第70話 2/2
電車に乗り、
「すごい田舎ね……」
駅から出てすぐに舞が呟いた。
「だから言ったじゃない。私達だけで行くって」
「ううん。ちょっと驚いただけだから」
駅は無人駅になっていて、駅前のロータリーも昼間だと言うのに誰もいない。
「え〜と
「そうみたいね」
カノガミと一緒にバス停に並ぶ。
「こっちの路線だよ2人とも」
舞がもう1つのバス停に並ぶ。
「え? あぁこっちじゃと逆方向なのか」
カノガミは恥ずかしそうに舞の後ろに並んだ。
「みーちゃん。ダメだよぉ。ちゃんと見て並ばなきゃ」
舞がなんとも言えない笑みを浮かべて私を見る。
な、何? この舞から感じるプレッシャーは……?
待つこと数分。
バスが来たので3人で乗り込み、1番後ろの席に座った。
カノガミと舞に挟まれる。
……狭いわね。
「ええと。降りる駅は黒部十字路よね」
「そうじゃったかのぉ」
カノガミが興味無さそうに言った。
「ちょっと何その返事。アンタもちゃんと行き方調べて来たんでしょ?」
「ん? ウチはこのバスに乗れば勝手に着くと思っておったのじゃが違うのか?」
え? 調べてないの? カノガミのヤツ。あ、合ってるわよね降りる場所……。
悩んでいると、左側からまたプレッシャーを感じる。
見上げるとまた舞がなんとも言えない笑みを浮かべていた。
「な、何よ舞。その顔は……?」
「ううん。そっかぁ。みーちゃんも分からないんだなぁって思って」
舞がバスの行き先案内を指差す。
「ほら、黒部十字路だと鳥兎寺の裏側になっちゃうでしょ? この場合だと2つ先の黒部新町で降りなきゃ」
舞が微笑みを浮かべる。
なんだろう?
この、舞の顔。
母のような、姉のような……慈愛に満ちた表情。
「ほらほらみーちゃん。間違えたからってムスッとしないの」
舞が私の頭を撫でる。
なんだか……。
「なんじゃみーちゃん。分からなくていじけておったのか?」
すごく……。
「そうなのカノガミさん。みーちゃんってばまだこの時代に慣れてないから。私がいないと。ねー?」
舞が、私の頭を撫でながらこちらを見る。
屈辱的だわ……。
◇◇◇
「夏樹様よりお話は伺っております。どうぞこちらへ」
鳥兎寺に着くと、既に話は伝わっていたようで、住職がすぐに応対してくれた。
住職に連れられ、敷地を進む。
「少し特殊な形での供養となっておりますので、離れた場所にございます」
墓地を抜け、山の開けた場所に一つの墓標があった。
「1662年。この地に移った芦屋様は、犠牲になられた方々を供養する為、ここに墓標として石碑を建てられました。その後、数年かけて供養されたと聞いております」
夏樹から連絡があったのは、私達が住んでいた白水……そこで亡くなった人々の石碑の場所だった。
夏樹と秋菜が私達の為に芦屋の書物の中から探し出してくれていたようだ。
「ここには亡くなった方の遺骨とかあるんですか?」
舞が住職に尋ねる。
「大部分の方は遺体すら見つからなかったと聞いております。なにせ、当時にしては大きな地震だったそうですから」
違う。
……私がやった。
「みーちゃん」
カノガミに呼びかけられ、その顔を見上げる。
カノガミは寂しげな笑みを浮かべていた。
「全て1人で背負うでない。今ウチらは2人。これは2人の罪じゃ」
「うん」
「みーちゃん。私もいるよ」
舞がそう言って手を繋いでくれる。
「ありがとう……」
「住職。大部分はと言ったの。遺体が見つかった者はおるのか?」
「はい。見つかった者はここに埋葬したそうです」
「そうか……ありがとう住職。後はウチらだけにしてくれないかの?」
「では、お帰りの際はお声かけ下さい」
そう言うと住職は来た道を戻っていった。
住職を見届けた後、カノガミが言った。
「やはりじゃな。夏樹達の話じゃと……チヨもここに眠っておる」
チヨ……。
ずっと探していた。
チヨが何処に眠っているのか。
それは蘇らせたいからじゃない。
ずっと言えなかった言葉を伝えたかったから……。
「みーちゃん。カノガミさん。私はそこにいるからね」
そう言うと、舞は後ろの木まで離れていった。
「さぁ。みーちゃん」
「うん」
カノガミと2人、石碑の前で目を閉じる。
手を合わせると、まぶたの裏にチヨのことが浮かんだ。
楽しかったこと、嬉しかったこと、喧嘩したこと……チヨが死んでしまったこと。
前は思い出せなかったことも、全て。
良いことも、悪いことも。
ポツリと、カノガミの呟いた声が聞こえた。
「チヨ……すまなかった……ウチは、オヌシのこと、オヌシの最期を……」
そうか……。
カノガミも、悲しかったんだ。私の記憶を分けてから、ずっと……。
チヨ。
今の私は、あなたと過ごした私じゃないけど……。
でも。
ずっとずっと会いたかったよ。
大好きだよ。
最後は悲しませてばかりで、ごめんなさい。
沢山間違えてしまって……あなたが大好きだった人達を……。
それに、私はまた間違えちゃったの。
何百年経っても成長しないわね、私は。
今更だけど、今のここにいる子達を守っていくよ。
あなたの生きた証かもしれない子達を。
私と……私達と友達になってくれて、ありがとう。
……。
さようなら。
目を開く。目の前の景色が滲んで見えた。
カノガミを見ると、彼女も涙を浮かべていた。
……。
石碑を離れて、3人で寺へと戻る。
「いつか、
「ええ。お兄ちゃんに迷惑かけてしまうけど……」
「大丈夫だよ。その時はみんなで来よう? 彼ノがみさんもきっと友達になれるよ」
舞が笑う。その顔を見た途端、言葉にできない感情が溢れた。
「そうね……みんなで……ありがとう」
「み、みーちゃん。泣かないで……」
◇◇◇
お兄ちゃんの家まで帰って来る頃にはすっかり夕方になっていた。
お兄ちゃんはなぜかマンションの外でウロウロしていた。
「なんじゃあジュンのヤツ。ウチを信用しとらんのぉ」
「きっとカノガミさんのことが大好きなんだね」
舞が言うとカノガミは夕焼けみたいな真っ赤な顔になった。
「ふ、ふぅん……舞がそう言うならそうなのか、の」
カノガミがお兄ちゃんに向かって走り出す。
「こらあああぁぁぁ!! ウチをもっと信用せんかあぁぁぁ!!」
「うわあああぁぁ!? 違うってぇぇ!?」
遠くでやかましいやり取りが繰り広げられる。
「あーあ。仲良しでいいなぁ2人とも」
「あれ? 私は舞と仲が良いつもりだけど?」
「ふふ。そうね。じゃあ私達も帰ろう」
舞と手を繋ぐ。その手はすごくあたたかくて、柔らかくて……。
なんだか、夕焼けが妙に眩しく感じた。
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