第68話 私が一番乗りかしら?
「と言う事で、皆も気をつけてね」
『それは心得ますが……』
『ゼウス様、合流出来そうですか?』
「うーん……ちょっと穴を昇るのは現実的じゃないわね」
闇に支配された骨場の光りは落ちた穴からの光のみ。他は肉眼では確認できないほどに真っ暗だった。
『音魔法』を使って、マリアと会話しながら落ちてきた穴を見上げる。
相当な高さを落ちた様だった。
骨や壊れた武器が散在している。どうやら、ここは上で出た廃棄物を捨てる為の場所の様だ。
『そちらの状況を。必要であればソイフォンを送りましょう』
「そうね――」
すると、奥に道を発見した。どうやら、ここへ出入りする為の出口がある様だ。
「こっちは道を見つけたわ。
『分かりました。主様のご加護を』
「うん。マリア達も気をつけてね」
『音魔法』を切り、光を掲げながら足下に気をつけて骨の山を降りる。
グリーズアッシュ砦は過去に幾度と戦いの場となってきた。外からの出入りがしにくい構造上、戦後に出た遺体や武器はこうやって地下に落とされて来たのだろう。
「よいしょっと」
骨の山を降りきる。しかし、不自然な程に腐臭を感じない。これだけの遺体が閉鎖された空間に貯まっているのだ。それに、肉も残らずに綺麗な骨になっている理由も――
「あ、焦げ跡――」
真っ暗なので気づかなかったが、壁を見ると一定のラインより下が焦げていた。それで察した。
「ここは廃棄場じゃなくて、火葬場なのね」
通路の奥が、カッ! と光った瞬間、空間を飲み込む程の炎が流れ込んで来る。
「砦の機能は生きているようです」
エクレアは『広域感知』にて周囲の物体を物理的に把握する。
ゼウスが分断されたのは完全に自分の落ち度だ。感知すると他にも穴が隠されてる様を検知できる。
「でも、ゼウス先生だから落ちちゃった感あるよねー」
フレイの言う通り、他の面子なら咄嗟に落下を耐える事は出来ただろう。ゼウスは小柄故に穴を綺麗に落ちてしまったのだ。
「俺も小柄だから色々と気をつけてはいるけどな。どうしようもねぇって事はあるぜ」
グランも『
「身体が小さいのはゼウス先生の唯一の弱点らしいからねぇ。俺たちがどうこう言って何とか出来る事じゃないっしょ」
水月は人の特徴による欠点は早々に変えられない事を呟く。
「ゼウス様とは中心拠点で合流する事になりました。皆さん、気をつけて進みましょう」
「って言っても罠は分かるし【オールデットワン】くらいッス?」
「そう油断してると貴女も穴に落ちるわよ、セルギ」
エクレアの索敵を基本にしつつ、【エレメントフォース】と【トライシスター】は地上から『グリーズアッシュ砦』の心臓部でもある、中心拠点へ向かう。
もう、びっくりしたわ。気づくのがもう少し遅れてたら、服が焦げてたかも。
『グリーズアッシュ砦』はおそらく無人。しかし、それでも機能が生きているのはやっぱり『再生』のお陰ね。12時間毎に定期メンテナンスがあるようなモノ。消費した魔力も回復するとなれば、火葬場は永遠に稼働できるわ。
「凄いわね。本当に人々の考える事は
存在する理論を複雑に絡み合わせて一つのサイクルを確定させている。
「ちょっと貰うわね」
火炎放射の通路から外れると、その炎の一部を丸い球状にして灯り代わりに浮かせる。
火球で通路の先を照らすと道は行き止まり無く続いている。暗くて分かりにくいが、壁が若干丸みを帯びている所を見るとぐるっと円形に一周する造りになっている様子だ。
「いくら『再生』していると言っても、作る時に出入りする場所はあるハズ」
それはどんな状況でも安定して行える様に中心拠点からのアクセスになっているハズだ。
「
先に着いて皆をびっくりさせましょー。
「…………」
全身を黒く塗りつぶされた顔の無い“影”は、中心拠点へ歩いて来る【エレメントフォース】と【トライシスター】の面々を塔の屋上から俯瞰していた。
本来なら敵のいる場へ行き、力の限り暴れまわるだけで簡単に終わる。しかし、“影”が遂行する任務は『グリーズアッシュ砦』に来た時から一度も変わっていない。
敵を一人残らず撃滅せよ。
“影”は元々は12人居り、それぞれが敵と相対する時のスタイルは異なる。
『グリーズアッシュ砦』に残る最後の“影”は唯一の任務を確実に全うする為に逃亡の可能性すらも許さない。奥まで引き込む様にじっと俯瞰を続ける。
敵を全て殺せば……また、皆と笑い会える“自分”に戻れると信じて――
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