第31話 お前が言うんかい!!
『霊剣ガラット』に身体を貫かれた『機人』はその目から光が消え、完全に沈黙した。
「ハァ……ハァ……」
「よう。お疲れさん」
「おっさん……」
カイルは油断せずに神経を張りつめていたのでオレは安心させるように声をかけた。
すると力が抜けた様にカイルの身体から強張りが解ける。
「お前の勝ち。よくやったな」
「俺の……勝ち?」
カイルは改めて自分の持つ『霊剣ガラット』と、ソレで貫く『機人』に視線を向ける。
「おわ!? いつの間に抜いてたんだ!?」
抜き身の『霊剣ガラット』を見て、逆に驚くカイル。すると、その手から薄れる様にガラットは消えた。
「あ! き、消えた!?」
「落ち着け。お前の背中だ」
『霊剣ガラット』はカイルの背にある鞘に収まり、いつもの状態に戻っていた。
ふむ。ガラットはオレの手元に戻ってこない。やはり、現時点でカイルの実力はオレを上回っていると言うことだろう。
しかし、まだオレが抜ける所を見ると、平常時のカイルはその器に足りないと言う形か。『霊剣ガラット』も苦労してんなぁ。
「『霊剣ガラット』。前に雪崩を斬った所は見ましたが、何でも斬れるんですか?」
レイモンドも、半壊したボルックを背負ってやってくる。『圧縮』を両断した瞬間はかなりの衝撃だっただろうからな。
「何でもは斬れない。斬るのは装備者が斬りたいと思ったモノだけだ」
「『七界剣』の中では、比較的に大人し目な剣ですか」
レイモンドは『炎剣イフリート』と比べているのだろう。しかし、それは畑違いと言うものだ。
「大人しい……か。ハハハ。オレの知る限りじゃ、『七界剣』の中だと『霊剣ガラット』は特にヤバイと思うけどな」
「ふふっふーん。って事はだ! 俺は既におっさんを越えたって事だな!」
滅茶苦茶ドヤって胸を張るカイル。やれやれ、この愛弟子に必要なのは潜在能力を引き出す精神の方だな。ビシッと言ってやるかい。
「あのな、カイル。お前に足りないのは――」
その時だった。『加速』の反動でボロボロになったカイルの服が、ビシッと崩壊すると下着を残して全面が露になる。
「あ、服が!?」
「うぉぉ!?」
「うわ!?」
カイル、オレ、レイモンドの順に声を上げる。
どうにかして両手で要所を隠そうとするカイル。オレはそれにエロスを感じない様に眼を覆って視界を消す。
レイモンドは、ボルックを背負っていて両手が使えないので耳で眼を覆うと言う器用な技を披露していた。
「あーあ。ダメになっちゃったか……折角クロエさんと買いに行ったのに」
そっと眼を開けるとカイルは破れた服を残念そうに広げてる。
今のカイルは下着姿で背には『霊剣ガラット』、腰に普通の剣をベルトで吊った状態だ。なんのプレイだよ。と思うほどに目のやり場に困る。
「ん? ああ!! おっさん! おっさん!」
むにぃ、と身体に当たる柔らかい感覚ぅ!
布面積が減った故に服越しでも感じられるソレは用意にカイルが抱き着いて来たと分かる。
「うぉぉ!? お前! なにやってんじゃぁ!」
「上! 上! ガラット抜けない!」
上? 必死なカイルの様子にオレとレイモンドは視界を開いて、上を見上げると。
「あ」
「わ」
崩れた塔の天井が瓦礫と化してこちらへ降って来ている所だった。
やべ……出遅れた。かわすには範囲が広過ぎるし、防ぐ程の魔力が無い。
しかも、今、カイルのカイルが押し当てられている状況ではガラットも抜けねぇ!
