第192話 まるで犬だな

 いきなり走行中の馬車からオレとカイルを突き飛ばしてくれた、目付きの悪い女は先ほど話に出たゼフィラって女らしい。

 肩書きは【極光壁】。シヴァやディーヤと同格の『三陽士』と言う上位戦士か。


「中々の雰囲気だな」


 オレは未だに夜の下でしか『太陽の戦士』の戦いを見ていない。ここはほぼ昼間。これである程度の実力が解るだろう。

 と、ゼフィラが一度腕を振ると、ビシッ! とオレとカイルの前方に地面に横へ線が走った。


「その線を越える事はお勧めしない。今の私は手加減が出来ないモノでな。今、帰るなら見逃しても――」

「よっ」


 ゼフィラの話の最中にカイルは平然とラインを越えた。こう言うヤツなんですよ。


「さっき、俺とおっさんを落としたのはお前か! 戦ろうぜ!!」


 カイル、バーサーカーモードにて嬉々として剣を抜く。『霊剣ガラット』と『水剣メリクリウス』は馬車の荷台なので刃を見せるのは普通の剣だ。

 あーあ。こうなった愛弟子は納得するまで止めらんねぇぞ。まぁ、これはこれで悪くない流れである。


「ゼフィラさん、彼らは――んぐ!?」

「はーい。レイ君、ストップー」

「二人の実力、興味ある」

「……」


 『太陽の民』と信頼関係にあるレイモンドは誤解を解こうとしてプリヤが阻止する様に顔を胸に抱きしめた。チトラはこっちの実力に興味を向けているな。

 ディーヤは……なんかゼフィラにビクビクしてる感じだ。


「理解に苦しむ。半陽下とは言え勝てると本気で思っているのか?」

「思ってるぜ!」

「……そうか。そっちのおっさんは?」


 おっさん呼びかよ。多分、お前の方が歳上だろうが。


「オレは後手でいい。順番の方がそっちも楽だろ?」

「……ふん。戦士として最低限の礼節は持っている様だな」


 ゼフィラは戦化粧はしているものの、『戦面クシャトリラ』は着けていない。それと――


「随分と面白い事を考えるんだな」


 オレはちらっとトーテムポールを見る。するとゼフィラは、


「貴様……」


 オレに意識を向けたので、その瞬間を逃さずにカイルが踏み込んで剣を振り下ろし、ゼフィラを斬りつけた。






 俺はゼフィラって人がこっちから意識を外した瞬間に遠慮なく剣を振り下ろした。

 卑怯でも何でもない! 斬れる時に斬る! クロエさんから学んだ“先読み(カイル解釈)”だぜ!

 動く気配がない。確実に捉えた! おらぁぁ!


「この程度で『太陽の大地』を踏むなど――」


 剣がすり抜けた!? はぁ!? 何だコレ? 幻――


「未熟!」


 蹴りが胴を狙って放たれる。よくわかんねぇけど……こっちの攻撃がすり抜けたんだ。あっちも当たらない――


「がっ!?」


 胴にめり込む様に蹴りが入った。くそっ! 剣を振るがやはり、すり抜ける。どうなって――


「この程度ならば消えろ」


 ドンっと深く踏み込んでくる。そして、その腕には光が貯まるように輝いて――


「『極光の手甲ガントレット』!」


 爆発するような光に腹が焼かれる熱を感じる。






 本当にカイルは恐ろしいアホの子だよ。ゼフィラの様子を見るに物理攻撃は無効――と思うだろうが、少しだけ違う。

 そして、その“違う”部分を的確に――


「……貴様」

「へへ。まずは一撃だ!」


 『極光の手甲ガントレット』とか言う一撃に合わせてカイルはゼフィラの頭部に蹴りを見舞った。

 ゼフィラはカイルの蹴りが通った事で集中力が乱れた様だ。『極光の手甲ガントレット』はカイルの腹部の衣服を焼くだけに留める。

 一応、『氷壁』は割り込める様にしていたが、相変わらず綱渡りな戦いをしやがるぜ、愛弟子はよ。


「知ってるか? 人は攻撃してる時が一番無防備なんだぜ! よし! 今のもう一回こい! 次は斬る!」

「…………」


 ゼフィラはカイルの蹴りで口の中を切ったのか端から血が流れている。

 やれやれ。本当に恐ろしいアホの子だよ。何せ愛弟子は、何故、蹴れたのか理解してないからだ。オレはちょっと助言。


「カイルやーい、次に同じ攻撃食らうと身体をぶち抜かれるから、別の攻撃に合わせなさーい」

「わかった!」


 カイルはその場で腰を落として機動力を捨てる重々しい構え。ゼフィラの攻撃に合わせて刃を通すことに集中している。


「……よく吠える。まるで犬だな」

「うるせー! いいから、かかって来――」


 その瞬間、ゼフィラはカイルの間合いの中に現れ、真下から顎を蹴り上げる動作に入っていた。


「!?」


 カイルは当然遅れる。

 あー、アレは無理だ。初見じゃ絶対に対応出来ない。

 至近距離から浮き上がるゼフィラの蹴打にカイルは顎をカチ上げられると、流石に意識を揺らされたのか、


「ぐはぁ……」


 と言う声と共に剣を手放し、仰向けで倒れた。オレは覗き込むと完全にノびていた。しかし、新たな強さを知ってか笑ってやがる。

 服の一部が焼かれて腹が出てるので冷えない様に上着を被せてっと――


「次はお前だ」


 と、カイルへの接近をオレにもしてきたゼフィラは既に『極光の手甲ガントレット』を放って――


「おいおい。そりゃ、安直過ぎるぜ」

「!!?」


 オレが“ある事”をすると、ゼフィラ攻撃を中断して大きく後方に跳び退いた。


「……」

「悪いな。知り合いに、昔やんちゃしてて格上に喧嘩を吹っ掛けた末にボコボコにされて現在は眷属ライフを送ってるヤツを知っててね」

「……何を言っている?」

「端的に言えば、お前のその接近方法の欠点を知ってるって事だ」


 まぁ、スサノオは攻撃が当たるインパクトの瞬間に姿を形作る。

 アイツ場合は“先読み”の精度を上回らないと避けられないんだが、ゼフィラの場合は十分な間が取れるので反撃も容易だ。


「オレをナメてると次で負けるぜ? お前」

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