第37話 2/2
急いで芦屋秋菜を背負ってその場を離れた。
「大丈夫か!?」
「あ"ぁー苦しいぃ…あのガキより私の方が歳下だぞ? 大人気ないことしやがって……」
「もう話すなよ。秋菜は良く頑張ったよ」
「はは……私、何回死んだ?」
「……131回」
「それだけ私が死ぬところ看取ったのなら呼び捨てにしたこと許してやるよ」
「無茶苦茶なことさせんなよ……」
「うるさい。お前はやり合わないんだから寿命くらい賭けろ」
秋菜の作戦は無茶苦茶だった。
今日の朝伝えられた本当の作戦……それは、みーちゃんが復活した後、カノガミの接触が成功するまでをひたすら繰り返すことだった。
俺達は失敗する度に1時間タイムリープする。初めから1時間と決めていればリープの隙も生まれない。
みーちゃんにリープを気づかれないようにするのが特に厄介だった。少しでも未来を先読みした行動をすれば気付かれてしまう。
だから秋菜はリープした俺達の情報を元に131回もみーちゃんの攻撃を受け続けた。みーちゃんの気を完全に自分に向けるまで何度でも立ち向かった。
成功するまで何通りも俺達に行動を変えさせて。
たった1人。
秋菜はたった1人で死に続けた。
ばば様以外の芦屋家の人達は当然、秋菜の考えに反対した。
しかし、秋菜が「自分達以外の人がいると不確定要素が増える」と言って聞かなかった。
それは……秋菜が他人を巻き込まないように考えた末の作戦なのだと感じた。
「すごい……すごいよお前は」
「見て分かったろ? まともにやり合っても絶対勝てないからな」
俺は、ただ見守った。窒息、転落、圧死……いく通りもある秋菜の死を目の前で見続けた。みーちゃんが隙を見せるまで。
正直、頭がどうにかなりそうだった。
でも、芦屋秋菜が逃げ出すことを許さなかった。
リープする度に「お前達の願いを叶える責任を負え」と言われ続けた。
「私はもう動けない。後はアイツに任せるしかないな」
秋菜の視線の先にはカノガミとみーちゃんがいた。
◇◇◇
カノガミは後ろからみーちゃんを羽交締めにしていた。
「離せ!! ゴミが!!」
みーちゃんが後ろにいるカノガミの腹部を蹴る。カノガミはそれでも怯まず、さらにみーちゃんへと密着し身動きを取れなくしていく。
--死んでも離さんのじゃああああぁぁ!!
みーちゃんが必死に暴れる。しかし、体勢が崩れた状態でカノガミを振り解くことはできないようだった。
「お前! バカすぎてどうなるのか分からないのか!? このままだと私達の人格は消えてしまうんだぞ!?」
--そんなことはない! ウチは絶対に帰ってみせる!!
みーちゃんが髪を伸ばしてカノガミを攻撃する。それをカノガミは自分の髪で絡め取って再び動けなくしていく。
「離せええぇぇぇぇぇぇ!!」
--嫌じゃあああああぁぁぁ!!
「私が逃げた後に残ったカスのくせに!! 記憶も無いだろお前は!!」
--ウチはカスじゃない!! ちゃんと「チヨ」のことも覚えておる!
「チヨ」という名前にみーちゃんは反応した。
「お前が……チヨのことを語るなぁぁぁ!」
みーちゃんがカノガミを激しく拒絶する。手当たり次第に周囲の時を操作し、なんとか逃げ出そうとする。しかし、カノガミがそれを抑え込んでいく。
--みーちゃんもチヨの記憶が断片的にしか無いんじゃろ!? ウチが渡す! ウチには残っとるのじゃ! チヨとの楽しかった思い出が!」
「嘘を吐くなっ!!」
--チヨは……ウチらに村の様子を話してくれた。
「やめろ!!」
みーちゃんが残った力でカノガミの腕に噛み付く。カノガミは、一瞬顔を歪めたが、話すことをやめない。
--川で一緒に魚を取った。
みーちゃんが暴れる。それをカノガミが強く、抱きしめるように抑えた。
--贈り物をくれた。
カノガミが「チヨさんとの思い出」を語っていくにつれみーちゃんが大人しくなっていく。
--覚えておるか? ウチらはチヨの願いを聞いて、あの子が笑うのが好きじゃったじゃろ?
みーちゃんが噛み付いていた腕を離す。その腕は痛々しほど傷付いていた。
「……チヨ」
--ウチは……どんな顛末を迎えたかは分からんが良かったことだけは残っておる。
カノガミの手が、みーちゃんの頭を撫でる。慈しむように、慰めるように優しく。
「チヨに会いたい……」
みーちゃんが涙を流した。
--合わせてやることはできんが……ウチの記憶を渡そう。じゃから、みーちゃんの辛かった記憶、ウチにも分けておくれ。
「……」
もう、みーちゃんは抵抗することは無かった。ただ俯いて泣いているだけ。それは普通の、小さな女の子のようだ。
不思議な光景だった。さっきまで争っていたのに、今は……泣いているみーちゃんをカノガミが抱きしめている。
その姿は……。
年の離れた姉妹のような……。
次第に2人を眩い光が包んでいく。
2人の姿が見えなくなっていく。
そして、辺りは眩い光に包まれた。
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