完全に詰み。オレ達の冒険はここで終わってしまった。あぁ……走馬灯のように……これまでの
瓦礫はオレとカイルとレイモンドを無慈悲に押し潰すとズゥゥン! と言う重々しい音ともに土煙を上げた。
「ん? あれ?」
オレの人生はマヌケに終わったハズだったのだが……どいう事かまだ生きている。何故か天井が開けた様に瓦礫が避けた?
しがみつくカイルの柔らかさも伝わってくるし、夢じゃな――
『無事か?』
その声、と言うよりも音声にそちらを見るとカイルが仕留めた『機人』が傍らに立っていた。
「!!?」
「なに!?」
「うわ!?」
再起動したのか!? オレたち三人は改めて構える。すると『機人』は、
『落ち着け。ワタシだ』
と、フレンドリーな様子で攻撃を止めるように手をかざして来る。
「まさか……ボルックか?」
『ああ。内部のAIが消滅していたのでな、割り込ませてもらった』
カイルが倒したかったのは“ボルックを傷つけた奴”と言う定義だとすれば……『霊剣ガラット』が仕留めたのは中のAIだけだったって事か。
「ええ!? ってことは……ボルック?」
「確かに……この中層でボルックさんが他の『機人』関係に乗り移れるのは知ってましたけど……」
『中身の空になった身体を拝借しただけだ。難しいことは何もない』
当初は元々入ってたAIにハッキングは弾かれてたもんな。
「『圧縮』で助けてくれたのか」
『それしか回避の手はなかったのでな』
降り注いだ瓦礫をオレらの箇所だけ『圧縮』し潰れる所を助けてくれたらしい。
どうやら、カイルとの戦闘でこの『機人』が使っていた能力は全て使えるようだ。
「意図しないパワーアップだな」
『そうとも言えない。こちらの
「自爆装置ついてんの? そいつ」
『ああ。機関をオーバーロードすれば半径20キロは更地に出来る威力がある』
あっぶねぇぇ!! 下手に物理で追い込んだら、もろとも自爆する可能性もあったのかよ!
『霊剣ガラット』による決着はマジで最適解だったようだ。
「と言う事は、ボルックさんは前衛要員になったと見ても?」
『その解釈で構わない』
「すげー! それなら、クロエさんを助け出すのは余裕じゃん!」
パーティーの探索ステータスは落ちたが、突破力は上がったな。
『パーティーの能力はバランスが大事だ。それよりもカイル。肌面積を晒し続けるのはお勧めしない。周囲の気温は9.1度。風邪をひく前に服を着るといい』
「へっくしょん!」
カイルには予備の服(上層でタルタスに貰った防寒具)を着てもらって改めて下層の扉――エレベーターの前へ。
ボルックにハッキングしてもらい、ガーと扉が開く。
「やれやれ、ようやくだな」
「クロエさん……」
「同じ所に出れるでしょうか?」
『違ったら再度トライするしかない』
下層のバリエーションは多くないハズ。それに――
「この魔力は……春だな」
エレベーターに乗ったら下層の魔力を感じた。その索敵をボルックが出来なくなった以上、オレが主体として指示していなかければ。
「クロエさんと潜った時も春だったぜ!」
「運が向いて来ましたね」
『気を引き締めよう』
下層に行けば、使える魔力も多い。この魔力飢餓状態を解消出来る安心感を早く感じたいぜ。
「……それで、ボルックよ。どうやって下に行くんだ?」
全員がエレベーターに乗り、扉が閉まった後にボタンを見ると1Fまでしか表記がない。
『どうやら物理的に行く必要がありそうだな』
「え?」
そう言うとボルックは『圧縮』でエレベーターのワイヤーを切った。
途端にエレベーターは凄まじい勢いで落下を始める。
『クロエ、今行くぞ』
「お前が言うんかい!!」
「「あぁぁぁぁぁぁ!!!!」」
ふわりと浮かび上がったオレ、カイル、レイモンドの叫びがエレベーター内部に響き渡った。
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