パンパカパーン!なのじゃ!

第38話 1/3

 眩しい。カノガミとみーちゃんが光に包まれてから数分。光は増すばかりだ。


「おい。あれ」


 秋菜が差す方向に光が集まり、形を作っていく。


 眩しさが消え、女が立っていた。カノガミでも、みーちゃんでもない女性のシルエット。


 それは、俺と同じくらいの年齢に見えた。服はなぜか、秋菜と同じ白水中学の制服を着て、髪は肩までの長さ。顔立ちも、カノガミの面影を感じる。ちょうどカノガミとみーちゃんの中間のような印象だった。


「パンパカパーン! ふっかーーつ♪」


 女は謎のキメポーズをした。



 な、なんだ……? コイツ……。



「どういうことだ? ノがみは抜け殻なんじゃないのか?」


「いや、それは……」


 一瞬返答に困ってしまったが為に秋菜に悟られてしまった。秋菜の顔が一気に険しくなる。


「お前ら……私を騙したのか!」


 秋菜に胸ぐらを掴まれる。


「喧嘩はやめなよぉ」


 彼ノがみに何か話しかけられた途端、秋菜が


「秋菜!?」


「殺してないから安心しなよ」


 女がこちらに近づいて来る。見た目は俺とそう変わらないのに……口調も見た目相応なのに……威圧感がすごい。


「……カノガミ? 聞こえてるか?」


 融合したカノガミはどうなってしまったのだろうか? カノガミは「絶対に帰れる」と言っていたけど……。


「あはは! 君間違えてるよ。私はノがみだよ。カノガミって誰ー?」


 彼ノがみは腹を抱えて笑い出した。


 嘘だろ……大丈夫だよな?


「ね、この服どーお? そこの子から真似してみたんだけど、中々似合ってない?」


 彼ノがみはワザとらしく回転してみせた。


 制服を着ていると、本当に同級生の女の子に見える。カノガミが大人の姿、みーちゃんが子供だったのに……なんで融合して中間くらいの歳になるんだよ。


「それにしてもさぁ。君、匂うね」


 突然の指摘に反射的に自分の体の匂いを確認してしまう。


「あははは! 違う違う! 君の体からじゃなくて〜」


 彼ノがみが急に目の前に顔を近づけてきた。さっきまでの笑顔から妖艶な笑みへと表情が変わる。


「君の中から匂うんだよ。。君さ、『自分が死ぬことに興味ない』でしょ? あ、ん〜? 違うな〜。『死にたい』んでしょ?」


「は……?」


「『みんなが傷着くところなんて見たくないーい!』とか言って、自分から危険に飛び込んで、ホントは『死にたい』だけなんでしょ? そんなに君のの所に行きたいの〜?」


 彼ノがみがワザとらしい演技を入れて、俺の心の内を語ってくる。


 違う。違う……俺はただ……。


「……なんで初対面のお前にそんなこと分かるんだよ」


 彼ノがみは目を閉じ、両手の人差し指をこめかみに当てた。


「君の過去を覗いてあげてるからだよー。君は6歳の頃、両親を失ってるねぇ。死因はえーと。殺人!? 怖い世の中だねぇ。でも、犯人も死んじゃってやり切れない感じかー」


「ち、違う事故だ! 相手の人だって……」


「変わんないじゃーん。結果は同じ。君の親は。でしょ?」


 胸が抉られる。なんだよ。なんでこんなこと言われなきゃいけないんだよ。


「それからそれから〜? お、君、友達がいるね。ふ〜ん。友達や周りの人が君のこと気にかけてくれたんだぁ! それで君はなんとか立ち直ったと……おんやぁ? なーんか最近では女の影がみえるぞぉ〜」


 彼ノがみがニヤニヤといやらしい笑みを浮かべる。


「あ、君! その人のこと……ふぅーん嬉しかったんだぁ。寂しかったからねぇ〜」


「やめろよ!! お前に俺の何が分かるんだよ!!」


「分かるよ。分かる……だって私も悲しいんだよぉ……。私も大事な大事な『チヨ』を失ったからぁ……うえぇぇぇん」


 彼ノがみは大げさに泣き始めた。突然のことに怖くなる。なんだよコイツ。


 今笑ってたじゃん。なんで急に泣いてるんだよ。


「だからぁ……だからぁ。君、私のこと慰めてよぉ。遊ぼうよ。そしたら私も君のこと慰めてあげる。君のからさ〜」


 俺の親……。


 その提案に心がグラつく。


 でも、脳裏にみんなの顔が浮かんだ。それにカノガミの顔も……。


 こんな所で目的を見失う訳にはいかない。


「だったら……別の願いを聞いてくれ」


「あれ? 生き返らせるのはイマイチだった? 言ってみて」


「俺は……ラセン時間を潜りたいんだ」


「え? ラセン時間って……世界の繋がりの?」


「そ、そうだ。お前から分離した……」


 「みーちゃん」と言おうとして急に息ができなくなった。


 こ、これ秋菜がやられたヤツだ……。


「ダメダメ。そんなこと人間風情が言っちゃダメだよ。改変なんて。おこがましいよ? ね? 私と遊んでる間に他の願い考えておいてね」


「あ……あ……」


 秋菜のヤツ……何回もこんな思いしてたのか……ごめんな。秋菜……。


「あーあ。涙まで流しちゃってみっともなーい。あ、私もさっき泣いてたか。思い出したらなんだかまた悲しくなってきちゃったああぁぁぁ。うえぇぇぇん」


 彼ノがみがまた大げさに泣き始める。


 その時。


 ふっと体に力が入るようになり、再び息が吸えた。


「あれ? ? まぁいいや。君、名前は?」


 咳き込んでいると彼ノがみが背中を摩ってきた。


「ごほっ……そ、外輪、準……」


「そっかぁ。準。だね。じゃあ早速街に行こー!」


 満面の笑みの彼ノがみが俺の手を引いた。



 あぁ……俺、コイツのこと……。



 嫌いだわ。

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