第170話 ナイトメアロッド

 オレらは『シーモール』で地図と食料を調達していると、マッチョ共もとい、ハワイ達が声をかけてきた。

 傍らにはウェーブとカイルがぶっ飛ばしたであろう『人魚』の女が共に居り、自然と警戒する。


 ハワイ以外は確執があったものの、カイルの“終ったら気にしない節”と、ハワイが間に入った事でオレも留意を下げた。


 その後、ハワイは『シーアーサーブレード』の件の報酬として旅にかかる費用の負担を申し出た。貰いすぎても返すアテは無いと言っても、仲間達と寄りを戻せたお礼も含まれている、との事。当人が納得しているなら遠慮なく頼らせてもらった。ほら、金浮くし。


 先の見えない旅になる故に、寝泊まりが出来る馬車を購入。食料も十分に乗せ、またなー、とカイルが手を振る『シーモール』を、はいよー、と馬に鞭を打って発ったのが二日前。

 三回ほど強盗に襲われたが、逆に返り討ちにして『ナイトパレス』の国境手前の関所が見えてきた所だ。


「うわ。薄暗いなぁ」

『本当に夜になった?』


 カイルとリースの疑問は最もだ。


 夜の国『ナイトパレス』。

 雲は出ていないにも関わらず、その領地に近づくにつれて空は薄暗くなって行った。まるで、“夜”そのモノを従えているかの様に空には星の煌めきが見え始める。


「思ったよりも『ナイトメアロッド』ってヤツはヤバそうだな」


 世界の摂理を歪める程のアイテム。それが次にオレらが必要とする“杖”のアーティファクトだった。






 馬車の停留所を一枠借りて荷台から降りたカイルはすっかり日の落ちた関所町を驚きに見る。


「うわ、完全に夜だ」

『時間の感覚がおかしくなりそうです』

「リースは来るのは初めてなのか?」


 オレも最低限の荷物を持って降りた。


『私は身体の一定の魔力を常に維持しないといけないんです。だから『石碑』からあんまり離れられなくて……』


 今までは“海割れ”を見ている事しか出来なかったと語る。


「でも、『石碑』に来るヤツは他にも居たんじゃ無いか?」

『ふと見つける人は居たけど、私が話しかけると『ゴースト』と勘違いされて逃げられちゃって……』

「まぁ……普通は『結晶蝶』が喋るなんて思わんわな」


 オレも最初は疑ったし。


『でも、カイルとローハンさんが受け入れてくれましたんで今はとても楽しいです』

「おう! 俺らの知り合いには色んな人がいるからな! そんな人達を比べればリースはフツーだぜ!」

『どんな人が居るの?』

「歩く木とか、金属の人とか、ニンジャとか、目が六つあるヤツ!」


 “歩く木”は『太古の原森エンシェントネイチャー』の事か。そんで、“金属の人”はボルックで“ニンジャ”はスメラギ、“目が六つ”はカグラだな。


『ええ!? どういう人達なの? 皆友達?』

「おう! 前に『遺跡』内部に入った時な――」


 カイルはリースとイロモノ共との関わりを話し出した。しかし、気づいているか、愛弟子よ。

 喋る『結晶蝶』も十分規格外なんだぜ?






 そんな楽しそうなカイルたちを後ろにオレ達は情報を求めて質屋へ向かう。

 ここは国の境でもある為、色々なモノを処理する質屋は店として成り立つので情報も取り扱っているとオレは踏んでいる。一応、質に入れる物も見繕ってきたしな。(強盗共が持ってた指輪とかの貴金属)


