りつつ腰の銃に手を掛ける。
コイツ……気配は欠片も無かった……
「うわっ!? いつの間に!?」
「? 声だけ? 何かの魔道具かしら?」
カイルも驚き、クロエは疑問を抱く。二人が意識を向けた先にはメイドが一人立っていた。
「なるほど。ここなら貴女は皆を抑制出来るわね」
ゼウスの言葉にメイドは胸に手を当てて一礼する。
「名高きお嬢様方、当館へ足を運んで頂き、ありがとうございます。私の名前はアネックス。クラン『千夜の湯』に所属する“優秀”な
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