第81話 オッサン、1200

 『遺跡都市』名物『バトルロワイヤル』。

 参加者は20人。場所は遺跡内部の上層にて“春”か“夏”の季節が来ている時に開催される。

 外でやるなら広大な敷地と監視員が必要になる為に金銭関係で実用的ではない催し物だが、『遺跡内部』であれば“敷地”と“監視員”の役割が無くなる為に、定期的に開催されているのだ。


「華が無いってどういう事だ。見た目で選らんでんのか? オイ」

「次のバトル、カナリの大物がエントリーするネ。若い者、下克上OK。美女、絵になるOK。オッサン、NO」


 コイツ……


「おい待てよ! おっさんは滅茶苦茶強いんだぞ!」


 我が愛弟子カイルが受付に噛みつく。おー良いぞ。もっと言ってやれ!


「そんなのウソ。さっき、この『バトルメーター』で測っタ」


 すると、受付はオレらに各々指を指して、


「【銀剣】1990。【黒蹴球】2000。【水面剣士】3500(上限)。オッサン、1200」

「おい待て。ソレ貸せっ!」


 壊すなヨ、と渡された『バトルメーター』をオレは確認する。

 これにもゼウス印が入ってる。つまり、マスター以外にはいじれない証だった。


「レイモンド、これでオレをもっかいピッてしてくれる?」

「はい。(ピッ)……」

「数値は?」

「1150って出てます……」

「下がってる!?」


 何故だっ!? オレも確認するが確かに1150って表示されてる……


「ローハン。貴方の意見は通りそうにないわ。カイルとレイモンドは私が見ておくから。ふふ」

「笑ってんじゃねぇよ……」

「大丈夫だ! 俺たちはおっさんが滅茶苦茶強いって知ってるから! なぁ、レイモンド!」

「まぁ、単なる数値ですし。当てにはなりませんね」


 そりゃ、今は全快時の六割程度だけどよ。それでもカイルとレイモンドより低いとは……

 そんな若者二人に慰められる構図は遠くから、


 あのオッサン、年下の仲間に慰められてるぜ。

 居るよな、見栄だけは立派な中年って。

 ああ言うのが将来老害になったりするんだよなぁ。

 パーティー全体の足を引っ張る行為だよ。


 などと聞こえて来て、ちょっと泣きそう……


「わかった……お前らだけで行って来いよ……オレは酒でも飲んでモニターで見てるわ……」

「あぁ! じょ、助言! 助言くらいあるだろ!」

「これは前に渡してくれた課題の延長ですよね? 説明できる範囲で意図を教えてください」

「ふふ。ふっふふふ」


 これからオレに出来ることはもう助言くらいか。後、クロエ。さっきから笑ってんじゃねぇよ。






『第8420? 8419? 8421回でいいや! 多分そんくらい! 第8421回バトルロワイヤルを開始します!』


 遺跡内部上層“夏”。一つの孤島へランダムに転移した20人の参加者達は、空に浮かぶアーティファクトから聞こえてくる音声に自然と視線は上へ向く。


『参加者は『遺跡都市』でも名の知れた強者達! その中でもオッズがトップ3のヤツを紹介するぜ!』


 すると、次に三人の顔が表示された。


『三位! 【氷剣二席】クァン・タール! 夏の高温環境でも正反対に涼しそうな表情! コイツに遭遇したヤツは即座に降伏をお勧めするぜ! 氷漬けになりたくなかったらな!』


 クァンは遺跡都市でも一、二位を争う美形だった。長い銀髪にキラキラと光に反射する氷塵が爽やかさを彩らせている。


『二位! 【水面剣士】クロエ・ヴォンガルフ! 盲目でありながら数多の敵を華麗に切り捨てる美女剣士! 特に水辺での戦闘は注意だぁ! そのナイスバディに目を奪われてる内に窒息か首を落とされるぞぉ!』


 今回の『バトルロワイヤル』に最後の方で登録したクロエだったが『剣王会』での知名度は未だに枯れない程に『遺跡都市』でも知れ渡っている。故にオッズは二位に割り込んでいた。


「そして、彼女が今回の大物! 勝てるヤツが居るのか!? と言う問題が発生する程の鉄板――」


 上空の映像がクロエからオッズ一位に切り替わる。


「一位! カグラだぁ!」


 そこには、フードに仮面をつけた少女が映っていた。






「ぶーっ!!」


 オレは遺跡広間で露店の席に座って、軽い酒を呷っていたが、“カグラ”の名前と顔(仮面)が表示されて思わず噴き出した。


「ゴホッ! ゴホッ! な、なんだとぉ!?」


 咳き込みながら呼吸を整えると、改めてモニターを見る。他人の空似かと思ったが……マジの“カグラ”だった。

 おいおい。これはクロエ以外には無理だろ。


「ん? よう、ローハン。相席いい?」

「スサノオか。ゴホッ……」


 祭り会場で出会った知り合いのノリで、アマテラスの“眷属”であるスサノオがやってきた。角が特徴的なので分かりやすい。


「座れ座れ」

「サンキュー」


 あ、お姉さん。俺にも彼と同じヤツを一つね。と、酒を頼むスサノオ。オレはモニターに映る“カグラ”の事を問う。


「おい、お前らって基本は外に不干渉じゃなかったのか?」

「“基本”的には、な。しかし、我が君を抑える意味でも定期的に何かしらの話題を提供するのも義務なんでね。ここが火の海になるのは嫌だろ?」

「……苦労してるな、お前ら」

「はは。そうでもない。ジパングから出た事の無い俺たちも旅を楽しんでるよ。それは【千年公】の助言でもある。お前もその場に居ただろ?」

「そういや……そうだったな」


 過去にジパングでマスターと共に『始まりの火』に関する大事件を収拾した。その時にマスターは、


 抑えつけるばかりではダメ。世界は常に変貌してるの。色んなモノを見せた方が良いわ。


 と助言を残したのである。

 その結果、ヤベー女がヤベー眷属どもと一緒に世界を徘徊してるワケなのだが。


「それで話題を探す為にウチのカグラが『バトルロワイヤル』に参戦したってワケさ。我が君は戦いの話が大好きだからね。ネタ拾い」

「自分から仕掛けようともするしな……」


 スメラギを挑発して攻撃させた件はまだ真新しい。【創世の神秘】が現地種族を煽るなっての……


「にしたってよ……お前んトコの“眷属”を出すなよな」

「ヤマトよりはマシだろ?」

「アイツは勝負になるヤツが世界でも片手で数える程度だろうが」


 そもそも、ヤマトはこんな戦いは好まないので参戦する事は無いと思うが。

 対してカグラはアマテラスの眷属であり、実力は直接戦闘だとヤマトやスサノオに劣るものの――


「カグラは搦め手の数がイカれてる。クロエ以外は勝負にすらならねぇぞ」


 カグラの変則的な戦い方はマスターでさえも裏をかかれて捕まる程のモノだった。


「それで、ローハンは誰に賭けるんだ? 俺は当然、カグラだけど」

「被っても面白くねぇからな。オレは――」


 “アイツ”に賭けるか。

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