第46話 『アインの撃鉄』
『シャドウゴースト』。
それは『遺跡内部』にだけ存在する無敵の魔物だと考えられている。
『遺跡内部』に長らく存在するか、場の環境そのものに大きなダメージを与える者が現れるとソレを強制的に排除する為に現れる。
見定める様に現れ少しずつ形を成すと、最終的には排除する者が“最も強い”と考えている存在の姿を取る。
それが『シャドウゴースト』が無敵と言われる所以だった。
何故なら、その
知っていればいる程、思っていればいる程、当人にとって『シャドウゴースト』は無敵に近い存在になる。
今回、『シャドウゴースト』の排除対象はローハン・ハインラッド。
彼にとって絶対に敵わないと思わせる存在は『星の探索者』のクランマスターである、ゼウス・オリン。
ローハンはゼウスの“眷属”であるが故に、彼女の能力を全て把握している。
ゼウス・オリンは自分にとって、恩人であり、主であり、人生の師であった。だからこそ、同じ様な雰囲気で笑い、動き、コロンとした仕草に動きが止まるのは彼のゼウスに対する“敬愛”なのだった。
ローハンは根の壁に叩きつけられて、力無く落下しつつも何とか着地。しかし、衝撃でダメージから動けるまで少し時間がかかる。
こっちの想像通りの化物になりやがったか……
それに……完全に【オールデットワン】をコントロールしたことの弊害が……こんなところで出るとはな。
【オールデットワン】は本来なら禁術とされる強化魔法。あらゆる恩恵を得る代わりに、自我を全て失った殺戮兵器と化す。しかも、自力で自我を戻すことは出来ず、時間経過でしか帰ってこれない。
例え女子供でも、躊躇いなく攻撃する事からも、己にも他者にも人道を越えた最悪の強化魔法と言えるだろう。
そんな、ローハンが【オールデットワン】に成りつつも自我を保てるのは、ゼウスのおかげだった。
「ったくよ! 本当に……やりづらいぜ!」
それでも、ここで踏ん張らなければ、この『シャドウゴースト』は他のヤツには止められない。
切り替える。ローハンの戦士としての思考が、目の前の“黒ゼウス”を明確な敵として認識する。その為に、
「すんませんねぇ、クランマスター。ちょっくら反抗期を拗らせてもらいますわ」
喧嘩だと思って思いっきり、やってやるか!
ダメージも回復し、再度向かおうとしたその時、
「パン――」
「……え?」
“黒ゼウス”がそう言いながら合いの手を始める。
「パンパン♪ パパン♪」
その手には膨大な魔力がゆっくりと這っていく。
そっか……『シャドウゴースト』には魔力を溜める必要はねぇのか……って、やべぇ! 距離が遠すぎる! 初動が潰せな――
雷が落ちてくる。1本、2本と、次々に降ってくるが、それは攻撃ではなく発動前の余波だ。
「ドンドン♪ ドドン♪」
「オレが記憶してる魔法を全部使えるのかよ!!」
只のフィジカルモンスターじゃねぇのかよ!
ローハンは拳を作ると勢いよく地面に打ち付ける。
「『鳴神の雷鼓』♪」
「『アインの撃鉄』!!」
閃光が視界を埋め尽くし、轟音が世界へ響き渡る――
「……なんだ? 今の――」
一瞬、世界が消えたと思わせる程の閃光と、世界が砕けたと思える轟音が響いた。
幸い、ソレは背後から来たため、カイル達は根の壁によって護られる結果となり、被害は軽減されている。
「……『鳴神の雷鼓』だ」
「え? 『シャドウゴースト』ってゼウスさんの魔法も使えるのか?」
『能力はローハンの記憶を模している。知り得る全ての魔法を使う存在だと思っても良いだろう』
若干の煙の中をピリッと、静電気が残る。レイモンドとカイルは改めて『巨大人樹』を見ると――
「……え?」
「はぁ? 何だよ、これ!?」
『巨大人樹』は植物では
表層が鉄のような光沢を帯びた“金属”となり、最初から作られたオブジェだったかのように姿を変えている。
『範囲の物質を全て、金属へと変える究極の『変換魔法』。『武神王』アインが得意とする魔法だ』
よく見ると、『巨大人樹』本体だけでなく、背後に延びる根の壁や、土の地面や芝までもが、金属に変わっている。
『ローハンだ。先ほど『シャドウゴースト』が『鳴神の雷鼓』を落とした。ソレを可能な限り分散させたのだろう』
「なんか……知ったような、合いの手が聞こえたと思ったら……」
レイモンドはクロエの位置を把握しつつも、“黒ゼウス”の行う合いの手を聞き間違いかと思っていた。
「それよりも……『人樹』がこんなんになって、クロエさんは無事なのか!?」
「…………心音は聞こえます」
『ローハンの事だ。こちらを蔑ろにはしない』
クロエと場のメンバーを避けるレベルの精密な変換が出来たのは、ローハンだったからと言えるだろう。
『不幸中の幸いだ。『人樹』の妨害は完全に消えた。急ぐぞ、レイモンド』
「はい」
「…………」
作業を再開する二人とは対照的にカイルは金属となった根の向こう側ではどんな戦いを行っているのか、興味が出ていた。
気兼ね無く、おっさんが本気を出してる? しかも相手がゼウスさんなんて――
「二人とも、こっちは任せるぜ! 俺はおっさんの援護に行ってくる!」
「あ、カイル!」
『……』
二人にそれだけを伝えると、金属のトンネルとなった、根の穴へ飛び入り、向こう側へ駆ける。
その心境は、不謹慎ながらもどこかワクワクしていた。
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