遺跡編 第一幕 願いを叶える珠

第15話 遺跡内部

 2日後。

 オレ達『星の探索者』は情報と準備を整えて、クロエ救出の朝を迎えた。


「メンバーは、ロー、ボルック、カイル、レイモンドでお願い」


 クランマスターのメンバー選出の基準は、なるべく隠密で進む事を前提としているが、戦闘になれば正面からゴリ押せる事も想定している。


「ボルック。貴方が先導して」

『了解』

「レイモンド。貴方の足は誰よりも速いわ。臨機応変にね」

「はい」

「カイル。あまり気負わない様にしなさい。そうすれば貴女に敵う者は居ないから」

「おう!」

「ロー。貴方は――」

「クロエに説教しておきますよ」

「そうね。お願いするわ。皆、己の心に従って無事に帰ってきて」


 スメラギとサリアは待機。理由はクランマスターが任せたい事があるらしい。

 まぁ、オレ達はクロエの救出に集中すれば良い。どっちかと言えば、クランマスターのいる外の方が安全だしな。






「遺跡の周辺はだいぶ様変わりしてるな」


 遺跡都市は、太古の建造物である石造りの“遺跡”を中心に人々が集まって出来上がった秩序の無い都市だ。


 遺跡内部で発見されたアーティファクトは持ち出しが可能であり、他の都市にない不可解な変化を遂げた場所でもある。


『原理が不明なモノが数多く発見されている。マスターはその全てを把握している様だが、改良を求められると面倒だと言うことで知らぬフリを決め込んでいる』

「だろうな」


 彼女の“眷属”であるオレもソレらを普通に把握できる。


『最近は鉄の鳥が遺跡内部に見つかった。映像をマスターに見せたら、“戦闘機”と言う空の兵器だとか』

「ああ。あの平べったい鳥の事か?」


 カイルもソレを見た様だ。


「あんな重い物が空を飛ぶなんで信じられませんけどね」


 レイモンドは半信半疑の様子である。


『私もセントラルベースを見つければ情報を拾えるハズだ』


 ボルックの出身はこの遺跡街である。遺跡の外で停止していた所をクランマスターによって拾われ、以後は『星の探索者』の記録係としての役割をクランでは請け負っている。


 クランマスター曰く、紙に残す手間が省けて良かったわ、との事。


 ボルック自身は世界のどこかにある、メイン端末“セントラルベース”にアクセスし、自分の造られた意味を知るのが一番の目的なのだ。


「今はある情報で行くしかねぇよ。頼りにしてるぜ」


 巨大な遺跡内部は石畳の広間となっており、人が小さく見える程に拓けている。


 内部には簡易な鍜治屋や道具屋などを開いて商売をしている者が多くおり、中には魔法の付与や不要なアーティファクトの買い取りまで行う者も様々だ。

 管理する者が皆無な遺跡都市では、多くの店が入れ替わるものの、概ねその三点だけは絶えず存在している。


「これはこれは。帰って来たのですね。カイル君」


 すると、横から声をかけてくる奴がいた。

 袖の広い服にだぼっとした印象を受けるが、仕込み武器を服の下に所持しているのが容易に想像できる男だ。


「タオのおっさん。毎回言うけど俺は女だぞ? 君は違うだろ?」

「敬称ですよ。お気になさらずに」


 細目に痩けた頬が特徴の中年長身男の名前はタオ。情報では『龍連』のNo.3の男だ。

 他の勢力も、チラホラ見えるってのに腰布に“龍が列を成す紋章”――『龍連ろんれん』を堂々と掲げてやがる。


『タオか。一体なんの用だ?』

「敵意はありませんよ、【戦機】ボルック。知り合いを見かけたら声をかけるのは当然でしょう?」

『いつからワタシ達は知り合いに?』

「ゼウス様と我らが頭目が友人である以上、下である我らも良好な関係であるべきでしょう?」

「……」


 レイモンドも少し警戒……と言うよりは苦手な感じだな。

 それにしても胡散臭さMAXな奴だ。『龍連』では一番のキレ者でトップの片腕。そして、無類に武器コレクターだと言う話だ。今もカイルの肩口に覗く“霊剣ガラット”の柄を見てやがる。


「噂ではクロエさんを救出に行くとか」


 まぁ、2日の準備で色んな所に顔を出したから察されてはいるか。


「どうでしょう? 良ければ私も同行しましょうか?」

「え? マジ! タオのおっさんが来てくれるの――」

「いや、パーティーの役割はもう埋まってる。余計な人数を抱える気は無い」


 カイルが口車に乗せられそうだったのでオレが口を挟む。タオはオレに視線を向けた。


「失礼。どなたですか?」

「オレはローハン。あんたよりもコイツらとは知り合いでね」

「タオのおっさん! おっさんはオレの師匠なんだぜ!」

「ほう……」


 カイルよ、あんまり、おっさんおっさん言うとワケわかんなくなるぞ。


「ローハン……失礼。貴方は『千年戦争』に参加されてましたか?」

「さぁな。してたかもしれんし、してなかったかもな」


 『千年戦争』? と首をかしげるカイルと、オレを測る様に見るタオ。そしてボソッと、噂は本当か……と呟いたのをオレは聞き逃さない。


「どうやら、私はお呼びではない様ですね。それでは」


 そう言うと背を向けてスタスタと歩いて行った。


「おっさん。タオのおっさんは良い人だぜ? 前に絡まれてた所を助けてもらったんだ」

「お前はね、もうちょっと警戒心を覚えなさい」

「なんだよそれー」


 おバカな猛進愛弟子の短所が出たな。野生の勘は極まっているが、搦め手のようなやり取りはてんでポンコツ。

 もうちょっと経験を積めば理論的に善悪を見定める事が出来ると思うが……て言うか、クランの奴らは忍者を除いて知的な奴ばかりなのに、なんで昔よりも成長してねぇーのよ。


「……ふー」

「なんだよ、レイモンド。もう疲れたのか?」

「カイル。タオさんを前に能天気で居られる君が羨ましいよ」

「お前まで、なんだよそれー」


 レイモンドはタオの異質な様を感じ取った様だ。当然と言えば当然だな。カイルの奴が短絡的過ぎるんだよ。ちと感覚型に育てすぎたか……


『三人とも行こう。この場で留まるのはあまり良くはない』


 三勢力の一角『龍連』のNo.3と知り合いと言う事実に周囲の奴らは特に注目している。中には――


「……」

「ん? おっさん。行こうぜ」

「おう」


 『エンジェル教団』はガチで戦争に備えてやがる。アマテラスの“眷属”がこっちを見てやがった。






 実の所、遺跡内部に存在するモノは下へ続く階段だけであるのだ。

 下りも上りも一つの階段でしか行われない。にも関わらず、上がる者と下がる者ですれ違う事は無い。

 空間が歪んでいるのか、とにかく階段一つとっても理解を越えた施設である事は確かだ。


『少し遅かったか。どうやら変わってしまった様だ』


 階段を下りる前にボルックが、階段の横にある“上層”の状況が表示された看板を見る。

 この看板はアーティファクトを利用して作られた代物で昔から存在する。“上層”から帰還した者の魔力を感知して表示が変わるのだ。


「面倒だな」


 オレもそれを覗き、ボルックと同意見だった。


「え? 何かあったのか?」

「カイル……看板は見えてる?」

「見えてるよっ!」


 レイモンドが呆れて、カイルが叫ぶ中、そこに表示されているのは――


「上層は“冬”か」


 ここより下の遺跡内部には独特の環境と四季が存在する。

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