第61話 2/4

 格闘部部室の扉を開けるといきなり怒号が聞こえた。


「おいいいいぃぃぃ!? 投げハメ禁止だろおぉ!?」


「ふはははは!! 抜けれん貴様が悪いわ!!」


 部室に置かれたブラウン管を前に男女がゲームをしていた。それも、何故かお互いを罵り合いながら。


「あら。今日は随分部員が少ないのね」


 方内先輩が何事もないように言う。


「格闘部……俺が想像していたのと違うのだが……」


「犬山くん知らなかったの? 格闘部って言ったら有名じゃない。格闘ゲーム部……略して格闘部よ」



 いや、略すなよ……。



「俺らになんか用かぁ?」


 いつの間にか格闘部の2人がゲームを止めてこちらを見ていた。


明暗あけくら紺田こんだ。ちょっと大橋先生のことで聞きたいことがあるのだけど」


「なんだよ? オレら今、忙しいんだわ」

「なにぃ〜? アタシ達忙しいんだけど」


 2人が同時に話し始める。どちらが明暗でどちらが紺田なのか全然分からない。


「昨日の夕方、大橋先生に大会遠征費渡したでしょ? その時のこと教えなさい」


「昨日のこと? 明暗、どうする?」

「昨日って〜? どうしよう紺田?」


 女子が明暗で男子が紺田なのか……。


「鬱陶しいわね! アンタ達のキャラ付けにつき合わせないでちょうだい! 紺田。話しなさい」


「え、俺ぇ〜?」


「そうよ。遠征費を渡した後、先生はどうしてた?」


「ウーン……。確か、『みんなの成長具合を見てあげる』って言ってストゼ○2やってたかな。1時間ぐらい。ボコボコにされたけど」


「ふぅん。大橋先生は格ゲー強いの?」


「そりゃあ先生達全員にトーナメントしてもらって1番強かった人だし。俺らの中にも勝てるヤツいねーし。あの強さは異常だよ。格ゲーに対する愛を感じるねあれは」


 なんだか、さっきの先生からは想像付かないな。というか先生達全員に格ゲーを? 無茶苦茶なことしてるな。コイツら。


「その後は?」


「帰ったよ。先生」


 帰った? それだけだと何も分からないな。


「他に何か言ってなかったか?」


 紺田が考え込むように唸る。


「ア! アタシ聞いたよぉ!」


 隣で聞いていた明暗が何かを知っているように言った。


「先生部屋出る前にねぇ〜『物足りない……』って呟いてた!」


 物足りない……か。


「何か分かった? 犬山くん」


「格ゲーを愛する先生が『物足りない』と言っていたということは……行く場所は1つ。ゲームセンターだ」


「紺田。ゲームセンターってこの辺だと何処に行くの?」


「ゲーセンかぁ。格ゲーが揃ってるのは駅裏にある『大怪獣』かなぁ。でもあそこはなぁ……」


「何よ? 何かあるの?」


「よく暴走族が集まってんだよなぁ。確か爾維堕盨ジーダスとかいう」


 明暗が顔を輝かせた。


「アタシも知ってるー。この辺って狭いのに暴走族が2つもあるって」


「明暗はそういうの好きだよなぁ」


 紺田が呆れ顔で言う。


「でも私の好きなのはもう一つの薔僂権バルゴンの方だね! 作ったのが虎頭櫂ことう カイ虎頭景ことう ケイっていう兄と妹でさー! まぁ今はいないんだけど」


 虎頭櫂……俺は、知っている。その名前。



 ……。



 思い出したくもない。



「なぜのよ?」



「さぁ? でもそれがカッコいいじゃん! 謎っぽくて。兄もだけどさ、景って言う妹もめっちゃ喧嘩強いらしいよ!」


「……まぁいい。2人ともありがとう」


「うぃ〜」

「ウィー」


 明暗と紺田は適当な返事をするとゲームを再開した。


「行くの? その『大怪獣』っていうゲームセンター」


「ああ。先輩は危ないからやめておいた方がいい」


「私も行くわ。暴走族見てみたいし」



 暴走族を見てみたいって……どういう思考回路しているんだ。この人……。

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