第164.5話

「方法は決まった。後は……外輪準。災厄の纏った影を惹きつけるには憑依態になる必要が……」


「分かってる。少しでも成功の確率を上げる為にに頼むよ」


「じゃあ俺らは準備に行きますか〜」


 夏樹が空気を読むように席を立つと、ウラ秋菜達を連れて部室を出て行った。


 部室には、俺とカノガミとみーちゃんだけが残される。


「融合する前に、少しだけ時間を頂戴。2人に伝えたいことがあるの」


「どうしたんだ?」


 みーちゃんの話を聞き逃してはいけない気がして、俺とカノガミはしゃがみ込んだ。


 みーちゃんは、そっと俺達を優しく抱きしめてきた。その姿は幼いのに、なぜだかすごく……安心感を感じた。


「私、2人と出会った頃は全然違ったわね。お兄ちゃんを殺そうともしてしまったし、カノガミに酷いこともした。自分が生まれた意味も知らずに」


 みーちゃん……消えた彼ノがみの記憶を見て、そのことを悩んでたのか。


「何を言っておる。ウチらはそんなこと気にしておらんのじゃ」


「2人はずっと前に許してくれたわね。だからこそ今言わせて。そんな私だけど、今の私はお兄ちゃんが好き。でもカノガミのことも大好き。だから、どんな形でも2人と一緒にいたい」


 彼女のその気持ちがすごく嬉しい。だから、俺も嘘偽り無く、自分の気持ちを伝えないと。


「みーちゃん……俺も、正直な気持ちを言うよ」


「うん」


「俺は、カノガミのことが好きだ」


「……うん。知ってるわ」


「でも、今までのことも全部含めて、みーちゃんのこともすごく大切なんだ。どんな形が1番いいのかは分からないけど、俺は彼ノがみも含めた3人と生きていきたい」


「お兄ちゃんは本当にカミたらしね」


 みーちゃんが優しく笑う。みーちゃんのこの優しさに、俺はいつも救われてる。だから、彼女の気持ちにも真剣に向き合わないと。


「優柔不断でごめんな。でも、一生懸命考えるよ」


「この災厄を救えばジュンには長い人生が待っておる。みーちゃんはウチに遠慮しなくても良い。みんなで、ゆっくり考えよう?」


「ありがとう……2人とも大好きよ」


 みーちゃんはそう言うと、ゆっくり俺達から離れた。


「融合しましょうか」


「絶対災厄を救おう。みんなで」


 カノガミとみーちゃんは頷くと、そっと手を繋ぐ。そして、2人の姿は光に包まれていった。



◇◇◇


 光が、1人の少女の形へと変わっていく外輪達の知る彼ノがみの姿へと。


「……」


 彼ノがみはいつもと様子が違った。いつもなら、元気な姿を外輪に見せているが、今日は、何も言わずじっと彼のことを見つめていた。


「彼ノがみ。俺さ……」


「私怒ってるんだけど?」


「え、あ……」


「何勝手に消えようとしてたわけ? 勝手に私との憑依態になるし、災厄っていうのに突っ込んでさ、全部自分のせいだって勘違いして」


「ごめん。ジノちゃんがいなかったら、俺、大変な間違いをしてたかも……」


「正直ね。意味分かんないから。私としては騙されて体分けたんだよ? そのせいでこんな変な性格にされちゃった訳だし。過去の私? 裏設定? 知るかっつーの!」


 彼ノがみは机を叩くと椅子に勢いよく座った。


「なんで何も言って無いのに分かるんだよ?」


「準の頭ん中読んだから」


 彼ノがみがこめかみに人差し指を当てる素振りをする。


「お前が被害者だって言いたいのは分かるよ。それでも俺は彼女を救いたいんだ。1を」


 彼ノがみは、怒りをぶつけるように会議用テーブルを勢いよく叩く。


「あームカつく! 1人で悲劇気取りやがって!! 全部自分が背負えばいいと思ってやがる! 私だけど私じゃないよその女は!!」


 しかし彼女は、わめき散らすと急に大人しくなった。


「……」


「頼む。俺に、力を貸してくれ。もう一度俺と憑依態になってくれ」


「……この前無理矢理私との憑依態になってコントロールできなくなったでしょ?」


「もう、あんな風に怒らない。災厄を救いたい気持ちがあるから」


 彼ノがみは少年の顔を見て腕を組んだ。そして何かをうんうん考える。


「私が同じようになったとしても助けてくれる?」


「当たり前だろ。カノガミも、みーちゃんも、お前も。みんな俺にとって大事だ」


「カミたらしの台詞だねぇ〜」


「い、いや俺はそんなつもりじゃ……!? 真剣に向き合って考えて……」


「ま、いいよ。あの女は気に食わないけど、もう1人の準は助けてあげたいからね。どの世界の準でも、私が好きな人だし」


「……ありがとな」


「自分でも言ってて意味分かんなくなってきた。この世界複雑すぎるんだよ。ね? ジノちゃん?」


 え、え? 急に私に振らないで。


「途中から覗いてたでしょ? カミを欺けると思うなよ〜♡」


 す、すみません……。


「じゃ、時間無いんでしょ? 色々と力の使い方教えてあげるから、集中して覚えるんだよ♡」


 外輪は彼ノがみともう一度憑依態になった。

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