「あ、おっさん。質屋」


 カイルが『貴金属高く買い取ります!』と宣伝している看板を見つけて指を差すと、リースと先に駆け出す。セールでもやってるみたいだな。


『先の事が分かると良いですが……』

「『らいとめなろっど』だっけ? 有名なら何かわかるだろ」

「『ナイトメアロッド』な」


 オレ達は質屋の戸を開けると、


「っ!」

「待て! このガキ!」

「わっ!?」

『キャッ!』

「おっと」


 荷を抱えた少年が飛び出してきたのでオレ達は反射的に道を空けた。

 褐色の肌にフードを被って姿を隠す少年は一度、オレ達をちらっと見る。そして、脇目も振らずに人混みへ紛れる様に走って行った。


「くそっ! 逃がしたか!」


 店長らしき男が追いかけて出てくるも、少年の姿は既に捉えられなかった。


「窃盗か?」

「あぁ、お客さん。どうも! いやー、見苦しい所を見せちゃいましたねー」


 パッ、と営業スマイルになる店長の接客に慣れた様子は話しやすさを感じた。






「『ナイトメアロッド』ですかい? 旦那」

「ああ。何か知ってるか?」


 カイルとリースが店内を見学する間に、オレは貴金属の鑑定をしてもらいつつ、その辺りの情報も拾う。


「漠然とし過ぎてやすぜ。もっとキーワードがあれば良いんですが」

「生憎、最近ここの辺りに来たばかりでな。『ロッド』の事は別の地方で聞いたんだ」

「ってことはこの辺りの事は何も?」

「そんなトコだ」


 情報料はかなり値が張りそうだが、高くつく分、正確で最新のモノを貰えるだろう。


「『ナイトメアロッド』……ナイトメア……まてよ……」


 店主は何かを思い出しそうな様子で額に手を当てる。情報が引き出しに入ってるか?


「確か……『ナイトパレス』の王族に伝わる秘宝が『ナイトメア』と言われてます。杖かどうかは知らないですが」

「秘宝か……しかも王族かよ」


 一番、拗れるパターンだな。オイ。


「けど、今は『ナイトパレス』には近づかない方が良いですぜ。このまま帰ることをアッシはお勧めします」

「なんか問題か?」

「内戦中なんですよ。『ナイトパレス』と『太陽の民』がね」

「『太陽の民』?」


 初めて聞く民族だ。


「『太陽の民』はこの辺りに古来から住んでいた先住民族です。日の光を常に浴びる事で高い能力と生命力を維持しています。その為、『太陽の民』の地域は『太陽の大地』と呼ばれて常に昼間。と言うよりはこの地方は無夜地帯って言われたみたいでしてね。その後、『吸血族』が流れてきて夜の地域が出来て『ナイトパレス』が出来たらしいんですよ」

「『吸血族』はどこからか流れて来たんだ?」

「それはわかりません。何せ、人伝の人伝で伝わる程に昔の話ですからねぇ。『太陽の民』と『ナイトパレス』は昔から小さな小競り合いはありましたが……流石に“夜”の範囲が大きくなるのは見過ごせないようですな」

「夜の範囲が大きくなる?」


 店主はちらりと時計を見てから説明を続けた。


「『ナイトパレス』の回りは常に夜なんです。ソレを維持していると言われるのが先ほど言った秘宝『ナイトメア』らしいんですよ」


 考え付く限りの面倒事が全部重なりやがったな。『シーアーサーブレード』が楽に感じるぜ。

 すると、店主はここら一帯の地図を持ってきた。


「ここが関所で、こっちが『ナイトパレス』の首都。こっちが『太陽の民』の地域」


 関所が南西、『ナイトパレス』首都が東南、『太陽の民』の地域が北西にある。


「今の時間帯は外は朝・・・でしょう? 前までは夜の範囲は首都を覆う程度だったんですが、今はこの関所まで広がっています。年ごとにその範囲を増してるんです。無論、『太陽の民』の地域も少しずつ入って来てますね。アイツらからしたら、自分達の命がかかってますから、そりゃ必死ですよ」


 今回は両陣営に上手く取り入る必要がありそうだな。何か適当なネタでも作って潜入するか。


「それに『ナイトパレス』には【水面剣士】とか言う凄腕の女剣士が加入したそうでしてね。こっちでも噂になるくらいの美女らしいですよ」

「………………」


 クロエの奴も『遺跡こっち』に来てるのかよ。

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