第82話 何かご褒美頂戴!

「『ライフリング』?」


 遺跡内部“上層”への転移前にカイル、レイモンド、クロエは運営から紋章の入った腕輪を渡された。

 オレも初めて見るモノだったので、その説明を運営員に求める。


「これはバランス調整だ。戦闘値が2000を越える戦士達の能力を強制的に2000へと引き下げる効果を発揮する。加えて、当人が降参したら遺跡内部から強制的に広間に転移する機能もある」

「昔に比べて今はそんな便利なモンがあるとはな」


 昔に少し覗いた時はガチの殺し合いだったけどな。まぁ、今回もそのつもりで来たんだが、随分とマイルドになったモンだ。


「【千年公】が持ってきたんだよ。危ないからコレを着けて遊びなさい、ってな」


 『バトルロワイヤル』を“遊び”って言えるのはマスターくらいなモンだぞ。

 まぁ、生き死にと実力差が緩和されるなら間接的にエントリー戦士の幅が広まる効果もありそうだ。


「能力はどれくらい下がるのかしら?」


 この三人の中で能力が相当低下するとされているがクロエだ。あのメーターでも上限一杯だったし。オレはどうせ1150ですよ~。


「魔力の総量が減る。後、身体にかかる重力も増えて動きにくくなるハズだ」

「『闇魔法』と『重力魔法』が程よくかかるのか。良く考えてあるぜ」


 なるべく実力差を埋める為のモノなのだろうが……正直なところ、ガチで強いヤツには焼け石に水だろう。

 クロエの強みは少ない魔力消費で最大の勢いを生むところにある。デバフ程度で負けるのなら『剣王会』を脱退するまで『盲剣』と『水剣』の二つを同時に一席(二冠)など維持出来ない。

 魔法以外の技量も高いしな。


「これを着けての全力なら『シャドウゴースト』も出ない。ちなみに、『ライフリング』を破壊されたり外れても“負け”判定だ。どうしても勝てない相手にはソレを狙うのもアリだぜ」

「なる程な」


 受付のヤツが言っていた“下克上”ってこの事か。実力が足りてなくても作戦次第では上位陣を追い出す事も可能、と。


「共闘なども良いのかしら?」

「もちろん。『ライフリング』にさえ気をつけててくれれば何でも良いぜ。ただし、勝者は一人。仲良く手を繋いでても最後には戦り合う必要があるからな」

「『ライフリング』って誤魔化したり出来るんですか? そういう事が得意そうな人が一人や二人は居そうですけど」

「【千年公】以上の技量があればソレも可能だよ。居るのか? そんなヤツ」

「居ねーな」


 じゃあな。と一通りの説明を終えた運営員は去って行った。


「『ライフリング』はあまり意味が無さそうね」

「だな。主に緊急避難用だろう」


 力の差を埋める方がオマケだ。あの戦闘力を測るメーターはある程度は正確なのだろうが、潜在力までは測れない様子だった。

 まだボルックのスキャンの方が正確な戦闘力を測れるだろう。


「僕とカイルは普段通りに動けそうです」

「クロエさんも敵か……負けないからな!」

「ふふ。ええ、二人でかかってらっしゃい」


 今回のラスボスはクロエだろう。しかし、覚醒していない二人では勝算は薄いな。


「よし、二人に助言がある」


 もう間も無く転移が始まる。カイルとレイモンドには言っておく事があった。


「レイモンド、お前は自分のスタイルに囚われ過ぎるな。他の参加者を観察してオレの課題のヒントを探るのも全然アリだぜ」

「わかりました。最初は他の人の戦いを見てみます」

「カイル」

「おう! 俺には何を言って――」

「『霊剣ガラット』はオレが預かっておく。お前の武器は剣一本な」

「えー!? なんだよー! それー!」


 カイルは背にある『霊剣ガラット』を手放す事を渋る。


「いいか? お前は『霊剣ガラット』を抜きつつある。同時に、ソレに依存する心の怠慢が生まれる時期だ」


 自分の能力とは別に強力な武器を持つ者にありがちな事なのだ。武器の能力に依存して、本来の成長を止めてしまう事は本人でも気づかない場合が多い。


「だから、今回は『霊剣ガラット』と言う選択肢は無しだ」

「うーん……わかったよ」


 課題が行き詰まっている事もあってカイルは『霊剣ガラット』をオレに手渡してくれた。ちょっと不貞腐れているのでもう少しアドバイスをやるか。


「『霊剣ガラット』はお前にとってオマケみたいなモンだ。本来の実力はオレに匹敵するんだから、今回でそのキッカケを掴め」


 そう言いつつ、カイルの頭を撫でる。

 愛弟子は不機嫌な時はこうやってやると猫みたいに機嫌が良くなる。


「じゃあさ! 俺が1番になったら、何かご褒美頂戴!」

「おー、いいぞ。何が欲しいか考えとけよー」


 カイルの事だ。どうせ、新しい剣とかそんなトコだろ。『遺跡都市』を買い物で徘徊してる時に、売られてる名工の剣なんかを見て目を輝かせてたし。


「あら、それ私も乗って良い?」

「あ、僕も良いですか?」

「別にいいぞ。最後に立ってたヤツに好きなモンやるよ」


 クロエとレイモンドも乗ってきた。まぁ、こんなおっさんに何を求めてるのかは知らんが、


「二人とも! 負けないからな!」


 愛弟子のやる気が充電されたからヨシとしよう。


『転移開始まで後30秒だ! 野郎共!』


 『音魔法』のアナウンス。オレは転移に巻き込まれない様に陣から離れる。

 ワクワクするカイルと、若干緊張気味なレイモンド。その様子を微笑ましく感じるクロエ。

 クロエにも一言言っておくか。


「クロエ」

「なに? カイルとレイモンドは私に任せ――」

「いや、お前も頑張れよ」

「…………ええ。ありがと」


 嬉しそうに微笑み返して来たクロエは相変わらずイイ女だった。



※カイル

https://kakuyomu.jp/users/furukawa/news/16817330668442664613

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