第29話 2/3

「いない?」


 手すりからみーちゃんが下を覗き込む。


「『飛ぶ』とか言っていたから飛び降りて浮遊するつもりだと思ったけど、リープしたか……」


--は、早く……。


 シッ! 静かにしろカノガミ。


-- お、重いのじゃあ……。


「まぁいいわ。棲家は分かったし」


 俺達のにいたみーちゃんは、そのまま、手すりから飛び降りた。


 ……。


 お、降りて大丈夫かこれ?


--もう気配はせん。大丈夫じゃ。 早く降りてくれぇぇ。


 うぉ!? 


 急に重力を感じた。


--はぁはぁはぁ。急に『天井に張り付けろ』なんて無茶なこと言うのぉ。


「物体の速度をイジるって電柱の時の応用だろ? だったら停止もできると思ってさ」


--死角があって良かったの。一瞬曲がったからなんとかなったもんじゃ。


「飛び降りるフリして手すりから天井に張り付くなんてなぁ。まぁ、直進なら本当に飛び降りるしかなかっただろ」


--な〜んか、説明的な口調じゃな〜?


「うるせぇ! というか、カノガミがやられたっていう力を使われなくて良かったな」


--実は……ウチがボコボコにされた時な、みーちゃんの力をチコっと奪ったんじゃ♡


「マジ?」


--マジのガチじゃ。元々は同じ存在じゃからのぉ。じゃから、みーちゃんの能力にも何かしらの制限がかかってるはずじゃ。


「そういや、みーちゃん、足首掴まれた時めちゃくちゃ怒ってたもんな」


--あの時はマジで殺されるかと思ったのじゃ。


 だけど、カノガミのおかげで圧倒的不利では無くなったみたいだな。助かった。


 にしても突然、カミバトル始まりすぎだろ……。



◇◇◇


 なんとか辿り着けたものの学校は酷い有様だった。全てが今まで通りなのに、小宮達だけがいない感じ。


小宮達の席が無い。


情報部の部室が無い。


配られていた学校新聞が無い。


無いものばかり目について嫌になる。



--ジュン。大丈夫か?


「あぁ。ちょっと動悸がするだけだ」


 人間態になったカノガミが手を繋いでくれた。


「比良坂さんを、探そう」


 比良坂さんのクラスに行って聞き込みすると、彼女は保健室に行くと言っていたらしい。


 中を覗くと、保健室の先生は席を外していた。


 3つあるベッドのうち、1番奥のベッドにカーテンが引かれていた。


「比良坂さん?」


「……っ!? 外輪君!?」


 ベッドには比良坂さんが横になっていた。


 カノガミ。俺達が話している間にみーちゃんが来たら教えてくれ。その時はリープして逃げる。


--分かったのじゃ。


「比良坂さんだよね? 小宮達を知ってる俺達の世界の……」


 という単語を聞いた比良坂さんは涙を流した。


「ごめんなさい……」


「比良坂さん。俺達は君を責めに来たわけじゃない。小宮達を助けるためにみーちゃんのことを知りたいんだ」


「みーちゃん……」


 比良坂さんが手を見つめる。


「みーちゃんは比良坂さんの妹じゃないんだよね?」


「うん。お母さんと2人でね。倒れてるあの子を見つけたんだ。警察に言おうとしたけど、私とお母さん意外には見えないみたいだった。それから一緒に住むようになって……」


「みーちゃんの本当の名前は?」


って言ってた。カミサマだって……」


 「かのがみ」……カノガミと同じか。


「私が『みーちゃん』って呼ぶようになった時はあんなに嬉しそうな顔していたのに」


「みーちゃんはなんで小宮達をリープさせたんだ?」


「リープ……分からない……みーちゃんはね。何を聞いても教えてくれなかった」


「頼む。何かきっかけになるような情報が欲しいんだ」


「そういえば、初めて会った日……みーちゃんに言われたの『舞の願い事は何?』って。それで私……『死んだお父さんにもう一度会いたい』って答えた」


--まさか。


 何か思い当たる節でもあるのか?


--ジュン。舞の父がなぜ死んだかを聞いてくれ」


「辛いことを聞いてごめん。お父さんはどうして亡くなったの?」


「私が8歳の時、交通事故で……」


--やはりか。みーちゃんは……舞の父を生き返らせようとしとるのじゃ。


 比良坂さんのお父さんを甦らせる? それってタイムリープを使ってか?


--違う。ジュンに話したように、舞に8歳へのタイムリープはさせられん。アヤツはつもりじゃ。


 は? 遺体の時間を巻き戻す? そんなことができるのか?


--できる。その人の骨や、髪、些細な物があれば。ぼんやりと覚えておる。ウチはかつて、一度だけその力を使った。


「な!? それだったら俺の」


--ダメじゃ。ダメなんじゃ。


「なんでだよ」


--ジュンに言わなかったのは、それが禁忌の力じゃからじゃ。生命の流れを反転させるには……タイムリープとは比べ物にならないエネルギーがいる。


「比べ物にならないエネルギー? それってどれくらいなんだ?」


--舞の父が亡くなったのは6年前。であればその10倍。60年ほどの寿命が必要じゃ。それも、舞の父への思い……それに少しでも近い感情を抱いた相手の方が良い。


「それって……」


 --みーちゃんは舞のをリープさせておるのじゃ。


 友達を!?


「外輪君?」


「あ、いや、なんでもないよ」


「私、一体どうしたら……私もみんなを助ける為に手伝いたい」


 比良坂さんに全て話すべきか……?


--マズイっ!! ジュン! みーちゃんがこちらに向かっておる!


 マジか!?


--リープして逃げるのじゃ!!


 まだ全然話を聞けてないぞ……どうする?


 そうだ!!


「比良坂さん! 1つだけ協力してくれるかな?」

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