アイツとアイツで猫退治。なのじゃ!

第54話 1/5

 舞の忘れ物を届けた後、情報部の部室に寄ってみたら小宮茉莉こみやまつりがパソコンに向かっていた。


「あれ? みーちゃんが学校に来るなんて珍しいね。武士研の時以来かな?」


茉莉まつり。舞の忘れ物を届けた後に学校をぶらついてたの」


 舞。情報部に入って楽しそうだな。今日はあのお兄ちゃん外輪準と一緒に取材で「親近感クラブ」の校外活動について行くって言ってた。


 でも、カメラを忘れるなんて……情報部なのに。


「そうなんだ♪ もう可視化はコントロールできるようになった?」


「それがね。まだ全然なのよ。今日もここまで来る時、色んな生徒に捕まったわ」


「つ、捕まったって何されたの?」


「え? ぬいぐるみのような扱いを受けたわ」


 普通に廊下を歩いたのが失敗だった。とにかく色々な女子に引っ張り回されたり、持って回られたり酷い目に遭った。


「あぁ〜みーちゃん可愛いからね♪」


 茉莉がカメラを向けてきた。


「ちょっと。写真撮らないでよ」


「え〜いい表情じゃーん。収めなきゃもったいないよ!」


 写真は恥ずかしい。自分の顔を後で見返すなんて、人間の考えることってホントに分からない。


「あ! ごめんねみーちゃん。私、もう行かなくちゃいけないの。もうすぐなっつん来ると思うからゆっくりしてて」


 茉莉はカバンにカメラをしまい、私に何かを差し出した。


「はい。キャンディーどうぞ」


「子供扱いしないでよ」


「え〜いらない?」


「……いる」


「お! 可愛い反応! カノちゃんだったら『よこすのじゃ!』ってひったくってくからね〜」


 カノガミのヤツ。もう少しカミらしく振る舞えないのかな。恥ずかしいな。


「それじゃまた後でね〜」


 茉莉が出て行くと部屋が静まり返った。校庭から他の部活動の声が聞こえてくる。



 ……。


 貰ったキャンディーを口にいれる。

 


「あまい」



「お兄様!! 今日は逃しませんよ!!」


 突然扉が開き、芦屋秋菜あしやあきなが入ってきた。


「あら? みーちゃん! お久しぶりですね」


 秋菜が上品な笑みを浮かべる。こちらの秋菜は随分とほんわかした雰囲気に思える。夏樹が関わる時以外は。


「秋菜。もう1人の人格の方とは大丈夫? 上手くやってる?」


「大丈夫……か、ですか。何とも不思議な感覚ですね。お互い記憶も共有されてますし、特に生活に支障は無いのです」


 秋菜が頬に指を当てて考えるような仕草をした。


「ですが、切り替わった時は全く性格が違う感じなんですよね。上手く説明できないのですが」


「ごめんなさい。あなたには特に……」


「いえいえ。そう何度も謝らないで下さい! 私はもう1人の私も含めて結構気に入ってるんです。この状況♪」


「切り替わりはコントロールできるの?」


「どうでしょう? どちらかがことがある時に入れ替わるくらいですかね」


「そう」


 それなら、少なくとも今、もう1人の秋菜と鉢合わせすることはないか。あの女は私のこと嫌ってるハズだし。


「そういえば夏樹を探しているの?」


「そうなんです! お兄様ってば最近よく逃げるんですよね〜。今日なんて……」


 何かを思い出したように秋菜が手を叩いた。


「そうだ! ちょっとみーちゃんにお願いしたいことがあるんです!」


「お願い? 何かしら?」


「あ。」


 秋菜が急に固まった。


「秋菜? どうしたの?」


 秋菜の目つきが鋭くなる。


「なんだか親しげだな。私はまだ許したわけじゃないんだが? クソガキサマ♡」


「あ、芦屋秋菜……」


 最悪だ。このタイミングでコイツが出て来るなんて。せめて夏樹が来てからだったら矛先が夏樹に行くのに。


「ふぅん。お兄様は今日も逃げたのか……」


 芦屋秋菜が部室をキョロキョロと見回す。


 き、気まずいわ。


 私、この女131回も殺したらしいし……でも、あの時は私も封印されそうだったし、そもそも一度不意打ちで封印された訳だし……でもなぁ。どう考えても私が悪いの……よね?


「まぁ〜いいか。おい、クソガキ」


「……何?」


「あっちの秋菜も言ってただろ? 手伝え。それでチャラにしてやる」


「な、何を手伝えばいいの?」


「猫退治♡」


 芦屋秋菜が満面の笑みになった。


 ……不思議だ。さっきの秋菜と同じ笑顔なのに、なんでこの女の場合はこんなにも邪悪に見えるのだろう?

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