第221話 敬語も忘れずに
「ちょ、ちょっと待て!」
オレは千華より提示された額――金貨500枚を聞いてパン一でも立ち上がざる得なかった。
「服一つで金貨500枚はぼったくりだろ!」
店一つ建ててもお釣が来るレベルだぞ!?
すると千華は半眼を鋭くして腕を組みオレを見据える。
「それじゃ、まず事実確認をしましょう。カイルとレイモンドとリースと貴方は他人?」
「そんなわけあるか」
「クロエとは?」
「仲間だ」
「それなら妥当ね。金貨500枚は」
「内訳を出せ!」
そうじゃないと納得いかん!
「まず、カイルね。あの子の服を修繕と強化。竜布地を使った補強と防護魔法の付与。金貨10枚」
確かにカイルの服はかなりランクアップした様子だった。それには納得できる。
「次はレイモンド。『大瀑布』との戦闘時に1枚の値段が金貨10枚の強化皮脂を5つ買ったわ。計金貨50枚」
「『大瀑布』? なんだそりゃ?」
「フォール大河に数年に一度現れて『太陽の里』を本気で沈めようとする水の魔人よ。外の言葉で表すなら――『
『古代種』じゃねぇか。ソニカの婆さんからそう言うのが出るって聞いていたが……里のど真ん中にも現れるんかい!
「レイモンドは強化皮脂で『水精霊』の核を覆って下流へ還したわ。それで、彼は里では【英雄】なの」
「……ゼフィラは居なかったのかよ」
「彼女はビリジアル密林の奥から湧いて出た、『
「わかった……金貨60枚は払う」
これはマスターに交渉して必要経費で落として貰う。レイモンドに関しては人命救助。カイルに関しては遺跡の中でのやむ追えない服の補修って事でゴリ押す。だが……
「残り、金貨440枚はなんだ!?」
「クロエよ」
「うぇぇぇ!!?」
最高額ぅぅ!? アイツ、何やらかしたんだ!?
「私の店。元は里の真ん中にあったのよ。でも、クロエが攻めて来たときにボロボロにされてね」
「…………」
「【
水源のある所のクロエはまさに一騎当千。しかし対峙した『三陽士』二人を相手に手心は加えられなかったんだろうな。
「以上よ。計金貨500枚。ああ、そうそう。カイルやレイモンドに請求するって方向もあるけど、そうした方が良いかしら?」
「…………いや……オレが払う」
年長者としての責務だ。何て言うか……コレはアレだ。
強者同士が街中で戦ったことにより、他人の建物や資産をぶっ壊しても、どこに責任をぶつければ良いのか解らなくて本来なら自己負担になるヤツ。
けど……千華にその設定は通じないらしい。
「じゃあ、金貨500枚。耳を揃えて払って頂戴」
「正直な所……手持ちがない」
今持ってても金貨80枚ほど。(腹ペコハザードで野盗どもから奪ったの金品を『ナイトパレス』で換金した)
そもそも、金貨500枚何て言う大金をホイホイ持ち歩けるか!
「だが……何とかして工面して後で払う。それまで待――」
「貴方、その言葉にどれ程の価値があると思う?」
千華はオレの言葉を遮ると軽く押し、椅子に座らせた。そして、腕を組んで佇み、影を落としたジト眼を向けてくる。
「その言葉は深い信頼関係がある者同士でだけ通じるやり取りよ。貴方と私は、家族かしら?」
考えるように千華は、コツコツ、とオレの周りを歩く。
「いや……」
「それじゃあ、幼馴染み?」
「違う……」
「恋人?」
「違います……」
「客と店主。この関係よね?」
「そうです……」
「それなら、“後で払う”なんて言葉を他人のら貴方が言っても私の立場からすれば、信じられないのは解るわよね?」
「……はい」
ぽん、と背後から肩に手を乗せて耳打ちしてくる。
こ、これが歴戦の『土蜘蛛』のやり方か……丁寧に丁寧に巣にかかった獲物を糸で絡めとる様に逃げ道を塞いで来やがるぜ……
「でも、貴方の事情も解らなくはない。知らない土地で仲間の負債を急に言われたら私でも反発するわ」
「そ、それなら――」
「全部話なさい」
「え?」
千華は前に回ると影のある笑みでにっこり笑ってオレを見下ろしつつ告げる。それは“捕食者”としての雰囲気が感じられる“圧”のある笑みだった。
「今、『太陽の民』と『ナイトパレス』の間で何が起こっているのか。貴方達の立場、目的、これからの動きと事態の収集方法。その全てを嘘偽りなく、全てね」
「…………それで金貨500枚は――」
「内容によっては、金貨100枚くらいはオマケしてあげるわ。後は働いて返して貰う。これから私の事は“店長”と呼びなさい。後、敬語も忘れずに」
「……はい」
『土蜘蛛』の巣に入った獲物に選択肢は……無い。これが……『妖魔族』最強の種族か……
『借金残り……金貨340枚』
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