第24話 最強の眷属
「ゼウス先生。“珠”は見せましょう。【烈風忍者】は貴女のクランメンバーですし、既に我々が入手していることはご存知の様ですので」
ゼウスに隠し事は出来ない。しかし、彼女は身内に手を出さない限りは決して敵対する事もない、傍観者でもある。
故に“珠”を見せても奪う様な真似はしないとキングは判断した。
「入手した経緯を聞いても良い?」
「一人の女が持ってきたそうです」
キングが言うには遺跡“中層”にて探索してた信徒にローブを着た女が話しかけてきたらしい。
「“全て揃える事に意味がある”。女はそう言って、一つの包みを置くと去ったそうです」
「その包みが?」
「ええ。あの“珠”ですよ」
教会の奥にある厳重な保管庫にゼウスを案内したキングは、奥に鎮座された“珠”へ視線を向けた。
保管庫は建物が崩れても中の物は護られる程に強固。外から入るには一つある入り口以外に入る場所はない。
「……」
珠は見えるように置いてあるが、その横には隻眼の兵法者が腕を組んで椅子に座っていた。傍らには刀を立て掛け、ただならぬ雰囲気を放っている。
サリアは腰の銃に手をかけた。
「――!!?」
その瞬間、喉を刀で貫かれる。咄嗟に首筋を触るが、なんともない。
「ヤマト殿。警戒なくても良い。彼女らは珠を狙ってはいない」
サリアは極東の兵法者――ヤマトの気迫に当てられて、喉を貫かれたと強く認識させられたのだ。彼は椅子に座ったまま、指一つ動いていない。
ゼウスは、あらあら、とサリアを見てヤマトへ話しかける。
「相変わらずね、ヤマト。調子はどう? クライブには会えた?」
「……居所がわからん」
「そうなの? 後で教えてあげるわ」
眉一つ動かさないヤマトに対してもゼウスはいつもの調子でコロコロと笑いかける。
「それと、この子はサリア。
「……」
「そう、ありがと」
全くの無表情であるヤマトの言いたいことをゼウスは完璧に察していた。
それでもサリアは腰の銃から手を離せなかった。
「サリア、大丈夫よ。貴女が銃から手を離さないと、ヤマトも警戒を解いてくれないわ」
「……」
サリアは銃から手を離す。
この男……レベルが違いすぎる。その気になればマスターさえも斬ることが出来るのではないかと思わせる雰囲気。認めたくはないが……実力的にはローハンと同格かそれ以上……
サリアは、いざとなれば自分は盾にしか慣れないと覚悟を決めた。
「【魔弾】サリア・バレット」
「……なによ」
ヤマトは口だけを動かし、表情も姿勢も目線も全く変えない。
「その銃口を私に向ける事は推奨しない」
「……どーも。心に止めておくわ」
今、銃を抜いても斬られる未来しか想像出来ない。
「仲良くなってくれたのね」
嬉しそうに微笑むゼウス。サリアは、マスターってちょっと価値観がズレてる所があるよなぁ、と感じた。
ゼウスは、正面にある“珠”へ近づく。
「ヤマト、触っても良い?」
「……キング」
「許可は出している」
ゼウスは“珠”を両手で持ち上げて包むように目を閉じる。
「…………」
そして十秒ほどして、“珠”を元に戻した。
「何かわかりましたか?」
「ええ。キング、貴方たちは“願いを叶える珠”を集めてどんな願いを叶えるの?」
「無論、“主”の降臨です」
キングはためらいなくそう告げる。
「“天の使い”たる我々『エンジェル教団』は、“主”をお迎えする信徒でしかありません」
「うん。そうね、素晴らしい信仰心よ」
「恐縮です。して、ゼウス先生の方は何かわかりましたか?」
「この“珠”は本物ね。三つ集めれば願いは叶うわ」
「そうですか」
世界で最も知恵を持つゼウスのお墨付きを貰い、キングは益々“珠”の獲得に意欲が湧く。
「けどね、キング。これだけは覚えていて欲しいの」
「なんでしょう?」
「“珠”が叶える願いは個人の願いだけ。『教団』が思い描く“主”は出てこないわ」
「……」
「人は心の中に自分の“世界”を持つの。その人の願う“主”はその人だけのモノ。個人が呼び出した“主”は他の人にとっては良くないモノなのかもしれないわ」
その言葉にキングは何かしらの間違いに気づいた様に目を見張る。
「……心に留めておきます」
「ええ。貴方に任せておけばきっと大丈夫ね」
ゼウスはキングの言葉にニコっと微笑む。
「それより、紅茶はまだかしら?」
「……飲んで帰るつもりだったんですか?」
「もちろんよ」
やれやれ、とキングは嘆息を吐きつつも、やはりゼウスが来てくれた事は嬉しかった。
「……貴方、眷属?」
サリアはゼウスに続く前にヤマトへ問う。
「ああ。だが、『原始の木』ではない」
「!」
「サリアー、行きましょー。キングがお菓子も出してくれるそうよー」
「もう良いですよ。なんでも出します」
「だ、そうよー」
「……今行くわ」
眷属と言うものは誰も彼もが化物なのだろうか。
サリアは後ろ目でヤマトを見つつ、保管庫を出た。
「ヤマト殿と戦うなどと思わない方が良い」
「……痛感してますよ、キング司祭」
キングからの助言は言われるまでもない。アレは自分とは違う階層にいる存在だ。
「彼は『始まりの火』の眷属ね」
「……今の遺跡都市って世界的な戦力が寄り過ぎてない?」
「丁度いいじゃない」
サリアの懸念にゼウスは微笑む。
「例え、神様が現れても負けないわ」
「ゼウス先生。私の前でその発言はいかがなものかと……」
ぐっ、と可愛らしく拳を握るゼウスにキングが言葉を挟む。
「あら、キング。貴方の“主”は
「そんな事はありませんが……」
「だったら大丈夫ね」
マスターの雰囲気に当てられると変に身構えるのが馬鹿馬鹿しくなってきたとサリアは笑った。
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