第32話 ロマンだからです
“願いを叶える珠”
この遺跡都市では、ソレを巡って何度も争いと血が流れてきた。
しかし、話題に上がる珠の殆んどは偽物だったり、嘘の情報だったりと、信憑性に欠け、願いなど叶えた者は誰一人と居なかった。
そんな曖昧な夢物語よりも『遺跡』内部より発掘される数多のアーティファクトの存在の方が現実的とされ、訪れる者の注目はそちらに向けられる。そして、珠の存在は伝説のような扱いとして人々の間に流れていく。
「とても、とても、ロマンのある話だと思いませんか?」
今期の遺跡都市。
エンジェル教団陣営にて、教会の屋根の上に座りながら陽射しを浴びるアマテラスが問う。
「此度の抗争をロマンと申されるか! 中々の格を持っているとお見受けする!」
そのアマテラスに問われたのは背後に、ドンッ! と腕を組んで直立不動で会話するスメラギであった。
覆面で顔を覆い、見えるのは目元だけ。バタバタとマフラーがはためく。
「本日、私を訪れるのは【烈風忍者】様ですか」
「我が
ゼウスより、これから起こりうる事態に前もって釘を刺すためにスメラギはアマテラスの元を訪れたのだ。
「【原始の木】……ゼウス・オリン。何とも皮肉めいた名前でしょうか」
「……主様は、アマテラス殿との停戦を望まれている。返答やいかに?」
アマテラスは少し考える様に沈黙。そして、
「提案は受け入れません」
「……理由をお伺いしても?」
「ロマンだからです」
と、陽射しを愛おしく見上げると腕を掲げて少しだけ影を作る。
「【始まりの火】が求めるモノは“記憶”。それも、今までに経験したことのない
陽炎のようにアマテラスは立ち上がると振り返る。
「“記憶”は“物語”であり、“物語”は“伝説”。そして“伝説”とは“ロマン”。私が求めるモノは見たことの無いロマンなのです」
「争う事がロマンなどと……蛮族の考えぞ!」
「既に数多の記憶を知る私からすれば、この世は経験したモノばかり。故に見てみたいのです。【創世の神秘】が人に干渉した結果……どれ程のロマンが生まれるのかを」
『星の探索者』は世界各地を回り、多くの神秘を目の当たりにしてきた。
その中でも【創世の神秘】と称えられる五つの現象はこの世界を形作るモノだと言われている程の伝説だ。
「私もゼウス・オリンも人と関わり過ぎました。しかし、悠久の時を生きていればいつかはこうなったでしょう」
「むぅ……」
「【星の金属】も、かつて強者を求め多くを屠った。未だに沈黙しているのは【創生の土】と【呼び水】くらい。あの二つは動くつもりが無いようですが」
「貴女が求めるのは物語。ならば、此度の喧騒はソレに値しないと?」
「ええ。一度見たことのあるモノに新鮮味は見出だせませんから。故に興味があるです。私とゼウス。双方が用いる“力”がぶつかればどの様な物語が生まれるのかを」
『星の探索者』とアマテラス率いる眷属。
ぶつかれば双方無傷では済まないだろう。
“スメラギ。あの女はイカれてる……ってよりもオレらの理解の外にいるからな。あんまり関わらない事をお勧めするぜ”
ローハンの言っていた事はこう言う事か。価値観があまりにも違いすぎる。
“スメラギ。私とサリアでエンジェル教団の注意を引いておくわ。その間にアマテラスに接触して、こちらの要望を伝えておいてね”
「ぬぅ……」
主様。これは拙者が……いや、ヒトが話せる存在ではありません。同じ言葉でも理解がズレております。
「人と関わると言うことは新たな物語を生む。しかし……ゼウスに関しては随分と出遅れた時期があった様ですね」
するとアマテラスは、炎を手の平に出し、文字へ変化させる。
「ゼウス・オリン。古代精霊語より訳しますとゼウスは『叡知』。オリンは『奴隷』を意味します。この名前を与えたエルフ達よりどのような扱いを受けたのか想像がつきますね。実に滑稽です」
「御免!!」
カカッと、アマテラスの足下にクナイが刺さると次の瞬間、爆発が発生し熱と破壊が彼女を飲み込んだ。
「拙者の事ならばいくらでも恥辱に耐えよう! しかし……我が主を愚弄する事だけは許さぬ!!」
「ふむ。やってみるモノですね。挑発と言うものも」
アマテラスは爆発の中でも平然としていた。それどころか一歩も動いていない。
精霊化か!? ならば!
スメラギは、ばっばっば、と印を結ぶ。
アマテラスは炎の精霊化を行い、爆発のダメージを避けた。ならば、風遁にて散らしてくれるわ!
「風遁『斬り風旋風』!」
斬り風を混ぜた風魔法。精霊化のままならば掻き消え、実体になれば切り刻まれる。
回転する風は竜巻となり、スメラギが魔力の供給を止めない限り止まる事はない。
「そのたわわは惜しいが!
精霊化との戦闘は何度も経験がある。それは純粋な詰みの状態。覆す事は不可能だ。しかし、
「色! 即! 是! 空!」
その掛け声と共に『斬り風旋風』は崩壊するように消滅した。
「ぬぅ!?」
眼を見開くスメラギの目の前には、拳を突き出し、角の生えた褐色の男が立っていた。
拳を引き、アマテラスを護るように佇む男はスメラギを見据える。
「あら……もう来てしまったのですか。スサノオ」
アマテラスは駆けつけた己の眷属――スサノオに残念そうな表情で告げる。
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