第16話 遺跡“上層(冬)” スノーフリー

「うぉぉ……さみぃ」


 階段を下って扉を開けて遺跡内部“上層”に出たオレ達は古びた山岳の小屋から外に出る。

 目の前に広がるのは雪景色と林が広がり、視界も良くはない。


『気温はマイナス2度と言った所か。なにもしなければ、凍死まで四時間弱』

「控えめに言って最悪だな」

「なんだよこれ! 冬は来たことあるけど、こんな場所じゃ無かったぞ!」


 カイルの言う通り、遺跡の“層”は同じ所に出る可能性は極端に低い。

 そして、危険度の釣り合いも取れており、進みやすい環境なら魔物が強く、進みにくい環境ならほとんど魔物とは接敵しない。


「前の冬はどこに出たんだ?」

「なんか知らない港町。誰も居なかったし、次の階段は町の灯台の地下だった!」


 そいつはボーナスだったな。今回は、階段のありそうな建物は特に見当たらない。


「うぅ……寒いなぁ」

『この環境ではレイモンドの索敵も機能しないか』


 レイモンドの機動力は深い雪に遮られてしまっている。


「中層への階段はそんなに離れていないハズだが……雪の下に埋まってたら見つけるのは無理だな」

『プランは?』

「無くはないが……あんまり使いたくねぇ」


 ここら一体を炎魔法で吹き飛ばす。『隕石火球メテオバーン』でも降らせれば少しはマシになるだろうが……


「階段も見つけてない状態で『シャドウゴースト』が出てくるとクソみたいな事になるからな」


 遺跡内部に長期期間滞在するか、環境を変える程の戦火を行うと、強制的に排除しようとする動きが働く。

 それが『シャドウゴースト』。奴は基本的に無敵であり、層を変えても追いかけてくる。撒くには一度遺跡から出るしかない。


「……」

「どうした? カイル」

「いや、ボルックは解るけどよ。なんでおっさんは平気なんだ? 寒くないのか?」


 自身を抱えるように震えながらカイルは聞いてくる。


「オレは炎魔法で自分の体温を維持してるんだよ。魔力は消費するが、防寒対策がとれるまではもつだろ」


 小技みたいなもので、魔力の効率は悪い。しかし、寒さで動きと思考が鈍るよりはマシだ。


「ホントだ! おっさん暖けぇ……」


 するとカイルが引っ付いてくる。寒さから逃げる様にこれでもかと胸や足を絡めてきた。


「バカ! 歩きづらいだろ!」

「だって寒いみぃもん!」

「だから炎魔法教えてやるって言っただろうがっ!」


 昔、カイルには基本的な魔法は全て教えたが、向いてない! と当人はすぐに匙を投げた。


「俺は難しい事考えるの苦手だから。おっさんに抱きつけばいいし」

「もう! すぐそう言うこと言う!」

「レイモンドも来いよ! おっさん暖けぇぞ!」

「いや……僕はいいかな……」

『ローハン』

「なんだ!?」

『前方に生物だ』


 ボルックに言われて前を見ると、林を挟んで横切ろうとしていたソレは足を止めて、こちらをじっと見ていた。


「……」

「……」

「なんだあいつ!?」


 カイルが驚愕の声を上げる。

 目の前には白い体毛に覆われた毛むくじゃらの猿人系の生物が、カッ! と見開いた眼をこちらに向けている。その肩には網に入った魚を担いでおり体格的には5メートル近い巨体だ。


「……ナ」


 猿人の声。

 くるか!? オレらは一斉に戦闘態勢。しかし、深い雪と間隔の狭い林では出来ることは限られる。


「ナんてごったぁ! コんなどころに、ヒューマズが居るたぁ!」


 そいつは、滅茶苦茶訛った口調で快活に笑った。


「イっやぁ~。スノーフリーは寒かろー? ちと待ってなぁ」


 と、ずんずんどこかへ歩いていく。呆然と見送るオレ達は、どうしたものかと武器を構えたまま停止。

 すると、ずんずんと戻ってきた。その手には防寒具が存在している。


「コイツを着なぁー。オメーら死んじまうぞぉー」

「マジ! 助かるぜ!」

「おい! カイル!」


 素直に差し出された防寒具を受け取りに行く愛弟子はオレの引き止める声も聞かずに猿人に近寄った。


「カわいい娘っ子だぁー。ナンでそんな軽装でこんな所にいるんだぁー? 死ぬ気かぁー?」

「色々と事情があってさ。あ、俺はカイル! 宜しく! 白いおっさん!」

「オラはおっさんじゃねぇー。イエティのタルタスって言うんだぁー」

「タルタスのおっさん?」

「“のおっさん”はいらねぇー」

「タルタス。この服全部貰っていいのか?」

「エエぞぉー。オラが持ってても雑巾にしかならんからなぁー」

「うわ勿体ねぇ。お、レイモンド! これお前に丁度いいんじゃねぇか?」

「え? う、うん……」


 まぁ、急に情報量が増えて色々と言いたいことはあるが……


「ボルック。お前ら、普段はカイルにどんな事を教えてんだ?」

『少なくとも、魔物に話しかける様な事は教えていない』


 だろうな。しかし、カイルは純粋に相手を見る。故には外見に左右されず、その本心を感じ取ったのだろう。

 少なくとも、タルタスに敵意は無さそうなのでオレも警戒心を解いた。

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