第39話 2/3

「えぇぇ〜!? すごーい!! これがゲーセン?」


 ノがみに連れられて山を降りた後、白水を出て街に来た。どうやったか分からない。一瞬だった。気が付いたら街に佇んでいた。


 コイツはカノガミの影響なのか現代の知識はあるみたいだ。ゲームセンターに言ってみたいと言われた。


 彼ノがみは格ゲーが気になったらしく、対人戦をプレイしていた。


「ちょ、あ、何これ!? めっちゃ強いじゃん!?」


 彼ノがみが筐体の向かいに座る相手に圧倒されている。


「あ……ダメっ!! ヤバイヤバイっ!!」


「おまえっ!! 変な声出すなよっ!?」


「だってぇっ〜出ちゃうんだから仕方ないじゃん!!」


 こう見ると普通のクラスメートに見える。でも、さっき殺されかけたせいで全然笑えない。


「もぅ〜。えいっ!」


 突然相手のキャラの動きが止まる。そのまま彼ノがみが相手のキャラをボコボコにしてKOしてしまった。


「な!? お前何やったんだよ?」


 相手の筐体を動かないようにしたのか……?


「ううん。相手のを止めたの。フフッ。覗いてみてよ相手の顔。きっと笑えるよ」


 覗いてみると大学生ほどの男の人だった。突然指が動かなくなって顔が真っ青だ。


「戻してやってくれよ!」


「嫌だよ〜。だって生意気じゃん! アイツは一生あのまま生きるんだよー」


 彼ノがみが笑いを堪える。


 お兄さんはパニックを起こし、周りに助けを求め出した。


「見て見てあの顔……おもしろ〜い! これからどうなるんだろ? ちょっとあの人の未来見てみようかな〜」


 彼ノがみが無邪気そうに言う。


「本当にやめてくれよ。頼むよ」


「えー? だって聞いてー? あの人の過去も見てみたんだけどぉ〜、あの人なーにも苦労してないんだよぉ? 裕福な家に生まれて〜受験も1発で合格して〜。そのくせ『誰も本当の俺を見てくれない!』なんて悩んでるの! 生意気だよ〜」


「やめてくれ……」


「準が気にすることないじゃーん♪ 準はなんだからさ。準は特別なんだよ? ! だからさ、他人を不幸にしても許されるんだよ?」


 かわいそう……? 特別……?


 なんだよそれ……。


「ほ、ほら、他に楽しい所に連れてってやるからさ! 戻してやって。な?」


「え〜?」


 一瞬、彼ノがみが顔を歪ませ、頭を抑えた。


「もう。しょうがないなぁ」


 彼ノがみがそう言うとお兄さんの手は元に戻った。



◇◇◇


「おぉ〜! これが観覧車……」


 彼ノがみが目を輝かせる。


 繁華街にある大きな観覧車。カップル達に人気のスポットで、年中賑わいを見せている。


 いつか来たかったデートスポット。なぜかコイツと来る羽目になるなんて。


「よっし! じゃあ早速……」


 彼ノがみが足を止める。


「どうした?」


「み、見て……あの頂上のちょっと左側……男女が、く、くちづけしてる……」


「ホントだ。真昼間からよくやるなぁ」


 彼ノがみがわなわなと体を震わせた。


「許せない……。私の前でいちゃつきおってからに……」


 彼ノがみが手を伸ばすと観覧車のカップルのうち、女の人が突然怒りだした。


「見てよ! 喧嘩してる! 面白いよ〜」


「な、何かやったのか?」


「フフフ……あの女のね。の。2人が出会う前にね。突然知らない男にくちづけされたから怒ってるんだよきっと!」


「やめろよ! 何が面白いんだよ!」


「え〜怒んないでよ〜!」


「あの女の人も戻してやってくれ!」


「分かった分かったって〜。今、戻したからさ」


 彼ノがみがワザとらしく手を叩く。


「良いこと思いついた! 準! 私と恋人ごっこしようよ。そしたら君の言うことなんでも聞いてあげる」


「……本当か? ラセンリープも?」


「うんうん本当だよ! ちゃーんと私を楽しませてね! 準!」


 彼ノがみがにこやかに笑う。


「ちゃ、ちゃんと最後は『愛してる』って目を見て言って、く、くちづけするんだよ!」


「……」


 彼ノがみが急に顔を真っ赤にさせて「きゃー恥ずかしー!」などとはしゃいでいる。


 でも俺は、その一言でアイツを思い出した。



--ウチに「愛してる」と言ってくれ……そして、く、くちづけを……。


--「消えるカノガミと最愛のジュン」ゴッコじゃ。暇じゃったからのぉ〜。



 カノガミ。


 

 本当に帰ってこれるよな?



 なぁ……。



 俺を置いてくなよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る