第55話 2/5

「猫?」


「ああ。最近辻斬り猫が現れてな。白水町しらみずちょう全体で被害が出てる」


「辻斬りって……ケガした人とかいるの?」


「いや、衣服を切られたり、酷いヤツは髪を切られて坊主にされてる。被害者は男ばかりだがな」


 猫の辻斬り魔って……どうなってるのこの町。私が言うのもなんだけど。


「まずは聞き込みだな」


「待って。夏樹を探してたんじゃないの? 夏樹と合流してからにしようよ」


 この女と2人で行動なんて……何を話せばいいの? せめてクッションになる人が欲しい。


「は? お兄様を探してたのはトレーニングの為だ。家まで走って帰らせてる。5kmな。最近よく逃げられるが……」


 夏樹……可哀想に。絶対ラセンリープ前より過酷よね。あの子。


「そこまでやるのに実戦の猫退治には連れて行かないのね」


「それは……あれだ、ほら、芦屋家時期当主だし、霊的なヤツなら私が何とかできるが、猫に刀って、怪我でもしたら大変、てゆーか、あの、私もイジメる相手がいなくなる、から……」


 芦屋秋菜が真っ赤になる。


 この女……こんな普通に恥ずかしがる面もあったのか。


「あ……アナタもなのね……」


「うううううるさいっ!! 別に私は一緒に育ったわけでもないしっ! ほっとけ!」


 秋菜はどっちもなのか……。


 夏樹……恐ろしい子。


「それで、聞き込みってどこに行くの?」


「親近感クラブだ」



◇◇◇


 「親近感クラブ」の活動場所まで行くと、舞とお兄ちゃん外輪準がいた。なぜかその場にはリーゼント頭の大男も一緒にいた。しかも、ピンクのハートマークのTシャツを着ていた。


「あ! みーちゃん!」


 舞が駆け寄ってきた。


「どうしたの? 今日はもう帰ったかと思ってたよ」


「今、秋菜と猫を探しているの。それで、ここの部長さんに話を聞きに来た」


「部長なら外輪君と話してる人だよ」


 あの……リーゼント男が「親近感クラブ」の部長? 全然親近感湧かないのだけど。


 お兄ちゃん外輪準が私達に気付いて近づいて来た。


「あ、みーちゃん! 秋菜! どうし……」


「お前が来るとうるさいのも着いて来るから向こう行ってろ!」


 秋菜が食い気味に言うと、お兄ちゃんはシュンとして去っていった。


--なんじゃジュン!? ウチのせいではないぞ!? え、えぇ!? オヤツ抜きは嫌じゃぁぁぁ!!


 遠くから、カノガミの声が聞こえる。確かに……うるさいな。


「おい。そこのピンクTシャツ。ちょっとツラ貸せ」


 あ、秋菜はそっちに注目するんだ……。


「何か用か?」


 部長という男は随分な強面だった。


「あの、あなた親近感クラブの部長なの? ちょっと……そうは見えないんだけど」


「あ、ああ……すまんなお嬢ちゃん。そうなんだ。俺はサトル。「親近感クラブ」は俺が作ったんだ。その、親近感を持ってもらえるように」


 サトルは笑顔を見せた……ような気がする。顔が引き攣ってるようにしか見えないけれど。


「そんなことはどうでもいい。辻斬り猫を探している。お前、遭遇したんだろ? 話せ」


 秋菜のヤツ……サトルよりよっぽどチンピラ感あるわね。


「あの猫か……見たぞ。ちょうど学校近くの河川敷でがあってな。そこの居合わせたんだ」


 なんだか色々とツッコミ所があるのだけど……。


「抗争の件はいい。猫のことだけ聞きたい」


「……物凄い動きだった。暴走族達の間を走り抜けて、気がつくと数人が倒れているんだ。全裸に丸刈りで」


 ぜ、全裸? 丸刈り……?


 なぜ?


「あっという間に60人ほどいた暴走族を倒してしまったな」


「猫は話すんだろ? 何か言っていなかったか?」


 サトルは思い出すように腕を組んだ。


「いや、ずっと考えていたんだ。聞き慣れない単語が多かったからな……。とか、がどうとか、がうんぬんとか……」


「分かった。もういい」


 それだけ聞くと秋菜は背を向けて歩き出した。


「あ、あ、秋菜!? ちょっと! ありがとうサトル。また今度クラブのこと教えてね」


「あ、ああ。またな」


 急いで秋菜の後を追いかけた。


「みーちゃん。夕飯までに帰ってきてねー! 今日はみーちゃんの好きなハンバーグだってー!」


 舞の声が聞こえたので手を振る。


 秋菜を見るとなぜか笑いを噛み殺していた。


 ……自分の顔が熱くなるのが分かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る