第29話 来いよ、勝負だ!

 おっさんに紹介されて入ったクラン『星の探索者』は色んな人の集まりだった。

 その中でも一際、凄いと思ったのがクロエさんだった。


 それを一番に知ったのは、砂漠に行ったときだ。

 砂漠の湖底に封印されていた太古の王から話を聞きたくてゼウスさんが復活させた事で大事となってしまった。


「本当に話を聞かない子で困ったわ」


 そう言いながら、ゼウスさんは世界の支配へ侵攻する古代砂海軍を消し飛ばす為に魔法を準備する。その間、皆で時間稼ぎする事になった時の話だ。


「ほんっと! だからアタシ、言ったよね!? 話通じないって!」

『サリア、敵指揮官の位置を送る。仕留めれば勢いが鈍るハズだ』

「フッハハハ! 我が名は【烈風忍者】スメラギ! 我が身がある限り、主様に指一本触れられぬと知れ! 弓矢など無意味! 風遁(風魔法)! 砂塵旋風!!」

「これって、本気で世界滅ぶヤツですよね? 本当にマスターは何とか出来るんですか?」


 視界を覆うほどの敵を皆で対象する。俺は何度も『霊剣ガラッド』を抜こうかと柄に力を入れたが、一向に抜ける気配が無いので普通に剣を振るっていた。


 皆が懸命に目の前の敵を何とかする中、敵の侵攻が緩くなる箇所があった。


「水影人」


 それはクロエさんの水魔法。自分と同じ能力を持つ二体の分身を一定の時間だけ出現させる。


「荒波『乱刃』」


 クロエさんを含む、三人は逆に敵軍に踏み込んで行った。視界一杯に数えきれない程の敵を斬り進み、古代の王を狙って歩を進める。


 最初はクロエさんを無視をしていた敵だったが、次第に止まらないその歩みに動きを変えた。

 クロエさんを第一に排除する様に囲い出したのだ。


「水陣『波切の太刀』」


 召喚体とクロエさんの三者はその場に留まり、敵を次から次に斬り伏せて行く。

 敵軍は押し潰そうとするも、まるで見えない壁があるかのようにクロエさんへ攻撃は届かない。


「すげー」


 俺は思わず呆然とした。

 クロエさんの剣技はあまりにも効率的で、挙動の一つ一つが敵を斬る事だけを成しているからだ。

 それがどれ程の高みに居るのか、剣を持つ者として理解できる。同時におっさんの事が頭をよぎった。


「サリアさん。クロエさんの援護に――」

「クロエは問題ないわ。変に割り込むと斬られるわよ。それにそろそろ――」

「皆、待たせたわね」


 ゼウスさんが、両腕に電気をはわしながら告げる。


「パン」


 そう言って軽く手を合わせると、弾ける様にピリッと電気が場に走る。


「パンパン、パパン♪ パンパン♪」


 合いの手の様にゼウスさんがリズムと取りながら手を叩き、皆の前に歩く様に出る。その度に電流は増し、それは次第に落雷となって雲の無い空から降ってくる。


『クロエ、離脱しろ。マスターが『鳴神』を使う』


 その言葉にクロエさんは一度、大きく太刀を振って場を切り払うと、高く跳躍し離脱。

 それを確認したゼウスさんは更に手を叩いて行く。


「ドン♪ ドン♪ ドドン♪」


 ゼウスさんの言葉と合いの手に呼応する様に雷が何本も落ちてくる。

 こちらに向かい始めた敵はソレに吹き飛ばされて、木っ端の様に空を舞った。


「カイル、レイモンド。耳を塞ぎなさい」


 サリアさんの言葉に俺とレイモンドは耳を塞ぐ。そして、


「『鳴神の雷鼓』」


 パンッ! と占める様にゼウスさんが手を叩いた瞬間、視界全て覆う極大の雷が眼前に落ち、耳を塞いでても鳴り響く轟音にキィーンと音が残る。

 攻撃は一瞬だったけど、全てが終わったと思える程の魔法だった。


「――うん。これで、クルセイダーも懲りたわね」


 目の前には焦げた大地から煙が上がり突然の静寂となった。形の残っている敵の死体がチラホラ見える目の前を見て、ゼウスさんは腰に手を当てて満足げに呟く。


「て言うか、アイツ完全に死んだでしょ」

『生き返って早々に黄泉送りとはな』

「道を違えた主君ほど愚かなモノはない」

「うぅ……まだ耳がキィーンってする……」

「全員、怪我はない?」


 クロエさんが刀を納めながら歩いてきた。


「カイル、レイモンド。無事?」

「僕はまだ耳が……」

「クロエさん! 凄かった!」


 俺はゼウスさんの魔法よりもクロエさんの剣術の方が凄いと感じていた。

 普段は調査とかで終わることが多いので、皆が実力を出す機会は殆んど無い。

 しかし、今回はクロエさんの本気を垣間見て興奮しっぱなしだ!


「マスターが早く魔法を使ってくれたから、本気を出すまででもなかったわ」

「どういたしまして」

「え? アレで本気じゃなかったの!?」

「クロエが本気ならあの状態からクルセイダーの首飛ばせるわよ」

「頭を討っても止まる感じじゃなかったからね」

「マジ!? 俺もさ! クロエさんみたいに強くなれる!?」


 俺の言葉にクロエさんは笑う。


「ええ。カイル、貴女は私やローハンよりもずっとずっと強くなるわ」


 常に自分を越えなさい。求めるのは純粋な“強さ”よ。


 クロエさんにそう言われた。それが何を意味するのか。言われた当時は分からなかったけど……今なら分かる気がする。


「来いよ、勝負だ!」

『…………』


 俺はボルックを……仲間を傷つけたヤツを斬ると決めた。


 お前が俺よりも強いのなら……弱い俺を越えて、お前よりも強い俺になる!

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