あの子にさようなら。なのじゃ!
第69話 1/2
「舞……あなた意外に頑固ねぇ……」
舞に手を引かれて道を進む。
「離れてる場所だし、みーちゃん達だけだと心配だもん」
舞が付き添いで一緒に行くことになった。私が子供の姿だからなのか、舞はときどき私を子供扱いする。
変な形の信号機を通り過ぎると、アイツの家が見えてくる。
目的地に向かう前に、アイツをマンションまで迎えに行くことになっていた。
エレベーターに乗って5階へと上がる。ここに来るのは謝りに来た時以来か。
チャイムを鳴らす。
でも。
誰も出てこない。
「あれ? どうしたんだろ?」
舞が不思議そうに私を見る。
「わ、私は今日だって、確かに伝えたわよ」
ちゃんと伝えてたし、夏樹からも電話行ってるハズよね?
話していると奥から騒がしい声が聞こえて来た。
「ジュン!! ウチのカバンはどこじゃあ!?」
「お前なぁ〜だから昨日準備しとけって言っただろ!」
「うぅ〜出て来ておくれ〜。ジュンに買って貰った大事なカバン〜」
「大事だったらちゃんと分かる場所に置いておけよ……」
「じゃってぇ〜」
「あ! あったぞ!」
「ジュン〜ありがとう〜」
なんというか……カノガミらしい会話が聞こえる。
そのままバタバタと派手な足音を立ててカノガミが出て来た。Tシャツにショートパンツ、それに小さなカバンを肩からかけて。
「や。待たせたの2人とも」
「『待たせたの』じゃねぇぇぇ!? ごめんね。比良坂さん。みーちゃん」
カノガミを追いかけて
「大丈夫だよ。カノガミさんこそごめんなさい。本当はみーちゃんと2人で行く予定だったのに」
「ウチは気にしておらんぞ。みーちゃんと2人だと電車乗るのも心配じゃったしのぉ」
「どういう意味よそれ……」
舞の方を見ると「ほらやっぱり」とでも言いたげな顔で私を見ていた。
何よ。信用ないわね。カミなのに私……。
「カノガミ。ちゃんと財布持ったか? 電話番号書いたメモも持ってるよな? 道に迷ったら電話するんだぞ」
「大丈夫じゃ心配するでない。ウチはカミじゃぞ? 何とかなるのじゃ」
お兄ちゃんもカノガミにやたらと確認していた。
「ふふ。外輪君お母さんみたい」
舞が笑う。舞の母親もやたらと家を出る前に確認してくるのよね。主に私に。
「いやぁ。カノガミと離れるのって初めてだからさ。ちょっと心配で……」
今日の話をした時、お兄ちゃんはカノガミが私と同じように離れて行動できることを知らないみたいだった。
まぁ……カノガミも知らなかったみたいだから当然か。
力を分けたのだから当たり前なのに。今度、ちゃんと何ができるか教えてやろうかな。
「それじゃあジュン。言って来るのじゃ〜」
「おぉ〜気をつけてな〜」
お兄ちゃんはエレベーターの扉が閉まる寸前まで手を振っていた。
◇◇◇
「……で、アンタは何をやっているの?」
カノガミが電柱に隠れては辺りを確認する。そして、また次の電柱へと走る。さっきからこの動きを繰り返していた。
「気を付けるのじゃぞ! 舞。みーちゃん。いつどこで敵が襲ってくるか分からんからの」
「はは……カノガミさん。誰かに狙われてるんですか?」
舞が苦笑いしながら質問すると、カノガミの顔が一気に赤くなった。
「す、すまん。この前暴走族の抗争にたまたま巻き込まれたから、つい……」
「ツッコミ所満載なんですけどそれ……」
あ、やっぱり舞も私と同じこと思うわよね。
「いやぁ〜ジュンがいればのぉ。ジュンを盾にするのじゃが……」
「お兄ちゃんの扱いって……」
「外輪君も大変なんだねぇ……」
……。
駅に向かって歩いていると、カノガミがカバンから緑色のボトルを取り出して何かを食べ出した。
「ちょっと、アンタ何食べてるのよ?」
「ジュンからもらったラムネじゃ。お腹が減ってどうしようもなくなったら食べるよう言われておる」
「カノガミさんもやっぱりみーちゃんと同じなんだね。私もお菓子持って来てるよ」
私達カミは存在するだけでかなりのエネルギーを消費してしまう。
ラムネぐらいではどうしようもないけど、無いよりはマシか。お兄ちゃんなりにカノガミを心配したのかな。
「そうなのじゃ。気遣ってくれるとは舞は良い憑代じゃな。ま、ジュンも中々気がきくがの」
カノガミが胸を張る。そのまま得意気な様子でボトルの中のラムネをバリバリと食べる。
「ねぇ。それって今食べていいわけ? どうしようもなくなったら食べるように言われたたんでしょ?」
「あ」
私の質問にカノガミは固まった。
「し、しまったああああぁぁぁ!? 虎の子のラムネがあああぁぁぁ」
カノガミが1人で悶絶する。
分かってはいたけど、カノガミがいると一気にうるさくなるわね。
「ほら、早くしないと電車の本数少ないんだから」
舞の手を引いて先に進む。
「ちょっと待つのじゃ〜みーちゃん〜」
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