第218話 切り札だったんだな

「ローハン殿。貴方の作戦はわかった。しかし、あまりにも不確定要素が多すぎるわ」

「これでも可能な限り詰めた方だ。問題は『太陽の戦士』側だな。【夜王】を前に戦える“格”が欲しい」

「現在、現実的な人選は【極光剣】だけれど……」


 ディーヤが話題に上がるが……ソニラ婆さんも即断出来ないあたり――


「ディーヤは若すぎるし経験も浅い。それに身内の死は思った以上に引きずる。作戦の失敗は全滅と同じだ。【極光壁】じゃ無理なのか?」

「本質的な問題として【極光壁】は護る事に特化した『恩寵』なの。攻めでは本来の半分も力を出せないわ」

「『恩寵』ってのは“陽気”を増幅する能力だと聞いているが」

「それは二次効果よ。『恩寵』は主に“攻撃”“防御”“中継”と言った三つの要素を更に強くしたモノなの」


 【極光剣】は攻撃。【極光壁】は防御。【極光波】は陽気を他の戦士へ与えるってとこか。


「シヴァは『太陽の民』にとって、マジの切り札だったんだな」

「ええ。彼は歴代の【極光波】でも『戦士長』の立場を同時に与える程の実力者だった。『ナイトパレス』で【極光剣】と合流出来ていれば……【夜王】に負ける事はなかったでしょうね」


 どこからでも陽気を集めて自在に放出でき、更に最強の戦士となれば、『ナイトパレス』にとっては天敵中の天敵だったワケか。


「すまん……オレの精査が足りなかった」

「いえ……【極光剣】との合流を勧めても、【極光波】は【夜王】の不死を知った時点で同じ行動を取ったハズよ」


 『戦士長』だからこそ……か。こっちは一番強い手札を切って厳しい結果だ。


 今必要なのは【夜王】にも届き得るオフェンスだ。オレ達の方でもある程度はカバー出来るが、それでも最後は“陽気”を用いた攻撃で無ければ確実なトドメにはならないだろう。


 カイルに『共感覚』で“陽気”を纏わせて向かい合わせる選択肢もあるが……ディーヤよりもこっちの方が不確定なんだよなぁ。


「あー、ちょっといいっスか?」


 議論が進まない様子にシルバームが初めて口を挟んで来た。


「このまま話を詰めても良い案はすぐには出ないっしょ? 一旦、時間を置きましょうよ。そしたら良い案が出るかも」

「そうね。ローハン殿は?」

「……そうだな、今日は情報を各々で整理しよう。オレもちょいと休みたいし」


 意識するとクロエに斬られた傷と、ゼフィラにやられた傷がじんわり痛み出してきた。それに、少しクランメンバーだけで話し合いたい事もある。


「それでは、明後日に再びこの場にて」


 時間はあまりないが……それでも焦りは禁物。それに……シルバーム、コイツ何か隠してるな。






「ディーヤ! 帰っていたのか、この不良娘め! 幾つかの『太陽石』を持って里を飛び出したと聞いた時は冷え性が更に冷えたわい! クシの件は『戦士長』が救助部隊と共に向かったから、お前はここで待ってるのだぞ! それで、その背の荷物はお土産か!? ふっほっほ! お前も一丁前に気を使える年齢に――ク、クシィィィィ!!!」

「……陽葬を頼ム、スワラジャ」


 やってきたディーヤに対応したのは『太陽の民』達が埋葬されている石碑を護る、墓守の一族のスワラジャである。

 彼は里でもかなりの古参。長い顎髭と高齢を感じさせない筋肉が搭載された大柄の老人だった。


「クシはこれから素晴らしい戦士となる漢だったと言うのに……なんと言う鬼畜の所業だ! ディーヤ! どいつだ!? どいつがクシをこんな目に!」

「あなた、敵討ちは私たちの仕事じゃ無いわ」

「ネハ……」


 『戦面』を制作中だった老婆のネハは、夫の叫び声を聞いて表にやってくると、遺体となっているクシを見て冷静に察する。


「陽葬の準備をしてあげて」

「うぬぅぅぅ……クシよ……何故だ……」


 スワラジャは目を閉じたクシを抱えると、裏手の陽葬場へと歩いて行く。その後にディーヤも無言で続くが、ネハが手を差し出す。


「ディーヤ、手を繋いで」

「…………」


 ディーヤはそんなネハの手を繋ぐと共に歩いて陽葬場へ。

 陽葬場には長方形に加工された黒い石――『陽葬石』が鎮座していた。側面には死者を送る数多の言葉が刻まれている。

 スワラジャはその上にクシを寝かせると、一度グズ、と鼻をすする。


「ディーヤぁ、グス……最期に、グス。クシに言葉をかけてやるのだ、グス……」

「……もう済ませてル。送ってやってくレ」


 スワラジャは涙を流しながら陽気を『陽葬石』に込めると、側面の文字が光り出す。

 するとクシの遺体はゆっくりと光の軌跡となって『宮殿』の“虹光”へと流れ始めた。


「…………」


 その様子を見ながら戦士として堪える様に見送るディーヤに、ネハは告げる。


「ディーヤ、行きなさい」

「……ディーヤは……戦士ダ」

「今はクシのお姉さんよ」


 ネハに言われて、その手を離すとよろよろと軌跡となるクシへ。


「クシ……ディーヤは……お前に……何モ……何も出来なかっタ……ごめん……ごめんナ……クシィィィィ……」


 ディーヤとクシは里でも常に一緒に歩き回ってる双子の姉弟だった。二人の両親は戦士として死に、その後にディーヤに『恩寵』の素質があると発覚。

 前からディーヤの両親と仲が良かった先代【極光剣】のアシュカが、後継人として二人を引き取った。ディーヤとクシもアシュカの事は受け入れて本当の親子の様だった。

 だが……アシュカは戦死し、更に半身とも言えるクシも失った。


 何故だ……何故、こんな幼子ばかり……


 スワラジャは軌跡となるクシにすがって泣くディーヤに、落涙を止める事が出来ない。

 彼女に起こる悲しみの連鎖。大人でさえ耐え難いソレは……まだ小さなディーヤにとってはあまりにも辛いモノだった。

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