え?何これ?なのじゃ!

第24話 1/4

 帰りの車の中。


「結局ソド子さんの件は良く分からなかったよね〜♪」


「お前は比良坂さんの写真撮りまくってただけだろ〜!」


「俺はほぼ意識がなかった」


「犬山君って意外に怖がりだったんだね」


 みんな思い思いにあの夜のことを振り返っている。


「みなさん。本当に申し訳ありませんでした……」


 アレ以降秋菜ちゃんは随分大人しくなった。


「準さんも本当に……」


「いいよ。みんなもコイツも無事だったし」

--ジュン。離れんでおくれ。


 カノガミは初日から俺の側を離れてくれない。よほど秋菜ちゃんのことが怖いのだろう。まぁでも、現役のカミを恐れさせるとは、芦屋あしやの力は脈々と受け継がれてるというわけか。


「俺さ〜なんだかあれから気がするんだよね〜。これが覚醒ってやつ?」


 逆に夏樹は調子がいい。あんなに泣き叫んでたくせに。


 初日以降は何のトラブルもなく夏樹の家を満喫できた。比良坂さんのテニスする姿は可愛かったなぁ。


「芦屋君のお家楽しかったね!」


 初日は浮かない顔をしていた比良坂さんもすっかり元通りだ。


「そんなそんな。比良坂さんならいつでも歓迎するよ〜」


「お兄様! だらしない顔をしないで下さい!」


 芦屋兄妹の微笑ましい? やり取りを見ていると、車が到着した。


「お、着いたぞ。本当にみんなここまででいいのか?」


「うん! ここからはみんな同じくらいの距離だしねー♪」



 全員で車を降りる。


「みなさん。ご迷惑をおかけしてしまった私が言うのも何ですが、また遊びに来て下さいね」


「あぁ。今度は秋菜ちゃんも一緒に遊ぼうよ」


 車を降りた後もみんな今回の話題を語り合っていた。


「私……情報部に入部してみようかな」


 比良坂さんがポツリとつぶやく。


「ホント〜!? 舞ちゃんが入ってくれたら情報提供率アップ間違い無しだよ♪」


「お前さ〜。もっと他に言うことあるだろ? あ、俺は大歓迎だよ〜」


「俺も比良坂が入部することに異論は無い」


 みんな賛成みたいだな。俺も比良坂さんが入ったら嬉しいな。


--マジ!? 舞が入るの? ウチはなぁ〜。


 いいじゃん! 人が多い方が楽しいだろ!


--ま、まぁ? ウチはジュンがデレデレしなければ別に〜。


 ちぇ。素直じゃないやつ。












「舞」





 比良坂さんを呼ぶ声が聞こえた。


 声がした方を見ると小さな女の子が立っている。


 黒いワンピースにショートボブの……ん? この子って……。


 あ! 比良坂さんの妹のみーちゃんだ。


「舞。お友達はできた?」


 あれ? この子ってこんなに大人びた話し方だったっけ。


 みーちゃんに声をかける。


「みーちゃん。比良坂さんのお迎え?」


「そうよ。お兄ちゃんは舞のお友達よね?」


「うん。ここにいるみんな比良坂さんの友達だよ」


「そう。1、2、3、4、5人いるのね。みんな同じ歳?」


「秋菜ちゃんだけ1個下だよ」


「そう」


 なんでそんなこと聞くんだろ?


 みーちゃんも仲間に入りたいのかな?


「なぁ外輪」


 犬山から声をかけられた。


「さっきから?」


「え? 誰って比良坂さんの妹の……」




 その時。みーちゃんが呟いた。




「全部で69分か」



 みーちゃんが手をかざす。




--ジュン!! 避けろおおおおぉぉ!!


 人間態のカノガミに腕を思いっきり引っ張られる。


 そのまま地面に体を強く打ち付けてしまった。



 痛ってぇ!! 何するんだよ!!


--リープしろ!!


 は? 何言ってるんだよ!


--早く!! 時間が無いのじゃ!!


 え?


 辺りを見回す。そこには座り込んだ比良坂さんと倒れた秋菜ちゃん……。


 あれ?




 は?




「あれ? みんなどこに?」


--できるだけ昔にリープするのじゃ!!


 カノガミがいつものカノガミじゃない。




「あーあ。2人外して42年になっちゃった」




 声のする方を向くとみーちゃんがこちらを見ている。


 それは、ゾッとする表情をしていた。


 何の感情もこもってない表情。俺達を物か何かとして見るような目。


 みーちゃんが俺の方へ手をかざす。


--うおおおおおおおおっ!!


 カノガミがみーちゃんへ向かって走る。


「アナタか。


 みーちゃんがそう言うと、カノガミは派手に地面へ倒れ込んだ。


--う……動けん……。


「アナタの。しばらく動けないわ。そこで見ていなさい」


--ジュン!!


「どれだけ力が残ってるか様子見していたけど大して残ってないわね。これならそこのお兄ちゃんに憑依する時、消しておけば良かった」


「みーちゃん。何を言って……」


--や、やめるのじゃ。


 カノガミが地面を這う。


 カノガミ!? 無理して動くなよ! 


--い、嫌じゃ!! このままではジュンも……。


「お兄ちゃんも車に轢かれて死んでいればよかったのに。あ、でもそれだとリープさせられないか」


 え? 車? それって、あの時の……。


--やめろおおぉぉ!


 カノガミがみーちゃんの


 「貴様!? 私に触るんじゃない!!」


 激昂したみーちゃんがカノガミの頭を蹴り飛ばす。


--ウグッ……。


 みーちゃんがカノガミを何度も何度も蹴る。しかし、カノガミは足首から手を離さない。


 「離せっ!! 汚らわしいっ!!」


 腹部を蹴られたカノガミが苦しげな表情を浮かべて手を離した。それでもみーちゃんはカノガミを蹴るのをやめない。


--い、痛い……。


「やめろ! やめてくれ!」


 止めたいのに身体が言うことを聞かなかった。


「うるさいっ!! ゴミのくせに!! !!」


 その時。


 急に世界にノイズが走った。


「ちっ……時間切れか」


 みーちゃんは比良坂さんの所へ歩いていく。そして、座り込む比良坂さんの所へ行くと、2人は


--リープしろジュン……このままだと……。


 カノガミがそう言った直後。



 猛烈な吐き気に襲われた。



 く、苦しい。



 頭が痛い。



 景色がすごい速さで移り変わっていく。



 だんだん自分が自分じゃなくなっていく気がする。


--ジュン。頼むからタイムリープしておくれ……。


 カノガミの泣きそうな声で反射的に呟いた。


「い、1週間」



 俺は……。

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